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2016年09月05日

画期的な「経口インスリン」を開発 注射から解放される日は近い?

 インスリンを飲み薬で投与する「経口インスリン」の開発が世界で進められている。このほど画期的な「経口インスリン」を開発したと、米国化学会学術集会の記者会見で発表された。
飲み薬でインスリンを投与 血糖値が低下
 「米国には数百万人の糖尿病患者が、インスリン注射をして血糖値をコントロールしています。そのインスリン注射から解放される日は近いかもしれません」と、ニューヨーク州のナイアガラ大学化学部のメアリー マッコート教授は言う。

 インスリン療法に使われる注射器は改良が加えられ、より使いやすいものが使われている。注射針も極細になり、注射の痛みをほとんど感じないものが出ている。しかし、自分の体に注射針を刺すことにためらいを感じる患者は少なくない。自己注射を毎日、管理するのが難しいという患者もいる。

 フィラデルフィアで8月に開催された米国化学会の第252回学術集会で、画期的な「経口インスリン」を開発したと発表された。「私たちは、新たに開発した“コレストサム”(Cholestosome)というテクノロジーを応用しました」と、マコート教授は言う。

 経口でインスリンを投与するときに課題となるのは、胃の消化作用でインスリンが破壊されてしまうことだ。胃の中は、胃酸の影響で常に酸性に保たれている。酸性であることで、タンパク質の消化酵素がきちんと働いたり、胃に侵入した細菌を殺菌したりしている。

 インスリンはタンパク質なので、胃の酸性の環境にマッチしない。インスリンを経口投与するためには、胃の消化作用をかわして腸に届け、そこから吸収され血液に入る仕組みを作る必要がある。

 これまでインスリンを高分子の重合体でコーティングして包み込み、胃酸の攻撃から保護する仕組みが試されたが、腸でインスリンが一定の割合で吸収されないなど課題があった。

 ナイアガラ大学科学部のマッコート教授やローレンス ミェリスキィ氏らの研究チームは、ナイアガラ大学の開発した「コレストサム」という新しい素材を使うことを思いついた。コレストサムは中性の脂肪ベースの微粒子で、これまでの素材にない特性があるという。

 「これまでの経口インスリンの研究では、インスリンを微細なカプセルに入れて腸に届ける方法が考えられ、インスリンを包み込むリポソーム(小胞)は重層的にコーティングされていました。私たちが開発したコレストサムは、もっとシンプルな構造になっています」と、ミェリスキィ氏は言う。

 水にほとんど溶けない数百個のコレストサム(脂肪)を集め「ベシクル」という微小な膜構造を有する小胞体を作る。ベシクルは中心が空洞になっていて、そこにインスリンを入れる仕組みだ。コレストサムは中性で、胃酸の攻撃に耐え、中に入れたインスリンを保存したまま胃を通り過ぎる。

 腸に到達したコレストサムは、腸壁から吸収されて血液に入る。コレストサムは壊れやすい構造になっており、血流によって分解され、中に入っていたインスリンが血液に放出される。

 コレストサムの中にできるだけ多くのインスリンを封入するために、研究チームは最適なpHとイオン強度を突き止めた。「コレストサムを使った経口インスリンは、過去のどの実験よりも良好な成果をもたらしました」と、マッコート教授は言う。

 糖尿病ラットを使用した実験では、コレストサムによる経口インスリンにより、血流のインスリンが増え、血糖値が低下することを確認した。研究チームは、さらに動物実験を重ね、なるべく早い時期にヒトを対象とした臨床試験を開始したいと考えている。
米国化学会記者会見「画期的な経口インスリンを開発」
Insulin pill could make diabetes treatment ‘ouchless’(米国化学会 2016年8月24日)
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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