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2015年03月24日

インスリンポンプの安全性についてADA/EASDが合同声明を発表

 米国糖尿病学会(ADA)と欧州糖尿病学会(EASD)は3月16日、米国や欧州の政府機関や医療機器メーカー、学会などに向けて、インスリンポンプの安全性と有効性を長期監視する仕組みが必要との共同声明を「Diabetes Care」と「Diabetologia」に発表した。
インスリンポンプの使用状況を監視する国際的な仕組みが必要
 持続皮下インスリン注入法(CSII)は、インスリンポンプを用いてインスリンを持続的に皮下に注入する治療法。世界の2億人以上が糖尿病と診断され、およそ100万人がインスリンポンプを使用しており、ほとんどは1型糖尿病患者だが、2型糖尿病患者も含まれる。

 「インスリンポンプ療法を行っている患者数は世界的に増加傾向にある。糖尿病の治療のためのテクノロジーは急速に進歩している。そのこと自体は歓迎すべきことだ」と、南カリフォルニア大学糖尿病臨床プログラムのアン ピーターズ氏は言う。

 一方で、米国と欧州において、インスリンポンプのような精密な医療機器を、特に市販後に監視するプログラムは十分に整備されていない。

 「インスリンポンプが正常に機能していることを継続して確認できれば、我々は糖尿病患者をより適切にサポートし、エラーを未然に防ぐ手助けをできるようになる」と、ピーターズ氏は指摘する。

 インスリンポンプ療法には、「頻回の注射が必要ない」「生理的なインスリン分泌に近いインスリン投与が可能」「インスリンの細かい調整が可能」「食事時にインスリンを調整して投与するので低血糖のリスクが低い」「食事量や摂取時間に自由度がある」などメリットが多い。

 その一方で、インスリンポンプは高度に精密な医療機器であり、最新の機種であっても本体の故障、注入回路の損傷、コネクターの接続不良、デバイスの誤操作などが起こる可能性があるというデメリットもある。

 インスリンポンプの本体には異常が起きた場合にアラームで知らせる機能が組み込まれているが、万が一故障したりインスリンの液漏れ発生すると、インスリン投与量が減りケトアシドーシスに至るおそれがある。

 ADAとEASDは、インスリンポンプが市販後も、正常に機能していることを客観的にみるために、組織的に継続して調査することが、安全性と効果を高めるために必要だと強調している。

インスリンポンプの有害事象のデータベースを構築
 両学会はEUおよび米食品医薬品局(FDA)に対して、(1)インスリンポンプを製造する医療機器メーカーが遵守すべき基準を統一する、(2)有害事象報告データベースを拡張して、国際的なデータベースを構築する――ことなどを要求。

 また、医療機器メーカーに対しては、(1)インスリンポンプ使用者数、(2)インスリンポンプと各種インスリン製剤や注入セットとの適合性、(3)長期使用における耐久性や精度―などに関するデータを政府機関に提供することを求めた。

 より厳格に標準化され、情報の透明性を保持したアプローチを採用することで、インスリンポンプをより安全・効果的に使用できるようになるとしている。

 インスリンポンプを使用する患者が遭遇するトラブルでもっとも大きいのは、使用中のポンプが故障し、代替物を入手するのに数日を要するときだ。「インスリンポンプを使用している全ての患者は、ポンプの設定のバックアップをとると同時に、代わりになる長時間作用型インスリン製剤の注入器を手元に持っているべきだ」と、ピーターズ氏は指摘している。

 「我々はインスリンポンプ療法の強力なサポーターであり、1型糖尿病とともに生きる人々のために最良のアウトカムを引き出すのに貢献できるだろう」と、英国のグラスゴー大学のジョン ピートリー教授は述べている。

ADA/EASDのRecommended Actions(一部抜粋)

● 政府機関(EU、FDA)
・ インスリンポンプを製造する医療機器メーカーが遵守すべき基準を、市販前から市販後を通じ統一する。
・ 有害事象報告データベース(MAUDE)を拡張し、国際的なデータベースを構築し公開する。
・ 臨床的に重要なキーワード(ハードウエア・ソフトウエア・通信などに関連するエラー、糖尿病性ケトアシドーシス・低血糖などの有害事象)で検索できるようにする。

● 医療機器メーカー
 以下についての透明性の高い情報を監督当局に提供することを求める。
・ 年間のインスリンポンプ使用者数(基本的な人口統計データを含む)。
・ ポンプの設計が刷新され機能が加えられた場合の人為的なエラーについての臨床研究データ。
・ ポンプと各種インスリン製剤、注入セットとの適合性についての最新のデータ。
・ 長期使用されたデバイスの耐久性や精度に関するシステマチックなデータ。
・ リコールあるいは返品されたポンプの情報開示。
・ デバイスの機能や特性、仕様に変更がある場合には、変更点のリストを開示する。

● 国際学会や各国の専門学会
・ インスリンポンプ療法についての最新のエビデンスにもとづくガイドラインを作成する。
・ インスリンポンプ使用者および新規使用者に対し、構造化された教育を適切に行うことを推奨する。
・ インスリンポンプ使用者の教育とサポートに当たる医療者チームの拡充も必要。人員とスキルを確保するための基準を整備する。

● 医療スタッフ・チーム
・ 報告されたインスリンポンプの有害事象について、ポンプ使用者に助言しサポートする。
・ 最新情報にもとづくガイドラインに準じたトレーニングを、ポンプ使用者に対し行う。

[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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