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2019年11月28日

牛乳やチーズなど乳製品が認知症を防ぐ 1日1杯の牛乳は脳の健康にも良い

 牛乳やチーズなどの乳製品が、認知症予防に役立つ可能性があるという研究が相次いで発表されている。とくに高齢者では、乳糖不耐症などがない場合には、1日1杯の牛乳を飲むことが、認知症予防の点でも勧められるという。
牛乳や乳製品の栄養が見直されている
 牛乳や乳製品は、優れた栄養価をもつ食品で、カルシウムやビタミンA、B2、B12などに加え、良質のタンパク質、脂質が含まれる。

 超高齢社会となった日本で、認知症患者の増加が問題になっている。現在のところ認知症を完全に治す治療法はないため、予防が重要となっている。その予防法のひとつとして牛乳やチーズ、ヨーグルトなどの乳製品が注目されている。

 牛乳・乳製品の含まれるどの栄養成分が効果的かを突き止め、それを活用した食品を開発すれば、大きな社会課題となっている認知症予防や、認知機能改善への食を通じた貢献できる可能性がある。

関連情報
カマンベールチーズの認知症予防効果 世界初のヒト試験で確認
 東京都健康長寿医療センターなどが、軽度認知障害のある高齢女性71人を対象に、カマンベールチーズの摂取と「脳由来神経栄養因子(BDNF)」との関連を調べた。

 BDNFは、うつ病やアルツハイマー型認知症、記憶・学習などの認知機能との関連性が報告されている神経栄養因子。加齢や認知症により低下することが知られている。

 研究グループは、東京都在住の70歳以上の高齢女性689人のうち、軽度認知障害と判断された高齢女性71人を対象に、白カビ発酵チーズ(カマンベールチーズ)とカビ発酵していないプロセスチーズ(対照チーズ)の摂取による、BDNFへの影響を評価する試験を行った。
チーズの栄養が脳由来神経栄養因子(BDNF)を増加
 対象者を市販の6Pカマンベールチーズを1日2ピース摂取する群、市販の6Pプロセスチーズを1日2ピース摂取する群に無作為に分け、それぞれ3ヵ月間摂取してもらい、血中BDNF濃度を測定した。その後、3ヵ月間のウォッシュアウトを経て、摂取する食品について群間で入れ替え同様のことを実施した。

 その結果、カマンベールチーズ摂取時には、対照チーズ摂取時と比較して、血中BDNF濃度が有意に高いことが明らかになった。今回の研究は、カマンベールチーズ摂取による認知症予防の可能性を、世界ではじめてヒトを対象とした試験で確かめたものだ。

 研究は、桜美林大学、東京都健康長寿医療センター、明治の研究グループによるもの。研究成果は医学誌「Journal of the American Medical Directors Association(JAMDA)」に掲載された。
牛乳の「短鎖脂肪酸」が認知機能の低下リスクを抑制
 牛乳などの乳製品には、他にも認知症予防の効果のあるとみられる栄養成分が含まれている。

 国立長寿医療研究センターは、牛乳などの乳製品に含まれる「短鎖脂肪酸」「中鎖脂肪酸」に着目し、高齢者を対象に長期間調査し、認知症を抑制する効果との関連について調べた。

 その結果、牛乳などの乳製品を毎日摂ることで、認知機能の低下を抑制できることが分かった。牛乳コップ1杯を毎日飲むことで、認知機能低下リスクが15%下がるという。

 「短鎖脂肪酸」は、乳製品以外ほとんど含まれない特徴的な成分で、腸内の環境を弱酸性にすることで、悪玉菌の増殖を防ぎ、腸内の炎症を抑える作用があるとされている。

 同センターは、認知機能の低下リスクが高まる60~70歳代の高齢者約1,100人を対象に、3日間の食事記録調査を行った。

 その結果、乳清品の摂取が1日当たり128g増えるごとに、認知機能の低下リスクが20%ずつ下がることが明らかになった。

 さらに、「短鎖脂肪酸」の1日の摂取量が297.3mg増えるごとに、認知機能の低下リスクが14%減少することがわかった。対象者の「短鎖脂肪酸」の平均摂取量370mgだった。
副菜が少ない穀類中心の食事は認知症リスクを高める
 米飯や麺類などの穀類の摂取量が増加し、乳製品の摂取量が減少すると、認知機能が衰えやすくなる傾向も明らかになった。副菜が少ない穀類中心の食生活は、認知機能を低下させるリスクを上昇させるおそれがあり、とくに60歳代以上の女性で顕著だった。

