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2016年10月07日
1型糖尿病の半数は30歳以降に発症 遺伝子調査で明らかに
1型糖尿病の発症は小児~思春期に多いと考えられていたが、実際には30歳以降の発症も多く、全体の半数に上ることが、英国の12万人の遺伝子を調べた「バイオバンク」による調査で明らかになった。
30歳以上に1型糖尿病を発症する患者数は、想定していたよりも多い可能性があることが、英国の新たな研究で明らかになった。エクセター医科大学臨床科学研究所のニコラス トーマス氏によって、第52回欧州糖尿病学会(EASD)年次学術集会で発表された。
1型糖尿病の半数は30歳以降に発症
発表された研究は、1型糖尿病の発症が小児~思春期に多いと言う従来の認識を覆すもので、30歳以降に1型糖尿病を発症した患者の多くで自己免疫性が介在しているのも関わらず、初診ではインスリンではなく、2型糖尿病の第一選択薬であるメトホルミンを処方されている可能性がある。
これは明らかな誤診であり。プライマリーケアの糖尿病への対応を再検討しなければならないことが示唆された。「1型糖尿病の療養指導と患者教育は小児~思春期の患者に焦点を合わせて構成されているが、これは成人期に発症した患者には適合しない。成人期の1型糖尿病のマネージメントのやり方を再検討しなければならないだろう」と、トーマス氏は述べている。
1型糖尿病は、主に自己免疫を基礎とした膵β細胞の破壊によって発症する疾患だ。他の自己免疫疾患の合併も少なくない。「1型糖尿病」「2型糖尿病」という診断名が定着する以前の20年間に「小児型糖尿病」「成人型糖尿病」といった呼称が多く使われていた。成人が1型糖尿病を発症するのは稀なことだと考えられていた。
2型糖尿病の治療ガイドラインは1型糖尿病患者にはあてはまらない。最近では、英国首相のテリーザ メイ氏が56歳で1型糖尿病を発症し、初診では2型糖尿病と診断され治療を受けていた例が挙げられる。
「どの年齢であっても1型糖尿病を発症する可能性がある。成人発症の糖尿病において、ガイドライン通りの治療を行ってもHbA1c値が下がらない場合は、医師は診断を疑ってみる必要がある」と、トーマス氏は言う。
「バイオバンク」の12万人の遺伝子データから解析
研究チームは、「英国バイオバンク」に登録された40~70歳の12万人の英国人のデータから、1型糖尿病と関連する30ヵ所のクレオチド遺伝子多型によりリスクスコア(T1D - GRS)を作成し、糖尿病患者の遺伝子のデータベースを作成した。
「英国バイオバンク」(UK Biobank)は、「生命に関わる重度の疾病の予防・診断・治療を改善すること」を目的に、ウェルカム・トラスト医療慈善事業部と医療研究評議会(Medical Research Council)によって2006年に設立された。血液やDNAサンプル、生活習慣や身体活動レベルに関する情報など、現在までに50万人からデータを収集している。
予想された通り、30歳未満では自己免疫性疾患である1型糖尿病の比率が高く、30歳を過ぎると2型糖尿病が劇的に増加した。
しかし意外だったのは、30~60歳の糖尿病患者のうち1型糖尿病の遺伝子多型を示すケースが一定数あったことだった。解析した結果、1型糖尿病のおよそ半数が、30歳以降に発症していることが明らかになった。
全年齢層を解析した結果、30歳未満の1型糖尿病の遺伝子多型をもつ者の比率は53%(242/457)であり、74%(242/326)が診断されているのに対し、31~60歳では1型糖尿病の遺伝子多型をもつ者は47%(215/457)に上った。さらに、この年齢層で糖尿病と診断された中ではわずか5%(215/4335)であることが判明した。
31~60歳の糖尿病有病者のうちで、1型糖尿病は2型糖尿病のグループに比べ、年齢が若く(44歳 vs 52歳、P<.0001)、BMIが低く(26.2 vs 32.6、P<.0001)、診断1年以内のインスリン療法の開始が早く(79 vs 6%、P<.0001)、現在インスリン療法を行っている比率が高かった(100% vs 16%、P<.0001)。
30歳以降の患者の1型糖尿病の診断は難しい
中高年から高齢にかけて成人の圧倒的多数が発症するのは2型糖尿病であり、1型糖尿病はその中に埋もれてしまうおそれがある。さらに、過体重や肥満などの既往は2型糖尿病で多く見受けられるが、1型糖尿病は肥満とは関係がない。
「小児期の糖尿病のほとんどは1型糖尿病で、診断は容易にできるが、30歳を過ぎて年齢を重ねてからは2型糖尿病が劇的な増加をみせるので、1型糖尿病の症例を判定するのは容易ではない。自己抗体検査は有力な手がかりとなるが、成人を対象に定期的に検査を行うのは現実的ではない」と、トーマス氏は言う。
トーマス氏は、英国の成人期の医療レコードでは、臨床的な診断と糖尿病タイプ、インスリン療法について、臨床的な分類が十分に行われておらず、体系的な診断基準も整備されていない現状を指摘している。
1型糖尿病の診断にあたっては自己抗体の検査を行うと確実だが、GAD抗体やIA-2抗体の検査は高価なので、一般医が日常の診療で行うのは限界がある。T1D-GRSは、抗体検査を行わずに糖尿病の病因を特定する「かつてない新しい、強力な遺伝子学的アプローチ」だという。
「30歳以降は2型糖尿病の発症が膨大に増えるので、1型糖尿病はかき消されるように診断が難しくなる。例えてみれば、草の山に針を見つけるようなものだ。しかし、臨床家は潜在的自己免疫性糖尿病(LADA)の発症は成人期でもありえることを注意深く認知する必要がある」と、トーマス氏は指摘している。
第52回欧州糖尿病学会(EASD)年次学術集会
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所
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