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2013年05月24日

高齢者の糖尿病 高齢患者にとって望ましい治療を求めて

第56回日本糖尿病学会年次学術集会
 日本における高齢化は加速しており、高齢者の糖尿病も増えている。厚生労働省は2055年には65歳以上の割合が全体の4割に上ると推計している。第56回日本糖尿病学会年次学術集会(5月16〜18日、熊本市)で、シンポジウム「超高齢者における糖尿病診療の問題点」が開催された。
高齢者の血糖コントロールは難しい
 多くの高齢者では、加齢とともに耐糖能は低下していく。加齢にともなうインスリン分泌能の低下が影響しているが、運動不足、筋肉量の減少に伴うエネルギー消費の減少、内臓脂肪蓄積などによる末梢組織でのインスリン抵抗性の増大などの影響も大きい。

 高齢者の糖尿病も成人の糖尿病も、本質的な違いはないが、糖尿病をもつ高齢者には加齢にともなう生理機能の低下や、動脈硬化症をはじめとする個人差の大きい因子が加わる。

 高齢者糖尿病の健康寿命を維持するためにはどのような治療が必要なのかをあきらかにする目的で、「高齢者糖尿病に対する前向き大規模臨床介入研究(J-EDIT研究)」が行われた。2001年3月〜2002年2月に全国39施設より65〜85歳の中等度以上の耐糖能低下を示す1,173症例が登録され、治療目標値に向けた治療を行う強化治療群と、通常治療群の2群に分けられ、追跡調査が行われた。

 J-EDIT研究では、6年目の平均HbA1c値は通常治療群7.8%、強化治療群7.7%と差は得られなかった。多くの患者が既に経口血糖降下薬で治療を受けていたことや、同研究がインクレチン関連薬の発売前に開始されたこと、インスリン治療が必要であってもインスリン導入が行われていない症例が多かったことなどが背景にあるという。

 J-EDIT研究で示されたことは次の通り――
・高齢者糖尿病では血糖コントロールが不良のまま経過する例が多い。
・HbA1c8.8%以上の高血糖は脳卒中などの糖尿病合併症の危険因子となる。一方、HbA1c7.2%以下の良好な血糖コトンロールを維持していても合併症のリスクになるという、Jカーブ現象がみられる。
・脂質異常症や血圧の管理は、糖尿病血管合併症の予防とともに、認知機能低下の予防にもつながる。
・家事、仕事、余暇活動や運動を含めた身体活動量を高く保つことは、動脈硬化性血管障害、メタボリックシンドローム、ADL(日常生活動作)低下の予防につながる。
・低血糖はうつのリスクとなり、うつは脳卒中のリスクとなる。
・血圧や脂質の管理が認知機能低下の予防には重要である。
・200g以上の野菜、70g以下の緑黄色野菜の摂取はHbA1c、中性脂肪、体重などの良好なコントロールに結びつく。
・栄養の質・量の良い食事を続けると長寿につながる。

見逃されやすい高齢者の低血糖
 高齢者糖尿病の治療に大きな影響をおよぼす要因のひとつは低血糖だ。高齢者では肝・腎機能の低下によって薬物の代謝が遅延しているだけでなく、低血糖の自覚症状が軽微で、合併する神経障害をはじめとする種々の疾病の影響でさらに症状が出にくくなっている場合がある。

 高齢者の低血糖で重症合併症を併発しやすい要因としては、長期罹病、重症低血糖の既往、動脈硬化の進展、血糖コントロールの不良、自律神経障害の合併などが知られており、高齢者では1回の低血糖でも極力避けるべきだという。

 特に経口血糖降下薬のなかでも強い血糖降下作用をもつSU薬を使用する際には十分な配慮が必要となり、単独使用では低血糖の少ないDPP-4阻害薬やGLP-1受容体作動薬でも、SU薬での併用では注意を要する。

 高齢者糖尿病では、低血糖を回避することを念頭に置き、特にそのリスクが高いと考えられる患者では、低血糖の有無をいつも疑うこと、できるだけ低血糖を起こしにくい治療方法を選択することが大切となる。

 米国や欧州の高齢者糖尿病治療のガイドラインでは、健康な高齢者はHbA1c 7.0%未満としているが、虚弱な患者や低血糖のリスクが大きい高齢者は8.0%未満としている。日本糖尿病学会では、患者の状態を詳細に考慮した上で個別的な対応を行うことを呼びかけている。

 高齢者は冷汗、動悸、手のふるえなどの低血糖の自律神経症状が消失する場合が多く、めまい、ふらふら感などの症状や呂律不良、片麻痺などの神経症状が低血糖で現れることがある。これらは見逃されやすいので注意が必要だという。

運動で筋力低下や筋肉減少を防ぐことが大切
 多くの高齢者で加齢とともに身体活動は低下していく。いかに自立した生活を送れる体力を保っていくかが重要となっている。

 一般的に体力は、20歳台でピークに達し、その後は徐々に低下をたどり、高齢期には急激に低下が進行する。大事なことは、身体機能には「使えば発達し、使わなければ衰退する」という原則があり、日頃の状況によって個人差が生じてくることだ。

 特に高齢者においては、その影響が大きく、身体活動を積極的に保っていくことが身体機能の維持向上につながる。

 高齢者の耐糖能低下や糖尿病は、加齢に伴って出現するインスリン分泌不全とインスリン抵抗性が要因だが、最近では、筋力低下や筋肉量減少を指すサルコペニアによってインスリン抵抗性が惹起されることも懸念されている。

 筋肉は、インスリンの最大の標的臓器であり、筋肉量の減少はインスリン抵抗性・糖代謝に影響を及ぼす。また、基礎代謝の低下・活動量の低下などによってエネルギーバランスが過剰となり、脂肪量の増加もきたしやすくなる。

 最近では内臓脂肪が相対的に増加した「サルコペニア肥満」によってインスリン抵抗性が惹起されることも主因のひとつとして考えられている。

 サルコペニアの予防・治療としては、適切な運動療法を併せて実施することが重要であることが指摘されている。近年の研究から、高齢者や虚弱な人々でも身体活動を増やすことで健康を改善し、自立性を高めていくことができることがあきらかになってきた。運動療法は、血糖コントロールの改善にとどまらず、体力づくりによるQOLの維持・向上につながる。

 最大酸素消費量の40〜50%の中等度以下の強度の運動を1回10〜30分、週3〜5回程度実施することが目安となる。運動の種類としては、ウォーキング、自転車、水泳、体操など、全身の筋肉を使う有酸素運動が勧められる。体力が低下した高齢者は、軽いダンベル、タイヤチューブや軽いレジスタンストレーニングを併せて行うと効果的だ。

 高齢者は、感覚器や運動器に障害をもつ場合も多いため、特に運動習慣のない人がはじめる場合には、転倒などの事故をおこさないように注意が必要となる。少しでも身体活動を高めることによって、「悪循環」から「好循環」に転換していくことが重要となる。

第56回日本糖尿病学会年次学術集会

[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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