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2012年11月06日
食品交換表の新たな方向性 カーボカウントの是非

「食品交換表」の初版は約50年前の1965年に発刊された。初版では、第1項として「適正なエネルギー」、そして第2項には「糖質量の制限」、第3項には「栄養素のバランス」が記載された。4年後の1969年には第2版への改訂が行われ、「基礎食・付加食」という新たな指導方法が導入された。
1,200kcalの食事を基礎食とみなし、それ以上のエネルギー量を付加食とする考えが示され、この部分については糖尿病患者が自由に選択できるようになった。実際には、当時の日本人の平均的な食事(脂肪20%程度、炭水化物60%程度、残りの約20%はタンパク質)からみると、付加食の大部分は炭水化物であったと推測される。
基礎食・付加食の指導の背景には、「食事療法を不必要なまでに困難なものにしない」という目的があった。この点について石田均教授は「主に炭水化物からなる付加食の量を正確に把握することが、自由度の高い食事療法の指導法に結びつくことを意味しており、これは現在のカーボカウントの考えかたとも相通じる」と指摘する。
しかし、基礎食・付加食という記載は、1993年改訂の第5版から使われなくなり、2002年改訂の第6版では食事療法の原則として、(1)適正なエネルギー量、(2)栄養素のバランスの2項目が引き続き記載されている。
炭水化物は食事の総エネルギーの50〜60%程度(主なものは多糖類である把質)を占め、かつ消化・吸収が速いことから、ほかの栄養素と比べ食後血糖に大きな影響を及ぼす。
「糖質量と血糖管理に注目したカーボカウントは、個々の患者の生活に合わせた柔軟な対応ができる指導法として期待されている。炭水化物や糖質の意義について、糖尿病食事療法のなかで問い直す必要が出てきた」と石田教授は話す。
カーボカウントに関する臨床研究の代表例として、1993年に公表された大規摸研究DCCTがまず挙げられる。強化インスリン療法による厳格な血糖コントロールで1型糖尿病の合併症予防が可能となることが実証されたが、そのなかでカーボカウントが食事計画のひとつの手段として用いられ注目を集めた。
しかし、欧米の食習慣をはじめとする生活様式は、日本人とは異なる点が多い。「食品交換表は日本人の食習慣に根差した食事指導のツールであり、主食と副食から構成される日本の食事(和食)の形態をよく反映している。欧米人とは異なり肥満の度合いが少なく、インスリン分泌能が弱いという遺伝素因に順応した和食の伝統を守ることは、日本人の健康寿命を維持することを意味する」と石田教授は強調する。
カーボカウントには欠点もある。「脂質やタンパク質のエネルギーが過剰となることが多く、脂質異常症などの生活習慣病のリスクが増大しやすい」、「糖質量に合わせたインスリン量の詞整が可能となるため、逆に間食の回数や食事量そのものの増大を生じ、体重増加を生じやすい」、「同様の糖質量であっても、食材のグリセミックインデックスが低値の場合には、同量のインスリンを用いても低血糖を生じることがある」といった欠点は、糖質量のみを重視し全体の栄養バランスに注意を払わないことで引き起こされる。
極端な炭水化物(糖質)制限食として知られるアトキンスダイエットで、心筋梗塞や脳卒中、動脈硬化などの心血管疾患が増加することを示した、スウェーデンの女性約4万4,000人を約15年間観察した研究も報告されている。糖質摂取量の低下、あるいはタンパク質摂取量の増加は心血管イベントに関連することが示された。この研究は、2012年6月に英医学誌「BMJ」に発表された。
「炭水化物の摂取下限に関する長期的なコンセンサスは得られていない。極端な糖質制限に走ることのないように留意すべきだ。日本人における伝統的な食文化に根差した食品交換表にもとづく食事療法の意義を確立するために、より大規模かつ長期にわたる臨床研究による科学的根拠の確立とガイドラインの作成が早急に望まれる」と石田教授はまとめた。
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