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2023年01月23日

「受動喫煙」が糖尿病リスクを高める 危険なのはタバコの煙だけではない

 タバコはさまざまな健康被害をもたらす。自身がタバコを吸っていなくとも、周囲に喫煙者がいて、望まない受動喫煙により被害を受けている人は少なくない。

 タバコの煙に含まれる有害な物質が、体や衣服などに付着し、禁煙スペースまで運ばれ、近くにいる人々に悪影響をもたらしている可能性も指摘されている。

 衣類や髪などに付着したタバコの有害成分は、肺や肝臓に損傷を与え、さらには2型糖尿病のリスクも高めることが明らかになっている。

望まない受動喫煙による健康被害は深刻

 受動喫煙に起因する年間死亡数は世界で60万人とされている。日本でも、受動喫煙により年間に1万5,000人が、肺がん、虚血性心疾患、脳卒中に罹患し死亡していると推計されている。

 国立がん研究センターなどの研究をもとにした「喫煙の健康影響に関する検討会報告書」によると、受動喫煙がもたらす健康被害として、▼がん、▼虚血性心疾患や脳卒中などの循環器疾患、▼呼吸器への急性影響、▼慢性呼吸器疾患、▼母子への影響などがある。

 受動喫煙による健康被害はさらに深刻であることが、最近のさまざまな研究で浮き彫りになっている。受動喫煙による被害は、喫煙者だけでなく、その子供や孫の代の健康にまで悪い影響をもたらしている可能性があるという。

 タバコを吸う習慣のある人に禁煙を勧め、望まない受動喫煙をなくすために、さらに強力な施策が必要とされている。

危険なのはタバコの煙だけではない 「残留受動喫煙」とは?

 米国のイェール大学によると、タバコの煙に含まれる有害な物質は、体や衣服などに付着し、禁煙スペースまで運ばれ、近くにいる人々に悪影響をもたらしている可能性がある。

 これは、「サードハンド・スモーク(残留受動喫煙)」とも呼ばれるもので、タバコを吸う人は、自身が有害物質を吸い込んでいるだけでなく、周囲にも有害物質を広げていると考えられている。

 たとえば、「喫煙所でタバコを吸っていた人が部屋に戻ってくると、タバコの匂いがする」「喫煙所から離れていても、タバコの匂いがする」と感じたことはないだろうか。これだけでも、残留受動喫煙の被害を受けているおそれがある。

 「残留受動喫煙による煙は、衣服や髪の毛などに付着し、非喫煙環境にも大量に移動している可能性があります。たとえば、喫煙者がいない部屋にいるときでも、前の時間にその部屋にいた人がタバコを吸っていた場合は、目には見えなくとも、タバコの煙に含まれる有害な物質が残っていると考えられます」と、同大学化学環境工学のドリュー ゲントナー氏は言う。

タバコの有害物質が体や衣服などに付着

 研究グループは、映画館に高感度の分析機器を設置し、気体や粒子として残っている数千の化合物を1週間にわたり追跡して調査した。

 その結果、タバコの煙に含まれるさまざまな揮発性の有機化合物は、喫煙する可能性が高い特定の観客が映画を観にきたときに劇的に増加した。

 タバコに含まれている有害成分が、壁や椅子、家具、カーテンなどにもしみ込んでいると考えられる。これらの有害な物質の量は、1時間に1~10本のタバコの受動喫煙にさらされた場合とおなじくらいだったときもあるという。

 「公共交通機関やオフィス、家庭、バーなどの換気の悪い場所では、第三者からのタバコの煙の排出により、有害な物質の濃度がかなり高くなる可能性があります。公共的な場所での喫煙の規制を徹底して行う必要があります」と、ゲントナー氏は指摘している。

タバコの有害成分は糖尿病のリスクも高める

 カリフォルニア大学による別の研究では、衣類や髪などに付着したタバコの有害成分は、肺や肝臓に損傷を与え、さらには2型糖尿病のリスクも高めることが明らかになっている。

 「残留受動喫煙は、血糖値を下げる作用のあるインスリンの働きが悪くなるインスリン抵抗性を引き起こすことが、マウスを用いた実験で分かりました」と、同大学で細胞生物学と神経科学を研究しているマヌエラ マーティンズ-グリーン教授は言う。

 「人間でも同じような結果になると予測され、タバコの煙による環境汚染は深刻であることが示されました。とくに子供と高齢者では、受動喫煙がもたらす健康への影響は深刻です」としている。

 研究グループは、残留受動喫煙にさらされたマウスで細胞の酸化ストレスが増え、DNAにも損傷があらわれ、高血糖と高インスリン血症がもたらされることを確かめた。

受動喫煙は将来の世代の健康リスクも高める

 オーストラリアのメルボルン大学による別の研究によると、親が子供の頃に受動喫煙にさらされていた場合、生まれてきた子供は喘息を発症するリスクが高くなる。

 タバコの煙がもたらす健康への悪影響は、喫煙者とその子供だけでなく、孫にまで残ってしまう可能性があるという。

 研究グループは、呼吸器疾患に関する世界最大規模のコホート研究である「タスマニア縦断健康調査(TAHS)」に参加した1,689人の子供・父親・父方の祖父母を対象に調査を行った。

 その結果、父親が子供の頃に受動喫煙にさらされ、自分自身も成人してから喫煙し続けた場合、生まれた子供の喘息の発症リスクは72%高くなることなどが分かった。

 「喫煙による被害は、喫煙者だけでなく、その子供や孫の健康にも悪い影響をもたらす可能性が示されました。子供の頃に受動喫煙にさらされていた男性でも、ご自身がタバコを吸わなければ、自分の子供に健康リスクが引き継がれるのを回避できると考えられます」と、同大学公衆衛生学部のディン ブイ氏は言う。

 受動喫煙にさらされていた子供が成長して大人になったときに、生まれてくる子供はアレルギーや肺疾患などを発症するリスクが高くなる可能性もあり、研究グループは引き続き調査を続けるとしている。

なくそう!望まない受動喫煙。(厚生労働省)
喫煙と健康 喫煙の健康影響に関する検討会報告書 (厚生労働省)
科学的根拠に基づくがん予防 - 国立がん研究センター「がん情報サービス」

Third-hand smoke is no joke, can convey hazardous chemicals (イェール大学 2020年3月4日)
Human transport of thirdhand tobacco smoke: A prominent source of hazardous air pollutants into indoor nonsmoking environments (Science Advances 2020年3月4日)
Thirdhand smoke linked to type 2 diabetes: Study has health implications for nonsmokers living in homes that have (or had) smokers (カリフォルニア大学 2016年3月2日)
A Health Threat to Bystanders Living in the Homes of Smokers: How Smoke Toxins Deposited on Surfaces Can Cause Insulin Resistance (PLOS ONE 2016年3月2日)
Second-hand smoke a possible asthma risk for future generations, study finds (メルボルン大学 2022年9月5日)
Pre-pubertal smoke exposure of fathers and increased risk of offspring asthma: a possible transgenerational effect (European Respiratory Journal 2022年10月6日)
'No level of smoke exposure is safe': Study links secondhand smoke during pregnancy to epigenetic changes in babies (バージニア コモンウェルス大学 2021年5月19日)
DNA Methylation in Babies Born to Nonsmoking Mothers Exposed to Secondhand Smoke during Pregnancy: An Epigenome-Wide Association Study (Environmental Health Perspectives 2021年5月19日)
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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