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2022年05月25日

【香川県の糖尿病対策】野菜も食べる「うどん県」に進化 糖尿病は「県民病」


 讃岐うどんの本場・香川県は、全国でも糖尿病の人が多い県だ。糖尿病による死亡率は3番目に高い。

 そこで、"県民病"ともいえる糖尿病を克服しようと、県を上げて糖尿病対策に取り組んでいる。

 「"野菜食べん県"から"野菜も食べるうどん県"へ」というスローガンを掲げ、「ヘルシーうどん」を提案。

 糖尿病専門医を中心に糖尿病対策検討会を設置し、保健・医療など幅広い分野の専門家も委員に加え、積極的に活動している。

糖尿病は香川県の「県民病」

 讃岐うどんの本場・香川県は、全国でも糖尿病の人が多い県だ。人口10万人当たりの糖尿病有病数は、2017年に全国で8番目に多く、糖尿病による死亡率は3番目に高い。とくに若い人で、血糖コントロールや肥満の悪い傾向がみられるという。

 糖尿病がもたらすおそれのある、心疾患や脳卒中などの循環器疾患も深刻だ。心疾患は日本人の死因の2位、脳卒中は3位で、これらの総数は1位のがんとほぼ並ぶ。県民の死因も、がんに次いで心疾患が多い。

 そこで、"県民病"ともいえる糖尿病を克服しようと、県を上げて糖尿病対策に取り組んでいる。このほど、県民の健康寿命を3年以上延ばし、人口10万人あたりの循環器疾患による死者数を8%下げることなど盛り込んだ計画も策定した。

「糖質とりすぎ」「野菜は少なすぎ」 糖尿病克服への挑戦

香川県「ヘルシーうどん店マップ」
 県民のうどん好きを背景に、糖質の摂り過ぎや、野菜摂取の少なさなどが指摘されている。県民の食生活は、1日に摂取する野菜の量は目標よりおよそ80g不足し、食塩の量は目標より8g多い。

 県が2016年に行った調査によると、うどんを週に1~2回以上食べる県民の割合は、男性の5割、女性の4割に上る。県内のうどん店の数は全国1位で、コンビニよりも多いという。

 県によると、うどん自体は悪くないが、食べ方が問題だという。調査では、うどんを食べる人の野菜摂取量は240gで、野菜が100g以上不足していることが判明した。

 そこで、官民を挙げた取り組みを開始し、「かがわ食育アクションプラン」を立ち上げた。「"野菜食べん県"から"野菜も食べるうどん県"へ」というスローガンを掲げ、「1日3食まず野菜!」と、うどんと一緒に野菜を食べるよう呼びかけている。

 1食で食物繊維の1日の必要量の3分の1を摂れるうどんを開発したり、コンビニの総菜を使い自宅で手軽に作れる野菜の豊富な「ヘルシーうどん」のレシピを提案。野菜の小鉢やサラダうどんなどをメニューに取り入れている店をまとめた「ヘルシーうどん店マップ」も作成している。

糖尿病の治療を中断し糖尿病が重症化

かがわ糖尿病予防ナビ
 県が行った「2016年度糖尿病実態調査」によると、糖尿病で受診したきっかけの半数は健診だが、受診を勧められても、すぐに受診していなかった人が2割、治療中断の経験のある人も2割に上った。

 糖尿病の治療を中断してしまうと、合併症のリスクが上昇する。調査では、治療中断したことのある人は、糖尿病が重症化しやすいことも分かった。

 治療中断の理由は、男性では「仕事で忙しいため通院できなかった」(48%)、「治療がおっくうになった」(31%)、「自覚症状がない」(23%)が多かった。

 香川県は、2009年から、糖尿病専門医を中心とした委員で構成する糖尿病対策検討会を設置し、地域の医療機関などの協力を得て、糖尿病の実態調査の分析にもとづき対策を進めている。

 2012年からは、保健・医療に関わる団体など、幅広い分野の専門家も委員に加え、糖尿病の発症予防と重症化防止策を検討している。

 2014年には、糖尿病専用のウェブサイト「かがわ糖尿病予防ナビ」も開設。血糖値が高い状態が続く糖尿病の初期症状などを分かりやすく解説しているほか、県栄養士会の協力を得て、野菜をふんだんに取り入れ、栄養バランスに配慮した食事レシピを紹介している。

 生活習慣の改善の一助にしてもらおうと、運動メニューでは、無理なく続けられるウォーキングの取り組み方や、下半身の筋肉を強化するための運動方法などについても紹介している。

香川県が実施している糖尿病対策

  • ライフステージに応じた健康づくりの推進
     学童期、青年期、壮年・中高年期まで、ライフステージに合わせた健診を進めている。健診を受けるのがおっくうになりやすい忙しい働き盛り世代にも、産業医などと連携して受診を促している。

  • スキルアップ研修会
     医師・保健師・管理栄養士などを対象に、発症予防だけでなく、重症化予防に重点をおいた支援ができるように、研修会を実施している。糖尿病の療養支援などについての講義や、情報交換を目的としたグループワークを行うなど、治療を効果的に継続するための連携体制や療養指導ついて学びを深めている。

  • エクササイズ習慣化事業
     2型糖尿病や肥満を予防・改善するために、適度な運動習慣を身につけられるよう、企業や地域で行う健康講座などに、健康運動指導士の派遣などを行っている。

  • 小児生活習慣病対策
     2型糖尿病や肥満に対策するために、子供の頃から望ましい生活習慣を身につけることも大切。県民に、家族ぐるみで生活習慣の改善を推進してもらうよう対策している。

  • 小児生活習慣病予防健診
     生活習慣病のリスクの高い子供を早期発見するために、小児健診や生活習慣の実態調査なども実施している。すべての児童と保護者に、健康教育を行い、将来に2型糖尿病や肥満を発症するリスクを減らすことを目指す。

希少糖「D-アルロース」を活用した新たな糖尿病食を開発

 香川大学は2021年に、同大学発の希少糖である「D-アルロース」を用いた、新たな糖尿病食の開発について、成果報告会を実施した。

 希少糖D-アルロースは、食後血糖値の上昇抑制、脂肪蓄積や動脈硬化の抑制など、糖尿病やメタボリックシンドロームの予防効果をもつことが、同大学の実証研究で確かめられている。香川県の2型糖尿病や肥満の改善にも役立てることが期待されている。

 同大学は、糖尿病患者の血糖上昇の抑制を目指し、D-アルロースを含む病院食の開発に取り組んでいる。

 実施した試験では、カロリー制限した通常の糖尿病食と比較して、同じ糖尿病食にD-アルロースを含有した場合、食後の血糖上昇の抑制や、インスリンの分泌量の抑制効果がみられた。

 D-プシコースは、同大学を中心に県内で研究・開発が進み、大量生産の技術も確立されている。2021年には全国販売も開始された。

 「産学官連携による取り組みで、希少糖が県経済の成長の原動力となっていくよう、プロジェクトを推進していく」と、同大学では述べている。

かがわ糖尿病予防ナビ (香川県)
香川県の糖尿病の現状 (香川県)
かがわの食育おいしいね!かがわネット (香川県)
体においしい簡単レシピ (香川県栄養士会)
希少糖の健康・医療分野への利用 (香川県)
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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