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2010年04月12日

新しい吸入インスリンが米国で申請 注射以外でインスリン投与

キーワード
医薬品/インスリン
 肺から吸入するインスリンを、近い将来に治療に使えるようになるかもしれない。
 米マンカインド社が開発した新しい吸入インスリン製剤「Afrezza」が昨年、米国食品医薬品局(FDA)へ新薬として申請された。
 専用のデバイスを用いて吸入するこの吸入インスリンは、速やかに吸収され持続時間が短いのが特徴となる。食事時に投与することで、低血糖を抑えながら血糖値を下げ、体重増加も少ないとしている。

 インスリン製剤は、患者の病態に合わせて、作用の発現時間や持続時間の異なるさまざまなタイプが治療に使われている。注入器の使い勝手は大きく向上し、注射針もより痛みの少ないものが開発されている。しかし、自己注射を恐れる患者は少なくなく、患者がインスリン療法をためらったために治療の開始が遅れた症例は多い。

 一方で、食後に血糖値が高くなる食後高血糖は、心筋梗塞などにつながる動脈硬化性疾患の危険因子として注目されており、早い時期から動脈硬化を抑える治療を始めることが必要となっている。

吸入インスリン「Afrezza」

パウダー状にした薬剤を吸い込んで服用する
 吸入インスリン「Afrezza」は、1型糖尿病と2型糖尿病の成人患者の血糖コントロールを適応とした新薬として開発が進められている。注射後の作用発現が短いタイプのインスリン製剤の代わりになると期待されているが、インスリンの基礎分泌を補う作用持続時間の長いタイプの代わりにはならない。マンカインド社は約5000人の成人患者を対象とした臨床試験を行い、2009年5月にFDAへ承認申請を行った。

 Afrezzaには、テクノスフィア(Technosphere)と呼ばれる新技術を投入している。乾燥したパウダー状の薬剤を吸入すると肺で溶解し、血流にとりこまれて速やかに作用する。作用は吸入してから12〜14分で最大になり、持続時間はおよそ3時間と短い。こうした速効性は生理的なインスリンの血中動態に似ており、インスリンの追加分泌を補い食後高血糖を改善するのに有効だ。消失も早いので低血糖の危険は比較的少ないという。

 専用のデバイスを用いて吸入し、インスリン製剤はカートリッジ式でとりかえられる。デバイスとインスリン製剤を、手の平に載るくらいに小型・軽量化し扱いやすくした。

 テクノフィアと吸入インスリンについては、米サンフランシスコで開催された「第239回米国化学学会(ACS)年次集会」で発表された。同社のAndrea Leone-Bay医師は「この吸入インスリンは、皮下注射して治療するインスリン製剤に比べ速効性がある。速やかに吸収され消失するので、低血糖も起こしにくい。インスリンは蛋白質であるため、経口投与をすると消化管内で速やかに分解されてしまうが、この技術であればインスリン以外にも注射で投与するさまざまな医薬品に適用可能だ」と述べている。

 「テクノフィア技術は、微小な分子の自己集合によって形成した粒子状物質を基礎としている。この粒子状物質に薬剤を注入し乾燥したパウダー状にする。患者が親指サイズの専用装置を用いて、塩ひとつかみと同じくらいの少量のパウダーを吸入すると、パウダーは血液に取り込まれた後で溶解する。薬剤が速やかに吸収されるので、作用が速く発現する。この技術を用いいくつかの医薬品については、ホルモン分泌のような体の自然な反応により近いという結果を得られた」とLeone-Bay氏は説明する。

 吸入器を使い口から吸い込むタイプのインスリンは、これまでにいかくつかが開発されており、海外で発売された薬剤もあるが、市場からはすでに撤退している。Afrezzaについても、長期間の使用により肺に悪影響をもたらすおそれが懸念されているが、同社では「これまでに登場した吸入インスリンに比べ、肺の障害をもたらすリスクは低い」としている。また、FDAはAfrezzaについて最新の安全性に関するデータを要求したが、安全性のための追加の臨床試験は要求しなかったという。

FDA Requests Additional Information Regarding AFREZZA in Complete Response Letter to MannKind(米マンカインド社)
Recent Publications about AFREZZ(米マンカインド社)
New form of insulin can be inhaled rather than injected(米国化学学会)

関連情報
世界で初めて「吸入インスリン」が欧米で認可(糖尿病NET)

[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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