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2019年02月05日

高齢者は運動をどこまでできる? 強めの運動でも楽しんで続けられる

 健康寿命を延ばすためにために運動が必要だ。これまで運動が難しいと考えられていた高齢者は、適切な指導を受ければ、安全・効果的に運動を続けられることがノルウェーの研究で明らかになった。
高齢者人口は2050年までに3倍に増加
 世界の60歳以上の高齢者の人口は、2050年までに3倍に増えると予測されている。寿命が100歳に到達しようとしている今日、どうのような運動が健康寿命の延伸に効果的を検証する大規模研究が、ノルウェーで実施されている「Generation 100」研究だ。

 多くの研究で、運動により身体的な活動レベルを高く保つことが、高齢者の健康寿命を延ばすことにつながることが示されている。

 一方で、運動を継続するために、どのような運動を行うと良いのか、またどのうような運動指導を行うと良いか、不明の点も多い。

関連情報
活発に年齢を重ねるために運動は必須
 研究は2012年に開始され、70歳代の男女約1,567人(うち女性は790人)を対象に、5年間追跡して実施された。

 参加者を、(1)高強度の運動(10分間のウォーミングアップのち、4分間の運動を4回行う。運動強度は最大心拍数の90%までに調整する)を行うグループ、(2)中強度の運動(ウォーキングを50分間行う。運動強度は最大心拍数の70%まで)を行うグループ、(3)運動ガイドラインもとづき一般的な運動指導のみを行うグループ――に無作為に分けて、それぞれ運動週2回以上の運動を続けてもらった。

 また、医師によるメディカルチェックを受け、運動プログラムの講習会にも参加してもらった。

 解析した結果、運動を続けていたグループでは、心血管疾患などのさまざまな病気による死亡のリスクがら低下したことが判明した。

 「運動はほとんどの人にとって費用対効果の高い健康増進の手段です。運動を"医療"として実施すれば、高齢者がより活発に年齢を重ねられるようになります」と、ノルウェー科学技術大学心疾患・運動研究グループのライン スカルセム ライトロ氏は言う。
屋外運動が好まれる ウォーキングが人気
 研究では、運動の時間と内容、場所、強度、ひとりで運動したか、それとも誰かといっしょに運動したか――といった記録をとった。5年間の研究で運動記録は約7万件に達した。

 その結果、70歳以上の高齢の人は、かなりの運動強度であっても、多くが安全に運動を続けられることが明らかになった。最初のうちは運動指導が必要だが、多くの高齢者はすぐに自分で運動を続けるようになった。

 「ただし、その人の生活スタイルや好みに合わせて、運動プログラムを柔軟に調整する必要があります」と、ライトロ氏は言う。

 高齢者は多くは、屋内よりも屋外で運動するのを好むことが分かった。参加者の多くは、1年を通じて屋外で運動しており、3分の2が自宅の近所で運動した。また、もっとも好まれた運動はウォーキングだった。

 「高齢者が運動するのに適したトレーニングエリアを作ることを都市計画に含めるべきです。もっとも人気の高い運動はウォーキングなので、住宅地の周辺には、安全に使えるウォーキングコースを整備する必要があります」と、ライトロ氏は指摘する。
運動には男女差が 求められる多様性
 ウォーキング以外の運動を魅力的だと考える高齢者もおり、運動の嗜好性は男女で差があった。男性はより激しいトレーニングを求める傾向があり、割合が高いのはジョギング、サイクリング、クロスカントリースキーなどだった。女性はダンスやウォーキングなどを選ぶ傾向がみられた。

 運動の男女差を決定する主な因子は運動強度だが、社交性も重要な因子であることも分かった。年配の女性はよりも頻繁に他人と運動したがる傾向がみられた。女性はセッションの60%近くを他人といっしょにトレーニングすることで費やしたが、男性は40%にとどまった。

 「できるだけ多くの高齢者のニーズを満たすためにはさまざまな機会を提供する必要があります」と、ライトロ氏は強調する。

 「運動にも多様性が求められ、また性差もあることが分かりました。高齢者の健康状態、生活習慣、体力、嗜好性などは多様です。一人ひとりに合わせた運動プログラムを作成し、できるだけ多くの高齢者のニーズを満たすことで、運動を長続きできるようになります」。
高齢化が急速に進む日本人にも希望
 運動プログラムを中断した脱落者は予想よりも少なく約15%だった。運動習慣のない人でも、開始前に適切な運動指導を行い、運動の効果を自己確認できるようにすれば、脱落を防ぐことができると研究者は考えている。

 同大学が過去に行った研究では、1日30分の運動を週6日とりいれることで、死亡率を最大で40%減少できることが明らかになっている。運動習慣のまったくない高齢者に比べ、よく運動している高齢者では、寿命が最大で約5年間長かった。

 「運動はさまざまな便益をもたらします。年齢が上昇するにつれ、運動が心肺能力を高め、筋肉量の低下を防ぐのに貢献します。体のバランス能力の維持に役立ち、転倒のリスクを減らします」と、ライトロ氏は説明する。

 運動は社会的な相互作用にも有益に働き、うつ病のリスクを下げ、メンタルヘルスの面でも重要な利益をもたらすことは、過去の研究でも確かめられている。

 一方、高齢者の運動には注意がともなうことも指摘している。体力が低下している高齢者では、運動を軽いものから始め、強度や量を徐々に上げていく工夫が必要だ。

 また、「心筋梗塞や慢性腎臓病などを起こしたことがある」「血圧が高い」「体力が低下している」「バランスが悪くふらつくことがある」「ふだんから運動をしていない」という高齢者は、まずは日常的に歩くことを続けることから始めると、安全に運動を続けられるという。

 「座ったままテレビを見る時間を減らして、楽しみながら続けられる運動を見つけるべきです。1日の決まった時間に運動したり、仲間ともに運動したり、運動の記録をとり家族や友人たちとゴールを競うのも効果です」と、ライトロ氏は指摘している

 今回の研究は日本と気候や風土の違うノルウェーで行われたものだが、70歳以上の高齢者でも、比較的強度の高い運動が行え、継続できるという結果は、高齢化が急速に進む日本人にも希望を与えるものだ。

Getting older adults to be more active(ノルウェー科学技術大学 2018年11月29日)
Generation 100(ノルウェー科学技術大学)
Exercise patterns in older adults instructed to follow moderate- or high-intensity exercise protocol – the generation 100 study(BMC Geriatrics 2018年9月10日)
Increases in physical activity is as important as smoking cessation for reduction in total mortality in elderly men: 12?years of follow-up of the Oslo II study(British Journal of Sports Medicine 2015年5月14日)
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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