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2015年02月06日

GLP-1分泌を促進する乳酸菌を開発 画期的新薬の可能性

 米国のコーネル大学の研究チームは、GLP-1の分泌を促す「プロバイオティクス」の開発に成功したと発表した。ラットを使った実験で実際に血糖コントロールが改善することが確かめられた。1型糖尿病と2型糖尿病の両方が適応となる、画期的な治療法となる可能性がある。
プロバイオティクスがGLP-1の分泌を増やし血糖値が低下
 ヒトの腸内には、およそ100兆個、500〜1,000種類もの腸内菌がすみついている。この菌のかたまりを腸内細菌叢といい、花畑のように見えることから「腸内フローラ」とも呼ばれている。また、腸内菌のうち、体内で胃働きをするものは「プロバイオティクス」と呼ばれている。

 コーネル大学のジョン マーチ教授(生物工学)らの研究チームは、プロバイオティクスの一種である「ラクトバシラス」という乳酸菌の遺伝子を改変し、GLP-1の分泌を促す品種を作り出すのに成功した。ラクトバシラスは主だったプロバイオティクスで、ほとんどの人の腸内に生息している。

 「インクレチン」は、食事摂取に伴い消化管から分泌されるホルモンで、代表的なものにGLP-1がある。食事を摂取し血糖値が上がると、小腸からGLP-1が分泌され、膵臓に作用してインスリンの分泌を促すとともに、血糖を上昇させるグルカゴンの分泌を抑制する。

 研究チームは、開発したラクトバシラスを糖尿病のラットに90日間、経口投与する実験を行った。このマウスは正常なマウスに比べ、インスリンの分泌量が60%低下していた。ラクトバシラスを投与した結果、ラットの腸内の腸内細菌叢に変化が起こり、ラクトバシラスが定着したことが確認された。

 ラットに10時間エサを与えずに空腹にした上でブドウ糖を投与し、30分、60分、90分、120分後のインスリン値と血糖値を測定した。ラクトバシラスを与えた糖尿病マウスでは、インスリンの分泌量が25〜33%増えており、血糖値が正常化したことが確認された。ラクトバシラスがGLP-1の分泌を促し、膵臓のβ細胞に作用してインスリンの分泌を促し、血糖値が低下したとみられる。

 「改良したラクトバシラスは、GLP-1の分泌を促進することが確かめられました。ラクトバシラスは、サプリメントのように経口で投与できます。この乳酸菌を毎朝飲むだけで、安全で効果的に糖尿病を治療できる可能が示されました」と、マーチ教授は言う。

 改良したラクトバシラスは通常のプロバイオティクスと同様の働きをし、副作用は特にないという。また、この治療法は、1型糖尿病と2型糖尿病の両方が適用となる。

 乳酸菌が人の腸内でどのように作用するかは個人差があるので、ヒトを対象として試験を行うには課題があるが、実現すれば乳酸菌を毎日飲むだけで、血糖コントロールを改善できるようになる可能性がある。この乳酸菌は従来の治療薬との併用も可能だ。

 この研究は、米国立保健研究機構とハートウェル財団の支援を得て行われ、米国糖尿病学会が発行する医学誌「Diabetes」に発表された。

Diabetes in rats treated with engineered probiotic(コーネル大学 2015年1月27日)
Engineered Commensal Bacteria Reprogram Intestinal Cells Into Glucose-Responsive Insulin-Secreting Cells for the Treatment of Diabetes(Diabetes 2015年1月27日)

[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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