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2021年04月26日
週に1回注射のインスリンが糖尿病治療を変える? 注射の負担を軽減すると期待 臨床試験で安全・効果を確認
米テキサス大学サウスウェスタン医療センターが、開発中の週1回投与のインスリン製剤について、「インスリン療法を変える画期的な製剤になる可能性がある」というリリースを公表した。2件の国際臨床試験の結果を受けたもの。
「まだ第2相臨床試験の段階ですが、週1回のインスリン注射による治療は、毎日のインスリン注射と同程度に安全で効果的であることが示されています」としている。
「まだ第2相臨床試験の段階ですが、週1回のインスリン注射による治療は、毎日のインスリン注射と同程度に安全で効果的であることが示されています」としている。
週1回投与のインスリン製剤に期待
米国で、週1回注射の超長時間作用型の新しいインスリン製剤の開発が進められている。このほど、2型糖尿病患者を対象とした、2件の国際臨床試験の結果が、米国糖尿病学会(ADA)が発行する医学誌「Diabetes Care」に掲載された。
まだ第2相臨床試験の段階だが、週1回のインスリン注射による治療は、毎日のインスリン注射と同程度に安全で効果的であることが示された。
「インスリンが発見されてから100年がたち、世界中の多くの糖尿病患者さんがインスリンを利用しています。インスリンはとても効果的な血糖降下剤であり、糖尿病治療の基礎といえます。また、正しい使い方をすれば安全です」と、テキサス大学サウスウェスタン医療センター内科学・ポピュレーション データサイエンス学のイルディコ リンヴェイ教授は言う。
「インスリン製剤はさまざまなタイプのものが開発されており、患者さんの病態に合わせて治療が行えるようになっています。製剤だけでなく注入器や注射針も改良されており、注射にはほとんど痛みがともないません。インスリン治療を始めるのは、考えられているほど難しいことではありません」。
「一方で、とくに高齢の患者さんで、自己注射を頻繁にしなくてはならないのを負担に感じている人が多いのも事実です。また、決してそんなことはないのですが、インスリン治療を開始するのは"自分の糖尿病が重症化したからだ"と感じてしまい、一定の負い目(スティグマ)を抱いてしまう患者さんも少なくありません」。
「患者さんの負担を減らす、より進歩したインスリン療法が望まれます。週に1回の投与で治療できる安全なインスリン製剤の開発に、大いに期待しています」と、リンヴェイ教授は述べている。
インスリン療法は考えられているほど難しくない
英国糖尿病学会(Diabetes UK)が公開しているビデオ
英国糖尿病学会(Diabetes UK)が公開しているビデオ
インスリン療法に対する抵抗感を減らしたい
世界でインスリンを利用している患者は増え続けており、米国だけでも800万人がインスリンを使っているとみられている。しかし、世界の数百万の2型糖尿病患者にとって、インスリン治療を開始し維持することは、依然として大きな課題となっている。
インスリンの自己注射を負担だと感じ、注射を恐れてしまうことが、インスリン治療の開始を遅らせ、また医師などの医療従事者から指導された通りに注射するというコンプライアンス(順守)を妨げる一因となっている。
週1回投与の超長時間作用型の新しいインスリン製剤が開発すれば、注射の頻度を減らすことができ、インスリン療法に対する抵抗感を減らすことができる可能性がある。
アドヒアランスとは、患者が積極的に治療方針の決定に参加し、その決定にしたがい治療を受けること。治療の選択肢が増えることは、血糖コントロールの改善につながるだけでなく、アドヒアランスを長期に改善し、患者のウェルビーイング(幸福感)の向上にもなると期待されている。
週1回投与のインスリン製剤の第2相臨床試験の1つは、7ヵ国(米国、クロアチア、ドイツ、ハンガリー、ポーランド、スロバキア、スペイン)の205人の患者を対象に実施された。2週間のスクリーニング期間、16週間の治療、および5週間のフォローアップで構成されている。
2つ目の試験は、5ヵ国(米国、カナダ、チェコ共和国、ドイツ、イタリア)の154人の患者を対象に実施された。23週間の治療で、インスリン使用の実際的な側面と、毎日のレジメンから新しいインスリン注射に移行するための最良の方法が評価された。
医療従事者の負担も軽減
「テキサス大学サウスウェスタン医療センターなどでは、このインスリン製剤の大規模な第3相臨床試験プログラムの準備を進めています。このプログラムは、1型と2型糖尿病の患者さんでの週1回のインスリン投与の有効性を評価するよう設計されています」と、リンヴェイ教授は述べている。
「週1回投与のインスリン療法は、治療による患者さんの負担を軽減すると同時に、医療従事者の負担も軽減するものと期待されます。たとえば長期ケア施設に入居している高齢の患者さんや認知症の患者さんが、インスリン注射の助けが必要な場合に、週1回のインスリン注射は比較的容易に行えるので、医療提供者の負担軽減につながります」としている。
Once-a-week insulin treatment could be game-changing for patients with diabetes(米テキサス大学サウスウェスタン医療センター 2021年4月19日)A Randomized, Open-Label Comparison of Once-Weekly Insulin Icodec Titration Strategies Versus Once-Daily Insulin Glargine U100(Diabetes Care 2021年4月)
Switching to Once-Weekly Insulin Icodec Versus Once-Daily Insulin Glargine U100 in Type 2 Diabetes Inadequately Controlled on Daily Basal Insulin: A Phase 2 Randomized Controlled Trial(Diabetes Care 2021年4月)
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所
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