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2018年03月05日

PCSK9阻害薬の適正使用フローチャート 動脈硬化学会が見解を表明

 日本動脈硬化学会は3月2日、PCSK9阻害薬の適正使用の指針となる見解を発表した。同剤は家族性高コレステロール血症、または、冠動脈疾患二次予防の高リスク症例に用いるべきとし、これらの病態における同剤適用のフローチャートを明示した。

 強力なLDL-C低下作用を有するPCSK9阻害薬が2016年に発売され、従来の薬剤では十分な管理が困難であった患者においても、LDL-C管理目標の到達を目指すことが可能になった。しかし、薬価が高額であり、未知の副作用が存在する可能性を完全には否定できていないことから、現時点において適用は同剤の恩恵を強く受け得る患者に限定する必要がある。

 今回の同学会の見解において、その患者像が明確に示された。同剤を積極的に用いるべき対象である家族性高コレステロール血症(FH)が未診断のまま非専門医のもと不十分な治療が行われていたり、スタチンの最大耐用量を用いずにPCSK9阻害薬を使用しているといったケースが散見される現状に対する注意喚起も含む内容。

家族性高コレステロール血症(FH)
 発表された見解では、PCSK9阻害薬の適用は、家族性高コレステロール血症(FH)と、冠動脈疾患二次予防の高リスク症例としており、それぞれにおいて同剤使用に至るまでのフローチャートを掲げている。

 まずFHに関しては、既に『動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017年版』に掲載されているフローチャートを踏襲したものを発表。スタチン最大耐用量にエゼチミブを併用して1〜2カ月後にLDL-C低下効果を判定し、管理目標に未達ならPCSK9阻害薬の使用を積極的に考慮することを促している。

家族性高コレステロール血症(FH)へのPCSK9阻害薬適正使用フローチャート


* スタチン不耐症の場合、別のスタチンの処方や投与間隔を考慮し、できる限り最大耐用量まで増量する

** PCSK9阻害薬を開始するときには専門医に相談することが望ましい

*** PCSK9阻害薬はアフェレシス時に除去されるため、アフェレシス後に皮下注射する

*** LDLアフェレシスはヘテロ接合体では二次予防で適応となる
冠動脈疾患二次予防の高リスク症例
 一方の冠動脈疾患二次予防の高リスク症例とは、『動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017年版』において、LDL-C70mg/dL未満、non-HDL-C100mg/dL未満を目指すとされている病態のこと。具体的には、急性冠症候群と、糖尿病患者のうち「高リスク病態」(後述)を合併している症例。

 このいずれかに該当する場合、スタチン最大耐用量にエゼチミブを併用しても前記の管理目標に到達しない場合、PCSK9阻害薬の追加を考慮する。ただし、スタチン最大耐用量にエゼチミブを併用しても管理目標に到達しない時には、FHである可能性を改めて疑う必要があるとしている。またPCSK9阻害薬使用にあたっては、スタチン最大耐用量とエゼチミブの併用を中止せず、そのまま継続するとともに、脂質以外の血糖、血圧、喫煙等の古典的リスク因子の管理を徹底する。

 なお、FHにおいても冠動脈疾患二次予防の高リスク症例においてもPCSK9阻害薬の開始に際して、専門医に相談することが望ましいと述べている。

冠動脈疾患二次予防(非FH)でのPCSK9阻害薬適正使用フローチャート


◆ 高用量ストロングスタチンにエゼチミブを併用しても十分なLDL-C低下が得られない場合には、あらためてFHを疑う

◆ PCSK9阻害薬を検討する症例では、高血圧・糖尿病・喫煙など古典的危険因子も十分にコントロールする

◆ PCSK9阻害薬を開始するときには専門医に相談することが望ましい
糖尿病患者の冠動脈疾患二次予防では、高リスク病態合併例が少なくない
 本見解において糖尿病と直接関係があるのは冠動脈疾患二次予防に該当する糖尿病患者のうち、「高リスク病態」を合併している症例だ。その「高リスク病態」としては具体的に、メタボリックシンドローム、慢性腎臓病(CKD)、喫煙、末梢動脈疾患(PAD)、非心原性脳梗塞、主要危険因子の重複が掲げられている。

 年余にわたる糖尿病治療の経過中に冠動脈疾患を発症した場合、これらのいずれかが該当することが多いと考えられ、糖尿病患者の多くは、「高リスク病態」合併例と言えそうだ。二次予防における脂質管理ではLDL-C70mg/dL未満、non-HDL-C100mg/dL未満をめざし、まずはスタチン最大耐用量とエゼチミブを併用することが先だが、それでも目標に到達しない場合、PCSK9阻害薬の使用を考慮することになる。

スタチン不耐症など、「今後の課題」も明記
 適正使用の推進に向けて上記のフローチャートを公開するとともに、見解では現時点で明らかにできていないことを「今後の課題」として明記している。

 例えば現在、保険上PCSK9阻害薬はスタチン最大量を用いた上で処方する必要があるが、スタチン投与によりCK上昇、筋肉痛などを生じるスタチン不耐症例への保険適応拡大を進めるにはスタチン不耐症の診断基準を明確にする必要がある。また、冠動脈疾患以外の動脈硬化性疾患の予防・治療に本剤を用いるべきか否かの検討や、本剤の未知の副作用が存在する可能性などが挙げられている。

関連資料:

日本動脈硬化学会/ヒトPCSK9モノクローナル抗体薬の適正使用について

[ mhlab ]
日本医療・健康情報研究所

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