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2017年12月11日

なぜ糖尿病の薬や運動は効くのか 細胞内の「燃料センサー」を可視化

 運動をすると、あるいはメトホルミンなどの糖尿病治療薬を服用すると、「燃料センサー」の働きをする酵素が活発になり、血糖値が下がる。血糖コントロールにおいて重要な働きをする、「AMPK」という酵素の作用を明らかにする研究が行われている。
 このほど京都大学の研究グループが、生きたマウスの体内で糖尿病薬や運動によるAMPKの活性化を捉えることに成功した。
体全体のエネルギーバランスを保つAMPK
 「AMPK」(AMP活性化プロテインキナーゼ)は、細胞の中で生命を維持するために必要な働きを担っている重要な酵素のひとつ。AMPKは体全体のエネルギーバランスを保つために重要な働きをしており、細胞の中でエネルギーが足りなくなると、その事態を察知してエネルギー生産に関わる酵素のスイッチをONにする作用をする。こうした働きからAMPKは「燃料センサー」とも呼ばれている。

 「インスリン抵抗性」は、インスリンの効き悪くなり、インスリン分泌が過剰になった状態をいう。2型糖尿病やメタボリックシンドロームでがんのリスクが高くなる理由のひとつがインスリン抵抗性だ。AMPKはインスリン抵抗性を改善する因子として注目されている。

 細胞が活動するエネルギーとして利用されるのがアデノシン三リン酸(ATP)という化合物だ。ATPは「生体のエネルギー通貨」と言われ、エネルギーを必要とする生命活動の反応過程で必ず使用されている。

 ATPがエネルギーとして使用されるとADP(アデノシン-2-リン酸)とAMP(アデノシン-1-リン酸)が増える。AMPKはこのAMPで活性化される酵素で、低血糖、低酸素、血流の不足などの細胞内のATPの供給が枯渇する状況で、AMPの増加に反応して活性化される。
AMPKを糖尿病やがんの治療に役立てる研究
 AMPKはエネルギーの減少を感知し、ATP産生の促進と、消費の抑制を促し、ATPのレベルを回復させる作用をする。つまりAMPKが活性化すると、糖や脂肪や蛋白質の合成は抑制され、ATPが産生される。この効果は運動と同じで、2型糖尿病や肥満などの治療にも有効と考えられている。

 また、レプチンやアディポネクチンなどの肥満に関連するサイトカインにより活性化され、中枢神経で食欲を抑えるなど、体全体の代謝をコントロールする重要な役割を担っている。さらに、AMPKがんの発生や増殖を抑制する効果や、がん治療の効果を高める効果も報告されている。

 糖尿病の治療薬であるメトホルミンの作用にもAMPKが大きく関わっている。メトホルミンは、肝臓での糖新生の抑制、筋肉での糖利用の亢進、腸管からの糖吸収の抑制、脂肪組織での脂肪分解の抑制などの、多彩な働きをするが、その標的分子となるのがAMPKだ。AMPKは糖や脂質代謝の流れを調節する鍵となっている。
生きたマウス体内のAMPK活性を可視化
 松田道行・京都大学生命科学研究科教授らの研究グループは、細胞内エネルギーが不足すると活性化するAMPKを生体内でモニターするため、AMPKのFRETバイオセンサー(蛍光共鳴エネルギー移動という現象を利用し、分子がどれくらい働いているかをモニターする手法)を発現する遺伝子改変マウスを開発した。その結果、生きたマウス体内で糖尿病薬や運動によるAMPKの活性化を捉えることに成功した。

 これにより、2型糖尿病やがん、老化などに関する研究分野で、AMPK活性を検出するマウスが画期的なツールとなる可能性がある。たとえば、疾患の原因となる組織・細胞の特定や、新規AMPK活性化剤が効果的に働く臓器発見につながると期待される。
メトホルミンが肝臓でAMPKを活性化
 研究グループは、世界に先駆けて生体内のAMPK活性をモニターする技術を開発したことで、AMPK活性が組織ごと細胞ごとに異なることを確認した。さらに糖尿病薬や運動の効果がどの組織のどの細胞を標的としているかを明らかにした。

 開発した遺伝子改変マウスによって、糖尿病薬であるメトホルミンは肝臓でAMPKを顕著に活性化させる一方で、骨格筋ではその効果はほとんどみられないことが分かった。

 また、AMPの疑似体であるAICARは骨格筋でAMPKをよく活性化させることが明らかとなった。さらにマウスを運動させたあとに骨格筋でのAMPK活性を観察し、遅筋に比べて速筋で有意にAMPKが活性化されることが分かった。

 AMPKのFRETバイオセンサーを発現する遺伝子改変マウスが開発されたことで、2型糖尿病やがん、老化などの研究分野で「効果の見える化」ができる可能性がある。
京都大学生命科学研究科
A Highly Sensitive FRET Biosensor for AMPK Exhibits Heterogeneous AMPK Responses among Cells and Organs(Cell Reports 2017年11月28日)
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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