ニュース
2019年12月23日
なぜ風邪をひいた時に抗菌薬は不要? 「薬剤耐性(AMR)」を増やさないために
風邪をひいたときに、「抗菌薬をもらうために医療機関ににかかる」のは間違い?――
抗生物質(抗菌薬)の効かない薬剤耐性(AMR)をもった菌による被害が深刻化している。
「風邪には抗菌薬が効かない」ことに注意するよう呼びかけられている。
抗生物質(抗菌薬)の効かない薬剤耐性(AMR)をもった菌による被害が深刻化している。
「風邪には抗菌薬が効かない」ことに注意するよう呼びかけられている。
風邪に抗菌薬は効かない
「のどが痛くて、鼻がぐずぐずする、体もだるい、風邪をひいたのかな?」と考え、市販の風邪薬を飲んだり、休養をとったり、場合によっては医療機関に行った経験を誰もがもっている。風邪はすべての人にとっても身近な病気だ。
そんなときに、医療機関で抗菌薬を求めてしまったことはないだろうか? しかし、風邪の治療に抗菌薬は必要ない。それどころか、薬に耐える「耐性菌」が増えてしまい、新たな健康被害が発生するおそれがある。
風邪は、ウイルスが鼻や喉にのどに付いて炎症を起こし、くしゃみ、鼻水、せき、たん、のどの痛み、発熱などが出る病気だ。気を付けなくてはいけないのは、「風邪の原因はウイルス」であり、細菌ではないということだ。
一方、抗菌薬は、文字通りに細菌と戦う薬だ。細菌とウイルスは全く別の病原体であり、大きさや仕組みが異なる。抗菌薬はウイルスには効かない。ウイルスによって起こる風邪で、抗菌薬を飲んでも意味がない。
風邪の症状はいずれも、体がウイルスと戦っているサインだ。医師が処方したり薬局で売られている風邪薬は、風邪の症状をやわらげるためのもので、原因のウイルスをやっつける薬ではない。風邪を治すのは、あくまで自分の免疫力だ。
抗菌薬を乱用すると「耐性菌」が増える
医師から「風邪なので抗菌薬はいりませんよ」と言われ、「この前、風邪をひいたときには、お医者さんが抗菌薬を出してくれたのに・・・」と思うことがあるかもしれない。しかし、そのとき風邪が治ったのは抗菌薬のおかげではなく、自身の免疫力と休息によるものだ。
抗菌薬には深刻な副作用がある。抗菌薬を乱用すると、細菌が遺伝子を変えるなどして、薬に耐える「耐性菌」となるおそれがある。抗菌薬を使えば使うほど耐性菌は増えると考えられている。
そのとき医師が考えていたのは、「耐性菌を作りださないようにする」ことだったかもしれない。抗菌薬の適正使用を喚起する活動をしているAMR臨床リファレンスセンターが呼びかけているのは次の3つの注意点だ――。● 風邪に抗菌薬は効かない
● 処方された抗菌薬は医師の指示通り服用する
● 「手洗い・ワクチン接種」など、基本的な感染対策をする なお、インフルエンザウイルスにも抗菌薬は効かないが、高齢者や体の弱っている人は、インフルエンザにかかることで肺炎球菌などの細菌にも感染しやすくなっている場合がある。そのため、細菌とウイルスの感染による、気管支炎、肺炎などの合併症に対する治療として、抗菌薬が使われることがある。
AMR臨床リファレンスセンターが公開しているビデオ
知ろうAMR、考えようあなたのクスリ 薬剤耐性
知ろうAMR、考えようあなたのクスリ 薬剤耐性
「薬剤耐性(AMR)菌」が社会問題に
細菌が変化して抗菌薬や抗生物質が効かなくなった耐性菌は、「薬剤耐性(AMR)菌」とも呼ばれている。2050年には耐性菌の関連死は世界全体で年間1,000万人に達すると予想されている。耐性菌の問題にどう取り組むかは、世界の医療での重要課題になっている。
国連は2019年に、耐性菌が世界的に増加し危機的状況にあるとして、各国に抗菌薬の適正使用などの対策を求めた。日本が議長国となった同年のG20首脳会合や保健大臣会合でも、AMRが主要議題として取り上げられた。
耐性菌はとくに免疫力が落ちている人や高齢者が感染すると重症化しやすい。日本でも全国の医療現場で院内感染を含めて耐性菌による死亡が増加するなど深刻な影響が出ている。
日本でも耐性菌により年間8,000人以上が死亡
耐性菌によって国内で年間8,000人以上が死亡しているとの推計結果を、国立国際医療研究センターAMR臨床リファレンスセンターが発表した。
同センターなどの研究グループは、代表的な耐性菌であるメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)とフルオロキノロン耐性大腸菌(FQREC)の2種を対象に調査した。
その結果、MRSAが原因とみられる2017年の推定死者数は4,224人で、FQRECは3,915人に上ることが明らかになった。2種の合計は8,100人を超えており、日本でもAMRが大きな被害を及ぼしていることが明らかとなった。この2種以外の耐性菌による死亡も含めると死亡者数はさらに増える。
「耐性菌への対策は待ったなしの状況です。現状を正しく認識し、社会全体で取り組んでいく必要があります」と、同センターでは強調している。
抗菌薬の適正使用を進めていく必要が
抗菌薬や抗生物質の適正使用は耐性菌対策の大きな柱となる。しかし、2009年に発表された報告によると、抗菌薬の不要なことが多い「急性気道感染症」(感冒、急性咽頭炎、急性副鼻腔炎、急性気管支炎など)で外来を受診した患者の約6割に抗菌薬が処方されていた。
急性気道感染症は、一般に風邪症状とされる咳嗽(がいそう)、鼻汁、咽頭痛などをきたす疾患で、一部の細菌性あるいは重症例を除いて、抗菌薬を使用する必要はないとされている。
その後の変化を調べるため、同センターは2012年4月~2017年6月に外来受診した急性気道感染症受診例(約1,720万件)の抗菌薬処方状況を解析した。
その結果、急性気道感染症に対する抗菌薬処方は減少してきているが、まだ受診例の3割を超える抗菌薬の処方があり、そのうちの相当数は抗菌薬が不要なものと考えられることが分かった。
年齢層別にみると、高齢者よりも青壮年で抗菌薬の処方される割合が高くなっていた。
「引き続き抗菌薬の適正使用の取り組みを進めていく必要があります。なかでも10歳代から40歳代への処方割合が高く、この世代を意識した一般市民向けの教育啓発が必要です」と、研究グループは述べている。
AMR臨床リファレンスセンター(国立国際医療研究センター)
National trend of blood-stream infection attributable deaths caused by Staphylococcus aureus and Escherichia coli in Japan(Journal of Infection and Chemotherapy 2019年12月1日)
Longitudinal trends of and factors associated with inappropriate antibiotic prescribing for non-bacterial acute respiratory tract infection in Japan: A retrospective claims database study, 2012-2017(PLoS One 2019年10月16日)
薬剤耐性ワンヘルス動向調査検討会(厚生労働省)
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所
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