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2014年06月09日

血管老化が糖尿病の悪化を誘発 筋肉のエネルギー消費を阻害

 高カロリーの食事で引き起こされる血管の老化が、筋肉でのエネルギー消費を阻害して、肥満や糖尿病をさらに悪化させる悪循環に陥る可能性があることが、新潟大学などの研究で明らかになった。
血管の老化が糖尿病にもたらす影響を解明
 この研究は、新潟大学大学院の南野徹教授らが千葉大学と共同で行ったもので、米科学誌「セルリポーツ」オンライン版に発表された。生活習慣病に血管の老化が深く関与しているという新しい視点を提示する成果として注目される。

 「人は血管とともに老いる」と言われる通り、2型糖尿病やメタボリックシンドロームなどが動脈硬化を促し、それに伴い血管の老化が進むことが知られている。

 内臓脂肪が蓄積すると脂肪組織が慢性の炎症状態になり、糖代謝が抑制されて2型糖尿病を引き起こすことが知られる。

 糖尿病やメタボリックシンドロームは、心臓病や脳卒中、腎不全など多くの合併症を引き起こす疾患だ。これらの合併症の多くに血管病変が関与していることも分かっている。血管病変にもとづく糖尿病の合併症として、糖尿病網膜症や糖尿病腎症などがよく知られている。

 しかし、その逆に血管の老化が、糖尿病などにどのような影響を及ぼすかはよく分かっていない。研究グループは、肥満や糖尿病で血管の老化がどういう役割をしているかを探った。

老化分子p53が糖尿病や肥満に悪影響
 研究グループは、細胞老化の鍵分子である「p53」に着目。p53は、細胞の増殖を停止させたり、細胞死を誘導する働きをするタンパク質だ。同研究によると、高カロリー食を与えて、糖尿病を発症させたマウスでは、血管細胞において老化分子のp53が増加することが分かった。

 一方、血管細胞だけでp53遺伝子発現を欠損させて血管老化を抑制したマウスに高カロリー食を与えたところ、p53欠損マウスでは酸素消費量が多く、筋肉へのグルコース(糖)の取り込み量が増えており、肥満も抑えられる結果になった。

 高カロリーの食事を投与された糖尿病モデルマウスでは、血管細胞が老化することで筋肉への糖輸送なども障害されていることがわかった。

 筋肉では通常、血流からグルコースを取り込み、細胞内のミトコンドリアと呼ばれる小器官でエネルギーを生成する。しかし糖尿病になったマウスでは、血管細胞での一酸化窒素の産生が低下していた。

 一酸化窒素は筋肉細胞に働いてミトコンドリアの合成を促しているので、その産生量の低下によって筋肉細胞内でのミトコンドリアの合成が障害されることが判明した。

血管老化がエネルギー消費を妨げ、糖尿病が悪化
 さらに、筋肉へのグルコース輸送機能が調べられたところ、糖尿病を発症させたマウスは、血管細胞においてグルコース輸送の一部を担う輸送分子「Glut1」の発現が減少したが、血管老化抑制マウスでは変化がないことが確認された。そして、血管老化抑制マウスのGlut1の発現を抑制すると、筋肉へのグルコースの取り込みが抑制された。

 このことは、高カロリー食の摂取による血管細胞でのp53発現がGlut1の発現を抑制し、血管から筋肉へのグルコース供給が抑制されることを示している。

 これらの障害により、余剰になったカロリーが内臓脂肪として蓄積し、肥満や糖尿病がさらに悪化するという悪循環の仕組みが浮かび上がった。

 これまで糖尿病で合併する血管障害は、糖尿病の病態の結果と考えられてきた。今回の研究成果で、糖尿病によって老化した血管が骨格筋におけるエネルギー消費を妨げ、糖尿病や肥満をさらに悪化させる悪循環を引き起こしていることが示された。血管の老化を抑えることで糖尿病の進行を抑えられる可能性がある。

 南野徹教授は「p53はがん抑制遺伝子でもあり、それ自体を治療の標的にするのは難しいが、『血管老化から肥満や糖尿病の進行へ』の悪循環を断ち切ることは、新しい治療法開発の手がかりになる」と指摘している。

血管の老化は,筋肉のエネルギー消費を妨げることを発見(新潟大学 2014年5月23日)

[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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