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2009年03月26日

メタボリックシンドロームを予防 国立健康・栄養研が公開セミナー

 国立健康・栄養研究所の一般公開セミナーが東京都内で2月に開かれ、生活習慣病やメタボリックシンドロームの予防などに関する最新の研究成果が一般向けに紹介された。

 国立健康・栄養研究所は1920年に発足して以来、国民の健康の保持・増進、栄養・食生活に関する調査・研究を行っている。今回の公開セミナーは10回目の開催となる。
内臓脂肪とインスリン抵抗性
第10回一般公開セミナー
「生活習慣と健康-メタボリックシンドロームを予防するために-」
一般公開セミナー
[日時]2009年2月28日
[場所]よみうりホール(千代田区)
[主催]国立健康・栄養研究所
写真は同セミナーで特別講演を行ったプロレスラーの藤波辰爾氏
 春日雅人・国立国際医療センター研究所所長は「メタボリックシンドロームとはどんな病気か」というテーマで、肥満と血糖を下げるインスリンの作用が低下する「インスリン抵抗性」の関連などを、豊富な資料をもとに紹介した。

 メタボリックシンドロームは、内臓脂肪が蓄積した肥満(内臓肥満)にともない、高血糖、高脂血症、高血圧を合併した病態。メタボの人では動脈硬化が進みやすく、心血管系の病気を発症しやすいことが臨床研究で確かめられている。

 肥満の人では脂肪細胞の肥大化と、細胞数の増加がみられる。食事でエネルギーを過剰に摂取すると脂肪細胞として蓄えられる。これは食料が不足する時代が圧倒的に長かったためにヒトや動物の体が備えた機能だが、現代は飽食による肥満が健康上の障害として問題にされるようになった。

 それ以外にも脂肪細胞はさまざまな生理活性物質(アディポカイン)を分泌していることが最近の研究で分かってきた。アディポカインは悪玉と善玉があり、インスリン抵抗性に深く関わっている。肥満にともなうインスリン抵抗性は脂肪組織の「慢性炎症」と考えられており、悪玉アディポカインのTNF-αが影響している。

 インスリン抵抗性を改善するために重要なのは「生活習慣を改善し肥満を解消すること」。内臓脂肪はたまりやすいが、食事や運動で減らしやすい。また、脂肪細胞の数が増えるのは平均的に20歳ぐらいまででそれ以降は一定だが、肥満の人では脂肪細胞の数の増加がみられる。肥満を解消すると細胞の1つあたりのサイズが小さくなるが、細胞の数はなかなか減らない。春日氏は「数を増やさないようにすることも重要」という。

 脂肪細胞を増やさないために20歳以下、特に幼少時の肥満対策が大切だが、それには出生体重も大きく関わっている。出生体重が過度に少ない子供は、成長してから2型糖尿病や肥満などになりやすいことが、英国や日本での研究で示されている。春日氏は「日本では低体重の子供がこの20年間で増えており、若い女性で‘やせ’が増えていることが一因とみられる。女性には低体重や‘やせ’がもたらす健康障害にも注意していただきたい」と指摘した。

食事と運動は日常生活での工夫で改善
 由田克士・国民健康・栄養謨査プロジェクトリーダーは、同研究所が集計している「国民健康・栄善調査」の最近の結果を紹介した。調査によると、男性では全ての年齢層で、肥満の割合は20年前、10年前と比べ増加しており、糖尿病とその予備群の推定数は計2210万人に上った。生活習慣をみると、国民の1日の平均歩数、睡眠・休養の状況、野菜の摂取量など目標値に達していない項目が多い。

 饗場直美・栄養教育プログラムリーダーは「食事バランスをいかに改善するか」をテーマに講演し、メタボリックシンドロームを予防するための実際的な食事について紹介した。多忙な生活の中で時間に追われ、食事を本当に楽しむ機会が少なく、どうすれば健康的な食生活を実現できるのかが分からないという人は多い。そこで厚生労働省と農林水産省は2005年に、望ましい食生活について分かりやすく示した「食事バランスガイド」を策定した。

 食事バランスのとれた食事を実践するためには、「食事のバランスがとれているか」「どこを修正すればよいのか」を知る必要がある。饗場氏は「まず1日の食事内容を書き上げ、ざっと分類」し、食事の皿を「主食・主菜・副菜・果物・乳製品の5つに当てはめてみる」ことを勧めている。そして「五感で楽しみながら楽しく食べることも大切」と結んだ。

 宮地元彦・運動ガイドラインプロジェクトリーダーは「身体活動量をいかに増やすか」をテーマに講演。宮地氏は日本人の運動・身体活動の状況と、厚生労働省が策定した「エクササイズガイド2006」の活用などを紹介。歩行や掃除、草むしりなど日常で体を動かすことで、運動と同様に身体活動量を増やす効果を期待できることや、歩数計を携帯することで歩数を増やした実例などを交えて解説した。

 ストレッチングやヨガ、体操なども運動の準備や整理として行うと、心身の緊張をほくじ、体の柔軟性を高める効果が期待できる。また、テレビゲームに運動機器などを組合わせた新しい運動方法についても検討。市販されている乗馬を疑似体験できる運動機器の効果については、実際に滅量効果があることが確かめられたが、運動量は通常の速度での歩行(エクササイズガイドでは3メッツに相当)よりも少なめだという。

[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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