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2012年02月02日
増える1型糖尿病患者 世界の医療格差は拡大
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- 1型糖尿病

社会・経済的な発展に伴う変化の影響も大きい。IDFのLeonor Guariguata氏(医療統計学)は、「子供の1型糖尿病については、社会的な課題が多くある。民族、1型糖尿病の適切な診断、受けられる社会保障、患者が十分な治療を受けられるよう医療体制を整備することなどだ。しかし現状では、地域によって大きな差がある」と指摘する。
インスリンが発見されてから約90年が経過した。先進国では医療が高度に発達し、1型糖尿病の治療も大きく変化し、これまでに画期的な進歩があった。ヒトインスリン製剤やインスリンアナログ製剤の開発、作用時間の長いタイプのインスリン製剤の開発、血糖自己測定、HbA1c検査、糖尿病合併症の予防、血糖コントロールの重要性に対する理解、食事療法と運動療法を効果的に行うための知見、糖尿病教育やエンパワーメント、糖尿病の国際的な研究連携、インスリンポンプ療法などだ。
インスリン製剤を治療に使えるようになる以前は、1型糖尿病と診断されることは死を意味していた。医療が進歩した現在では、1型糖尿病とともに生きる人が60〜70歳という長寿を迎えることは当たり前になっている。連続血糖測定(CGM)とインスリンポンプを組み合われた“人口膵臓”の開発や、膵島移植の実現に向けた開発も行われており、今後も1型糖尿病の医療は進歩すると期待されている。
世界の15歳以下の1型糖尿病の子供のうち約23万人(約46%)は先進国に集中している。1型糖尿病の子供が多いのは、欧州、米国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、日本、シンガポール、サウジアラビアなど、高所得の国がほとんどだ。
先進国の多い欧州地域では、糖尿病に関する精度の高い疫学研究が行われている。2件の大規模な国際共同プロジェクトである「糖尿病Mondiale研究(DiaMond)」と「欧州糖尿病研究(EURODIAB)」では、糖尿病の有病率と有病率に関する最新の調査結果が示された。
特に患者数が増加している中央・東ヨーロッパ諸国では、この疾患は比較的珍しいものではない。1型糖尿病の子供は欧州では増えており、世界の患者の24%はこの地域に集中しているという。
世界の1型糖尿病の子供のうち、26万人の子供は低・中所得国で暮らしている。インドでは9万7700人、アフリカでは3万6000人に上る。インスリン製剤など糖尿病の医薬品は高価なので、低・中所得の国では治療に使うことはできない。
結果として、途上国では多くの1型糖尿病の子供が亡くなっているとみられている。北アフリカに位置するスーダンで行われた研究では、1型糖尿病の子供の10万人当たり42.6人の割合で死亡していることが示された。これは、米国の10万人当たり0.63人に比べ、大幅に高い数値だ。
世界の多くを占める途上国では、1型糖尿病に関する調査すら十分にできていない。IDFによると、世界の202ヵ国のうち1型糖尿病の発症率に関する統計資料をもたない国が129ヵ国に及ぶという。
そこで、国際糖尿病連合(IDF)は世界の36ヵ国で、1型糖尿病の子供を支援するプロジェクト「ライフ・フォー・チャイルド・プログラム」を実施し、現地の糖尿病のクリニックや病院を援助している。
糖尿病患者や家族が1型糖尿病に関する正確な知識をもっていないと、効果的な治療を行えなくなる。そこで、思春期の患者向けの糖尿病の教育資材を数ヵ国語で作成し、インターネットでも公開している。国際小児思春期糖尿病学会(ISPAD)は国際ガイドラインを作り、糖尿病の治療を世界規模で広めている。
「国際糖尿病支援基金」は、経済的に恵まれない途上国の糖尿病患者さんにインスリンや糖尿病療養に必要な資材を提供しているInsulin For Life(オーストラリア)や、インドで1型糖尿病の子供たちをサポートしているDream Trust、エクアドルの1型糖尿病患者向けサマーキャンプなど、途上国の糖尿病患者のために活動する団体を支援するとともに、糖尿病患者を資金面・ボランティアなどで援助しています。 また、途上国をはじめとした世界の糖尿病事情を、日本の糖尿病患者、糖尿病医療スタッフ、その他この問題に関心をもつ人に広く紹介しています。 国際糖尿病支援基金ホームページをぜひご覧ください。 |
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