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2021年08月19日
糖尿病治療薬が認知症リスクを軽減 DPP-4阻害薬やメトホルミンが脳の健康を守る?
血糖値を下げる2型糖尿病の薬を服用することで、認知症のリスクを減少できる可能性が示された。
2型糖尿病がアルツハイマー病のリスクを2倍に高めるという報告もあり、糖尿病の治療薬により認知機能の低下や、認知症の発症を抑える研究は注目されている。
2型糖尿病がアルツハイマー病のリスクを2倍に高めるという報告もあり、糖尿病の治療薬により認知機能の低下や、認知症の発症を抑える研究は注目されている。
糖尿病の薬に脳を守る作用がある?
血糖値を下げる2型糖尿病の薬を服用している人は、薬を服用していない人に比べ、アルツハイマー病の発症リスクが低いという研究を、米国神経学会が発表した。
アルツハイマー病は、認知症でもっとも多い疾患で、時間の経過とともに次第に進行していく。今回の研究では、糖尿病の治療薬により、アルツハイマー病の発端となる「アミロイド」の蓄積を抑えられる可能性が示された。
アルツハイマー病の患者の脳では、認知機能が低下する10年以上前から、アミロイド呼ばれる毒性のあるペプチドがたまる。アミロイドの蓄積により神経細胞が壊されて、アルツハイマー病の発端となるので、これを抑えることが治療や予防では重要と考えられている。
DPP-4阻害薬を服用している患者は脳内のアミロイドが少ない
「DPP-4阻害薬」は、日本でもっとも多く処方されている糖尿病治療薬だ。DPP-4阻害薬は、食後の血糖値が上昇しそうになったときだけ、インスリンの分泌を促進させる。
食事をして小腸からブドウ糖が吸収されると、インクレチンというホルモンが血中に分泌され、膵臓からのインスリン分泌を促進する。インクレチンは短時間で血中のDPP-4という酵素によって分解される欠点があるが、DPP-4阻害薬はこのDPP-4の働きを抑え、インクレチンを分解されにくくする。
その結果、インクレチンの作用が高まり、食後のインスリン分泌を増やし、血糖値を下げる。単剤使用では低血糖が起こりにくく、体重増加も起こりにくいという利点もある。
研究では、DPP-4阻害薬を服用していた患者は、この薬を服用していない、もしくは糖尿病のない人の両方に比べて、アルツハイマー病のバイオマーカーとなる脳内のアミロイドが少なく、認知機能の低下が遅いことが分かった。
DPP-4阻害薬が認知機能の低下を抑制?
研究は、韓国の延世大学校医科大学によるもので、記憶力や思考力の障害を感じ受診した平均年齢76歳の男女282人が参加した。
参加者のうち70人が糖尿病でDPP-4阻害薬による治療を受けており、71人は糖尿病だが薬物治療を受けておらず、141人は糖尿病ではなかった。研究開始時の認知テストでは、全員が同様のスコアを示した。
脳内のアミロイド量を測定するために脳スキャンを行った結果、DPP-4阻害薬を服用していた患者は、他の患者に比べ、脳内のアミロイドの蓄積量が少ないことが分かった。
参加者の全員が、思考力と記憶力を調べる「ミニメンタルステート検査(MMSE)」を12ヵ月ごとに2.5年間受けた。DPP-4阻害薬を服用していなかった患者のスコアは平均で1.65ポイント低下し、糖尿病でない患者では1.48ポイント低下したのに対し、DPP-4阻害薬を服用していた患者は0.87ポイントの低下にとどまった。
この検査に影響を与える可能性のある他の要因について調整した結果、DPP-4阻害薬を服用していた患者は、認知機能の低下が年間に0.77ポイント遅くなることが明らかになった。
処方された薬を指示通りに飲み続けることが大切
「糖尿病の人が高血糖の状態が続くと、脳内のアミロイドベータの蓄積が関連し、アルツハイマー病のリスクが高くなると考えられます。今回の研究では、DPP-4阻害薬で治療をした患者では、脳全体のアミロイドが少ないだけでなく、アルツハイマー病に関連する脳の領域でも低いレベルが示されました」と、延世大学校医科大学のフィル ヒュウ リー氏は言う。
アルツハイマー病の病態はとても複雑であり、病気の治療や予防をするために、病気の背後にあるさまざまなメカニズムを考慮しながら、いろいろな薬剤を組み合わせながら治療が行われている。
「糖尿病の治療薬は、脳の認知機能の低下を抑制するのに有益である可能性があります。ただし、このことを証明するためには、今後、より精度の高いランダム化比較試験が必要となります」としている。
「糖尿病患者さんは、医師から処方された薬を、指示通りにきちんと服用し続けることが大切です」と指摘している。
メトホルミンが認知症リスクを低下?
