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2022年05月27日

1型糖尿病のプロ野球選手やモデルが活躍 糖尿病に対する無理解や偏見を打ち破る

 1型糖尿病に対する社会の無理解や偏見に対し挑戦するプロ野球選手やファッションモデルの活躍が大きく注目されている。

 「糖尿病は、夢を実現するのを妨げる障害にならない」「糖尿病に対し注意を払い、適切な教育を受け、糖尿病をコントロールできていれば、やりたいことを何でもできる」と、力強くコメントしている。

1型糖尿病の治療は進歩している

 1型糖尿病は、膵臓のβ細胞が破壊され、体内でインスリンを作れなくなり発症する。β細胞が壊される原因ははっきりと分かっていないが、免疫作用が正しく働かないことで、自分の細胞を攻撃してしまうこと、つまり「自己免疫」が関わっていると考えられている。

 1型糖尿病の治療法は、絶対的に不足しているインスリンを、注射などで補充すること。患者は1日4回程度の注射やインスリンポンプにより、インスリンを補充している。食事療法や運動療法が必要となる2型糖尿病とは、治療の考え方はまったく異なる。

 インスリンポンプとは、インスリンを持続的に注入する小型のポンプ。柔らかく細いチューブからインスリンが自動的に注入される。

 インスリンポンプであれば、簡単なボタン操作で、インスリンの注入量や注入タイミングを調整できる。最近は、連続的にグルコース値を測定する持続血糖モニター(CGM)と組合わせたインスリンポンプも登場している。

 CGMがあれば、血糖値がリアルタイムに分かるので、1日の血糖変動を知ることができ、インスリン量の調節なども容易になる。

1型糖尿病とともに生きるファッションモデル

 ライラ モスさんは、ファッションモデルとして活躍しながら、自身が1型糖尿病であることを公言しアピールしている。ショーでは、インスリンポンプやCGMを身に付け、隠さずに見せながら、ランウェイを歩き通した。

 モスさんは、1型糖尿病とともに生きる人に向けて、「あなたはひとりぼっちではない。インスリンポンプや注射器、血糖測定器、持続血糖モニターなど、生命を維持するために必要な医療機器を使用することを恥じなければならない理由はない」と言う。

 モスさんの勇気のある行動はSNSで世界中の多くの人に賞賛され、「糖尿病を隠さないでくれてありがとう」「インスリンポンプを誇らしげに見せてくれて嬉しい」といった投稿が相次いだ。

 「外から見ただけでは、私が糖尿病であることは誰にも分かりません。でも、私は1型糖尿病です」と、モスさんは言う。

ライラ モスさんは、ファッション誌のインタビューに答え、インスリンポンプや低血糖対策のグルコースをいつも持ち歩いていることを披露した

1型糖尿病のメジャーリーガーが大活躍

 米国のメジャーリーグのアトランタ ブレーブスで活躍するプロ野球選手であるアダム デュバルさんも1型糖尿病だ。デュバルさんは、23歳の時に1型糖尿病と診断された。しかし、野球選手になる夢をあきらめなかった。

 デュバルさんは、糖尿病とともに生きる野球選手として、2021年にはリーグ最多となる打点を記録し、打点王のタイトルも獲得、ポストシーズンにはワールドシリーズに進出し、26年ぶりの優勝に大きく貢献するなど、大活躍をしている。

 米国糖尿病学会(ADA)によると、米国で1型糖尿病とともに生きる人の数は190万人。うち24万4,000人が小児・若年者だ。子供や若年で発症することが多く、かつては若年性糖尿病とも呼ばれていたが、デュバルさんのように、成人してから1型糖尿病を発症する人も少なくない。

彼を妨げるものは何もない アダム デュバル選手が1型糖尿病を語る

糖尿病は夢を実現するのを妨げる障害にならない

 デュバルさんは、1型糖尿病の研究・教育・アドボカシー活動を支援する活動をしている非営利組織であるJDRFのインタビューに、次のように答えている。

 「糖尿病は、あなたが夢を実現するのを妨げる障害にはならない。私はプロ野球選手として活躍し、1型糖尿病ととともに生きるすべての人のために、そのことを証明したかった」。

 デュバルさんは毎日、CGM付きのインスリンポンプを身に付けて、試合に出場している。「1型糖尿病と診断されてから10年が経過したいま、糖尿病のコントロールについて、かなり理解できてきました。しかし、糖尿病とともに生きる日々はいまだに挑戦的で、絶え間ない努力が必要です」と、デュバルさんは言う。

