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2014年07月02日
吸入インスリンと経口インスリンの開発 注射不要の時代が到来?
インスリン注射を不要とする新しい吸入インスリン製剤が米国で承認された。インスリンを飲み薬として投与する経口インスリンの開発も進められている。
インスリン製剤は、患者の病態に合わせて、作用の発現時間や持続時間の異なるさまざまなタイプが治療に使われている。注入器の使い勝手は大きく向上し、注射針もより痛みの少ないものが開発されている。しかし、自己注射をおそれる患者は少なくなく、患者がインスリン療法をためらったために治療の開始が遅れた症例は多い。 一方で、食後に血糖値が高くなる食後高血糖は、心筋梗塞などにつながる動脈硬化性疾患の危険因子として注目されており、早い時期から動脈硬化を抑える治療を始めることが必要となっている。 吸入インスリンや経口インスリンを治療に使えるようになると、患者にとって利便性が増し、インスリン療法をより適切な時期に開始できるようになると期待されている。
米国で新型の吸入インスリン製剤が承認
米食品医薬品局(FDA)は、速効型の吸入インスリン(商品名:Afrezza)を承認したと発表した。Afrezzaは、テクノスフィア(Technosphere)と呼ばれる新技術を投入されており、乾燥したパウダー状の薬剤を吸入すると肺で溶解し、血流にとりこまれて速やかに作用する。
吸入器を使い口から吸い込むタイプのインスリンは、これまでにいかくつかが開発されており、海外で発売された薬剤もあるが、市場からはすでに撤退している。新たに開発されたAfrezzaは、吸入器の操作性、携帯性が格段に向上しているという。
Afrezzaは、食事開始時、または食後20分以内に使用する速効型のインスリン。開発元のMannKind社によると、肺の奥深くまで吸入するのに適した構造のパウダーが1回用量分パックされたカートリッジと、手の平サイズの吸入器から構成される。速やかに肺表面から吸収され、約12〜14分間で最大血中濃度に到達する。
承認に先立ち、1型糖尿病患者1,026人と2型糖尿病患者1,991人の計3,017人を対象とした、24週の臨床試験が行われ、従来のインスリン製剤に比べ非劣性であることが示された。
Afrezzaは1型糖尿病と2型糖尿病いずれにも適応があるが、持効型インスリンの代替とはならないため、1型については長時間作用型のインスリンとの併用が必要になる。
また、吸入薬なので、喘息や慢性閉塞性肺疾患(COPD)を有する患者では急性気管支攣縮を発症するおそれがあるとして枠組み警告(Boxed Warning)が設けられ、メーカーでも慢性肺疾患を有する患者では使用しないよう呼びかけている。
同製剤の添付文書では、インスリン療法の変更に当たっては医師による十分な観察と検査の回数を増やすことや、使用開始時にスパイロメトリーなどによる肺機能検査を定期的に実施することなどを求めている。
米国では2006年1月に吸入インスリン製剤が初めて承認されたが、取り扱いが面倒なことや事前検査の煩雑さなどが障害となり、販売は翌年に中止された。長期間使用すると、喫煙歴がある患者の肺がんを誘発する可能性があるなど安全面での課題も浮き彫りになっている。
経口インスリンも開発中
インスリンを飲み薬として投与する経口インスリンの開発も進められている。神戸学院大学の武田真莉子教授らは、インスリンを経口剤として使えるようにする技術を開発した。
インスリンはペプチドホルモンなので、胃で消化されやすく、消化管から血液中に吸収されにくい。そのため、インスリンの経口投与は難しく、現在のところは注射によって治療を行う必要がある。
武田教授ら研究チームは、製剤をタンパク質で作ったナノサイズの微小な粒子と結合させることで、途中で吸収・分解されることなく、腸に届ける方法を開発した。2年以内に臨床試験を始める計画だ。
経口インスリンの開発における最初の難関は、胃の酸に強い構造を作り出すことだ。研究チームは、「細胞膜透過性ペプチド(CPP)」と呼ばれるタンパク質の断片をインスリンと混ぜて使った。CPPはアミノ酸の分子が16個つながっており、CPPがインスリンの分子と結びつくと、胃に入っても消化液で分解されにくくなり、効率良く小腸で吸収されるようになる。
第2の関門は、腸に届けられたインスリンを効率良く吸収させることだ。腸の内側はなめらかな粘膜に覆われ、粘膜は粘液を出して老廃物をすべりやすくしている。研究チームは薬剤に新素材を使うことで、この問題に対策した。CPPが小腸の粘膜に触れると、粘膜の細胞とくっつき、インスリンが粘膜の内部に取り込まれ、血管の中に入って血糖値を引き下げる。
マウスを使った実験で、インスリンとCPPを混合した薬剤を投与したところ、血糖値が下がることが確認された。経口インスリンの薬理学的な有効性を調べたところ、インスリン注射に比べ18.2%にとどまることが判明。今後は小腸でのインスリンの吸収率を高める改良に取り組むという。
開発した技術はインスリンのほか、GLP-1受容体作動薬、肝炎などの治療に使うインターフェロンなどのバイオ医薬品にも応用できる。バイオ医薬品は注射を使う必要があるが、使いやすい飲み薬へ切り替えられれば、注射の痛みや煩わしさなどがなくなると期待されている。
FDA approves Afrezza to treat diabetes(米食品医薬品局 2014年6月27日)Afrezza(MannKind)
In vivo proof of concept of oral insulin delivery based on a co-administration strategy with the cell-penetrating peptide penetratin(Journal of Controlled Release 2014年6月25日)
神戸学院大学薬学部・薬物送達システム学研究室
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所
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