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2011年06月10日
マグネシウムと生活習慣病 現代の日本人の食生活はマグネシウム不足

多くの生活習慣病の病態の根底に、インスリン抵抗性(インスリンの効きが悪い状態)という共通因子があります。何らかの原因で生じたインスリン抵抗性に対して、日本人はもともと農耕民族でインスリン分泌能が欧米人に比べて弱く、インスリン分泌の代償不全を起こし、容易に糖尿病を発症すると考えられます。
マグネシウム摂取量が少ない群からの糖尿病発症が有意に多いという報告や、マグネシウム摂取量が多いと糖尿病発症リスクが10〜20%減るという報告があります。さらに、マグネシウム摂取量が多いと炎症性マーカ濃度(IL-6、高感度CRP)が低いことが報告され、動脈硬化との関連でも注目されています。
原因としては、腹部肥満に基づくインスリン抵抗性の他に、慢性的なマグネシウム摂取不足によるインスリン抵抗性がありますが、特に、戦後、マグネシウムの慢性的摂取不足に陥っていることが大きく関わっているとみられます。これが日本人はあまり太っていなくても糖尿病になりやすいことを説明できる“マグネシウム仮説”なのです。
マグネシウムは神経、筋肉の伝達にも関与しており、不足すると“こむら返り”が起きやすくなります。こむら返りは痛みを伴う筋肉の痙攣のことで、運動時に起こるほか、糖尿病や肥満の患者さんでみられます。血行障害や十分な栄養を補給できなていないことが原因である場合には、マグネシウムを補充すると有効なことが知られています。

成人では、体内に約20g〜30gが存在し、その60〜65%が骨や歯の構成成分となっており、残りは筋肉や脳・神経にあります。多くの種類の酵素を活性化する働きがあり、細胞内外のミネラルバランスを調整する働きは特に重要です。筋肉の収縮や神経情報の伝達、体温・血圧の調整にも使われています。
日本人で推奨されているマグネシウムの1日摂取量は30〜49歳の男性で370mgです。一方で、厚生労働省が実施した「平成20年国民健康・栄養調査」によると、マグネシウムの平均摂取量は30〜49歳の男性では243mgとなっています。平均120mg以上のマグネシウムが毎日不足していると推定されます。
戦後、日本人の昔からの伝統的な食生活が大きく変化し、特に大麦や雑穀などの全粒穀物の摂取が減りました。逆に高脂肪、高カロリーの摂取が増え、結果としてマグネシウムの摂取量が減少したと考えられます。
また、日本では1972年に塩田法が廃止されるまでは、精製されていない粗塩(あらじお)が多く使われていました。粗塩にはマグネシウムをはじめとするミネラルが多く含まれます。また、ライフスタイルの変化に伴い、外食やファストフードを利用する習慣が増え、日本人は塩分を摂り過ぎています。塩分の過剰摂取により、体内からのマグネシウムの排泄が増え、マグネシウムはさらに不足気味になりました。
また、日本人の食卓には食塩を含む食品がたくさんあるため、ついつい食塩を摂りすぎてしまいがちです。普段の食事の塩分を減らし、塩分を控えることを心掛ける必要があります。加えて、運動を習慣的に行うことが、2型糖尿病やメタボリックシンドロームの予防・改善につながります。
マグネシウムは健康長寿に必須・主要なミネラルです。食生活で意識してマグネシウムを摂るために、私は「そばのひ孫と孫は優しい子かい?納得!」という標語を提唱しています。

食事だけからの補充が難しい場合は栄養機能食品(マグネシウム)など健康食品やサプリメントを利用することもひとつの手段です。実際、マグネシウムの補充がインスリン抵抗性を改善して血糖のコントロールを良くし、高血圧、脂質異常症にも大きな効果を発揮することを実証した臨床研究もあります。
マグネシウムと生活習慣病に関しては、「MAG21研究会」のホームページでも詳しく解説しています。
- Lopez-Ridaura R, et al., Diabetes Care 27:134-140, 2004
- Larsson SC,et al., J Intern Med 262:208-214, 2007
- Song Y, et al., Diabetes Care 27:59-65, 2004
- Kim DJ, et al., Diabetes Care 33:2604-2610, 2010
- 横田邦信:2型糖尿病発症−インスリン分泌とインスリン抵抗性へのマグネシウムの関与. 分子糖尿病学の進歩−基礎から臨床まで−2006. pp108-116, 金原出版, 東京, 2006
- Rodriguez-Moran M, et al., Diabetes Care 26:1147-1152, 2003
- Yokota K, et al., J Am Coll Nutr 23:506S-509S, 2004
- Guerrero-Romero F, et al., Diabetes Metab 30:253-258, 2004
- He K, et al., Circulation 113:1675-1682, 2006
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