 デュバルさんは、自分と同じように糖尿病とともに生きる若いファンと話すのが好きだという。「糖尿病に対し注意を払い、適切な教育を受け、糖尿病をコントロールできていれば、あなたはやりたいことを何でもできるはずです」と言う。

野球場での血糖コントロールは工夫と努力が必要

 サム ファルドさんも、1型糖尿病とともに生きる元メジャーリーガーだ。10歳で1型糖尿病と診断されたが、野球選手になる夢を実現し、シカゴ カブスやオークランド アスレチックスなどで活躍してきた。現在は、ゼネラルマネージャーを務めている。

 「Beyond Type 1」は、1型糖尿病の研究や教育、世界中の糖尿病コミュニティをつなげる活動などを展開している非営利組織。ファルドさんは、Beyond Type 1のインタビューに答えて、次のように話している。

 「選手としての体調やルーチンは毎日違うのですが、野球場での血糖コントロールは、おおむねうまくいっていたと思います。打撃や守備で体を激しく動かすときも、ダグアウトでは血糖値やインスリン量をチェックするなど、調整を重ねてきました」。

 「米国は広いので、球場への移動に時間がかかるときなど、インスリン量の調整が難しいこともありますが、時差はせいぜい3時間です。工夫と努力を積み重ねることが大切です」。

 「むしろ悩まされていたのは、試合中ではなく、夜間の高血糖などです。食事ではカーボカウントをしています。アスリートにとって、炭水化物は重要な栄養素です。ただし、脂肪の摂り方には注意が必要です。夜にピザやハンバーガーなど、脂肪の多い食物を摂ると、その後に血糖値が上昇してしまいます」。

サウスフロリダ大学に協力し、スポーツ中心の糖尿病キャンプを主導
糖尿病の子供たちにスポーツを教え、支援する活動もしている

糖尿病に対する社会の無理解や偏見は変えられる

 「1型糖尿病の子供のためのサーマーキャンプに招待され、子供たちから質問攻めを受けたのをよく覚えています。"糖尿病とどう付き合えば、野球選手として活躍できるのか?""インスリンポンプを装着したままプレイをするコツは?"といったことです」。

 「同時に、子供たちから学ぶことがたくさんあることに気付かされました。ある子供は、脚と腰のあいだにインスリンポンプを装着し、滑らないようにして、野球をする方法を教えてくれました」。

 ファルドさんは、糖尿病をとりまく固定観念や偏見が変化しはじめた頃に、1型糖尿病と診断されたことについて回想している。

 「カブスで活躍し、三塁手の殿堂入りを果たしたロン サントス選手のことをよく思い出します。彼が1960年代に1型糖尿病を発症したとき、それを隠さなければなりませんでした。当時は、糖尿病のある人が運動選手として活躍できるとは、誰も考えていなかったのです」。

 ファルドさんは現在、サウスフロリダ大学に協力し、スポーツ中心の糖尿病キャンプを主導し、すべての糖尿病の子供たちにスポーツを教え、支援する活動をしている。若いスポーツの指導者に1型糖尿病について教える活動もしている。

 「どんな健康上の背景のある人も、平等に活躍するチャンスを手にするべきです。糖尿病について知らないことが、誤った理解や偏見を生むことにつながります。糖尿病のついてよく知らないコーチを責めることはできません。彼らは単に知らないだけなので、教えてあげれば良いのです」。

 ファルドさんは、4人の子供をもつ父親でもある。「糖尿病の子供をもつ保護者の方々を尊敬しています。毎日のインスリン注射や血糖測定、食事、夜間の血糖コントロールなど、糖尿病の子供のお母さんやお父さんは、毎日ハードな仕事についているようなものです」と言う。

 「インスリン製剤、インスリンポンプやCGMなどのデバイスの進歩により、糖尿病の子供をもつ保護者の負担を軽くすることを願っています」としている。

Statistics About Diabetes (米国糖尿病学会)
1型糖尿病とともに生きる (米国糖尿病学会)
Talking T1d With Sam Fuld: Major League Baseball Player And Dad (Beyond Type 1 2021年9月16日)
Type 1 Diabetes Camp Changes A Major League Baseball Player'S Life (Beyond Type 1 2022年5月13日)
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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