インスリン抵抗性は脳にも起る メトホルミンで改善
オーストラリアのガーヴァン医学研究所が、1,037人の高齢者(70~90歳)を対象に6年間調べた研究で、メトホルミンの服用が、認知機能の低下の遅延や、認知症の発生率の低下と関連があることが明らかになった。
「メトホルミンは、2型糖尿病の治療に60年間利用されている実績があります。メトホルミンは安価で、多くの国で2型糖尿病の治療の第一選択薬となっており、世界中で数百万人もの人々が血糖値を最適化するために利用しています」と、同研究所のキャサリン サマラス教授は言う。
「私たちは、認知症のリスクのある患者とその家族にとって、人生を変える可能性のある、安全で広く行える治療法を開発したいと考えています。メトホルミンは、血糖値を下げる作用があるのに加えて、認知症の治療でも広く利益をもたらす可能性があります」としている。
研究の参加者のうち、123人が2型糖尿病で、67人がメトホルミンを服用していた。参加者は、記憶力、実行力、注意力と速度、言語などの多くの機能について測定する認知機能テストを2年ごとに受けた。
その結果、メトホルミンを服用していた2型糖尿病患者は、服用していない患者に比べ、認知機能の低下が遅く、認知症のリスクが低いことが明らかになった。
さらには、メトホルミンを服用していた2型糖尿病患者は、糖尿病ではない患者に比べても、認知機能の低下は6年間で差がなかった。
大規模な臨床試験を計画
糖尿病やインスリン抵抗性が脳の血管を障害したり、神経組織の変性に関与している可能性がある。メトホルミンは、こうした血管や神経組織の障害を抑制するように働く可能性がある。
現在、認知症リスクのある患者を対象としたメトホルミンによる大規模なランダム化比較試験も計画されており、メトホルミンの認知機能の低下を防ぐ効果が3年間にわたり検証される予定だ。
「残念なことに、2型糖尿病とともに生きる人々は、年齢を重ねるにつれて、認知力や思考力、行動、日常業務を遂行する能力、および自立性を維持する能力に障害が起こりやすいという報告があります。これは、患者さんやその家族だけでなく、社会経済にとっても大きな損失となります」と、サマラス教授は述べている。
「メトホルミンは過去10年間の研究で、がんや心臓病、体重管理などでも利点があることが示されています。さらには、アンチエイジングを高め、認知症を予防するために有用である可能性があります。この研究に大いに期待しています」としている。
試験の結果が判明するまでは、「健康的な食事、運動を習慣として行い、社会活動への参加などの、認知症リスク低下につながる生活スタイルを守ることが大切です。ご自分が何をできるかについて、かかりつけの医師に相談して実行してほしい」としている。
Do some diabetes drugs reduce the risk of Alzheimer's?(米国神経学会 2021年8月11日)Association of Dipeptidyl Peptidase-4 Inhibitor Use and Amyloid Burden in Diabetic Patients With AD-Related Cognitive Impairment(Neurology 2021年8月11日)
Treatment linked to slowed cognitive decline: A six-year study of older Australians with type 2 diabetes has uncovered a link between metformin use, slower cognitive decline and lower dementia rates(ガーヴァン医学研究所 2020年9月24日)
Metformin Use Is Associated With Slowed Cognitive Decline and Reduced Incident Dementia in Older Adults With Type 2 Diabetes: The Sydney Memory and Ageing Study(Diabetes Care 2020年11月)
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所
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