 60歳代以上になると、肉や魚、乳製品などで摂取が減る傾向がある。高齢者の低栄養を防ぎ、栄養バランスの良い食事を摂ることが、認知機能を維持するためにも望ましいことが示された。

 研究は、国立長寿医療研究センターNILS-LSA活用研究室の大塚礼氏らによるもので、詳細は「乳の学術連合」のホームページで公開されている。
乳清やチーズに含まれるアミノ酸が認知機能を改善
 乳製品に含まれるアミノ酸についての研究も盛んになっている。牛乳などには、体内で合成できず、食品から摂取する必要がある「必須アミノ酸」が含まれる。牛乳に含まれるカゼイン、ホエイプロテイン、ラクトフェリンなどが注目されている。

 東京大学は、ホエイ(乳清)やカマンベールチーズなどに多く含まれる「WY ジペプチド」と呼ばれるアミノ酸に、認知機能を改善したり予防する効果があることが明らかにした。

 乳タンパク質(カゼイン)を特定の微生物由来の酵素で分解して得られた「WYジペプチド」が、培養ミクログリアのアミロイドβ貪食機能を亢進し、炎症性サイトカイン産生を抑制するという。

 ジペプチドは、2つのアミノ酸が1つのペプチド結合で結合した分子。近年、ヒト体内で重要な役割を果たすペプチドが発見され、さまざまな生理作用をもっていることが分かり、研究が盛んになっている。
乳製品の「WYジペプチド」が脳内の炎症を抑制
 研究では、「WYジペプチド」で脳から分離し培養したミクログリアを処理した。ミクログリアは、脳内の免疫を担うグリア細胞の一種。異物や老廃物の除去など、さまざまな生理機能があることが知られている。

 その結果、アミロイドβ貪食機能が亢進し、TNF-α等の炎症性サイトカイン産生が抑制されることが分かった。さらに、「WYジペプチド」を摂食させたマウスでは、LPSの脳内投与で惹起される炎症が抑制され、記憶の低下も改善された。

 WYジペプチドを19週間摂食させた68週齢の老齢マウスでも、脳の炎症状態進行が抑制され、アルツハイマー病の原因となるアミロイドβの量も減少。加えて、加齢にともない生じる海馬シナプス活動(長期増強)の低下も改善された。

 これまで認知機能を改善するペプチドとしてβラクトリンが報告されていたが、この研究ではそのコア配列である「WYジペプチド」によるアルツハイマー病予防効果が明らかになった。

 WYジペプチドは乳製品の中でも、ホエイやカマンベールチーズなどカビで熟成させたチーズに多く含まれているという。

 研究は、東京大学大学院農学生命科学研究科獣医病理学研究室の中山裕之教授らが、学習院大学大学院自然科学研究科生命科学専攻高島研究室、キリンホールディングスと共同で行ったもの。その成果は、科学誌「Aging (Albany NY)」に掲載された。

The effects of mold-fermented cheese on brain-derived neurotrophic factor in community-dwelling elderly Japanese women with mild cognitive impairment: A randomized, controlled, crossover trial(Journal of the American Medical Directors Association 2019年9月24日)

牛乳・乳製品に特徴的に含まれる「短鎖脂肪酸」「中鎖脂肪酸」と認知機能との関連
代表研究者:大塚 礼(国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター NILS-LSA活用研究室)
乳の学術連合

東京大学大学院農学生命科学研究科 獣医病理学研究室
Tryptophan-related dipeptides in fermented dairy products suppress microglial activation and prevent cognitive decline(Aging 2019年5月23日)
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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