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2020年07月15日

糖尿病を改善するワクチンを開発 老化細胞を減らして高血糖を改善 マウスで効果を確認

 大阪大学は、老化細胞を除去する治療ワクチンを作り、糖尿病の病態を改善するのに成功した。
 老化細胞は加齢とともに増え、2型糖尿病をはじめ、さまざまな病気の進展に関わっている。今回の研究は、ワクチンによって老化細胞を減らすのに成功した世界ではじめてのものだ。
老化細胞が糖尿病を悪化させる
 体内の老化した細胞は、自身がさまざまな炎症性物質を出しているだけでなく、周囲の細胞に対しても老化を促し、臓器などの機能低下を引き起こしていると考えられている。

 老化細胞は、2型糖尿病や、さまざまな老化に関連した疾患に関わっている。この老化細胞のみを取り除く治療法を開発できれば、組織・臓器の機能を改善できる可能性がある。

 大阪大学の研究グループは、生活習慣病や難治性疾患を標的とした抗体産生の誘導を目的とした治療ワクチンの研究開発を行ってきた。今回の研究で、治療ワクチンの新しい試みとして、細胞除去を目的としたワクチンの開発に成功した。

 研究は、大阪大学大学院医学系研究科の中神啓徳寄附講座教授(健康発達医学)、吉田翔太氏(老年・総合内科学)、楽木宏実教授(老年・総合内科学)、森下竜一寄附講座教授(臨床遺伝子治療学)らの研究グループによるもの。研究成果は、科学誌「Nature Communication」に掲載された。
老化細胞を除去する治療法を開発
 培養細胞を継続して観察していると、細胞が死滅しないまま増えなくなることがあり、これは「細胞老化(Cellular Senescence)」と言われている。細胞にさまざまなストレスがかかり、DNA損傷が蓄積することで、老化が促進される。

 近年、この老化細胞から炎症性サイトカインなどが多量に分泌されることで、周辺の細胞に悪影響を及ぼし、細胞老化をさらに促進していることが分かってきた。これは、「老化関連分泌現象(SASP)」と呼ばれている。

 この老化細胞を生体から除去したモデルマウスを作成すると、寿命の延長と加齢にともなうさまざまな症状を抑制できることから、老化細胞を除去する「Senolysis」という抗老化治療が提唱されている。現在、世界中で老化細胞を除去する治療法が開発されている。
老化T細胞が減ると糖尿病が改善
 高脂肪食を与え肥満にさせたマウスの内臓脂肪では、「老化T細胞」(PD-1陽性/CD153陽性細胞)が増える。

 このマウスにCD153を標的としたペプチドワクチンを投与したところ、「老化T細胞」の増加が抑えられることが分かった。さらに、この「老化T細胞」の数を減らしたマウスでは、糖尿病が改善していることが明らかになった。

 ワクチンによる免疫応答は、病原体に感染した異常細胞をT細胞やマクロファージが直接攻撃する「細胞性免疫」と、病原体を排除するために必要な「抗体」を作り出すB細胞が中心となる「液性免疫」に大別される。

 研究グループが開発したワクチンは、細胞性免疫を立ち上げることなく、液性免疫だけを活性化し抗体産生を誘導するのが特徴だ。血液などで抗体としての働くタンパク質であるIgGには4種類のサブクラスがあるが、研究ではIgG2(マウスではIgG1)の産生を目指した。

出典:大阪大学大学院医学系研究科、2020年
老化細胞を除去すると糖尿病が改善
 そして、「老化T細胞」を標的とし、その表面分子CD153を認識する抗体をワクチン投与で産生させ、血液などで抗体としての働くタンパク質であるIgGの産生を高めて、「老化T細胞」を効率よく除去できる治療ワクチンを作るのに成功した。

 高脂肪食を食べ過ぎたマウスは肥満や2型糖尿病になり、増えた脂肪の中に「老化T細胞」が多く増える。そこに、CD153を標的としたワクチンを投与すると、脂肪でその増加を抑制できることが明らかになった。

 そこで、ワクチンを投与しながらマウスに高脂肪食を与えていき、細胞除去ができたワクチンと、できなかったワクチンとで耐糖能を比べたところ、糖負荷試験で老化細胞を除去したマウスの方が血糖値が低いという結果が得られた。また、脂肪で炎症を起こすマクロファージの浸潤も抑制されていた。
ワクチンの新しい可能性を示す
 今回の研究は、世界中で開発が進んでいる老化細胞除去治療(Senolysis)の治療ツールとして、ワクチンを用いた世界ではじめての研究であり、これまで感染症の予防やがん治療に主に用いられてきたワクチンの新しい可能性を示したものだ。

 開発した治療ワクチンの細胞を殺傷する能力はそれほど強くはないが、がん細胞や細菌・ウイルスに比べて老化細胞の数はそれほど多くなく、慢性的な進行であるため、抗体の産生を誘導することで、ゆっくりと持続的な効果をもたらす治療は適していると考えられる。

 「老化T細胞」は、糖尿病だけでなく、さまざまな老化に関連した疾患の治療に使えると考えられ、複数の疾患にまたがった治療にも使える可能性がある。

高脂肪食で飼育したマウスの内臓脂肪で、老化T細胞は6.8%から16.0%に増加した。これにワクチンを投与すると、老化T細胞の増加は7.6%まで抑えられた。
出典:大阪大学大学院医学系研究科、2020年

大阪大学大学院医学系研究科
The CD153 vaccine is a senotherapeutic option for preventing the accumulation of senescent T cells in mice(Nature Communications 2020年5月19日)
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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