ニュース
2017年09月08日
「食べても太りにくい」仕組みを解明 脂肪細胞の褐色化を促進

群馬大学生体調節研究所や順天堂大学などの研究グループは、食べても太りにくい体質づくりにつながる脂肪細胞を増やすメカニズムを発見した。糖尿病や肥満の新たな治療法の開発につながる成果だ。
ベージュ脂肪細胞を増やすとエネルギー消費量を増やせる
肥満を伴う糖尿病の患者数は日本でも増加している。その病態の解明と、新しい治療法の開発が課題となっている。
肥満に影響している脂肪細胞には、エネルギーを貯める「白色脂肪細胞」と、エネルギーを消費する「褐色脂肪細胞」がある。
白色脂肪細胞は皮下や内臓に分布し、体内の余分なエネルギーを脂肪として蓄積する。一方、褐色脂肪細胞は、脂肪を燃焼し熱を産生する働きをする。
最近の研究で、ヒトの成人の褐色脂肪細胞の多くは「ベージュ脂肪細胞」であることが明らかになってきた。
ベージュ脂肪細胞を増やす方法を明らかにし、熱産生に働く調節経路を解明することで、全身のエネルギー消費量を増やすことが、糖尿病や肥満の新たな治療法を開発できると考えられている。
亜鉛が生命活動に深く関わる
白色脂肪細胞がベージュ脂肪細胞へ分化転換する過程や、前駆脂肪細胞からベージュ脂肪細胞への分化過程を脂肪細胞の「褐色化」といいう。白色脂肪組織中にはさまざまな環境刺激によって褐色化するベージュ脂肪細胞がある。
一方、生命活動の維持には、タンパク質や炭水化物などのほかに微量の金属元素が必要であり、「亜鉛」はそのひとつだ。亜鉛には、細胞の中で酵素や転写因子などのタンパク質と結合し、酵素を活性化したり立体構造を維持したりする働きもある。
最近の研究で、亜鉛の輸送に関わる亜鉛トランスポーターが同定され、これを介する細胞間や臓器間の「亜鉛シグナル」が生命活動に深く関わっていることが分かってきた。
亜鉛シグナルの健康と病気への影響は注目されているが、糖尿病などでの亜鉛や亜鉛シグナルの役割とそのメカニズムはほとんど明らかにされていない。
タンパク質「ZIP13」を阻害するとベージュ脂肪が増える
そこで研究チームは、特定のタンパク質が、ベージュ脂肪細胞の出現にブレーキをかけていることを、世界で初めて解明した。そのタンパク質は、細胞内で亜鉛を輸送する「ZIP13」。
研究チームは、通常の野生マウスとZIP13を欠損させたマウスで皮下脂肪組織を比べたところ、野生マウスでは、白色脂肪細胞が多かったのに対し、欠損マウスではベージュ脂肪細胞が多く見られ、エネルギー消費量が増加し、高脂肪食を与えても太りにくいことが明らかになった。
ZIP13を介した亜鉛の流れが脂肪細胞の褐色化を抑制しており、さらに詳細な解析をしたところ、ZIP13を欠損した細胞ではベージュ脂肪細胞の分化過程で必要なタンパク質の蓄積が持続し、これにより脂肪細胞の褐色化の進展に必要なタンパク質が増加し、脂肪細胞が褐色化しやすくなることが判明した。
ベージュ脂肪細胞が誘導されると、エネルギー消費量が増加し、高脂肪食を与えても、太りにくい体質になることが明らかになった。
今回の研究により、ZIP13は前駆脂肪細胞からベージュ脂肪細胞への分化過程をコントロールしていることが分かった。

順天堂大学大学院医学研究科代謝内分泌内科学
Zinc transporter ZIP13 suppresses beige adipocyte biogenesis and energy expenditure by regulating C/EBP-β expression(PLoS Genetics 2017年8月30日)
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所
医療の進歩の関連記事
- 世界初の週1回投与の持効型溶解インスリン製剤 注射回数を減らし糖尿病患者の負担を軽減
- 腎不全の患者さんを透析から解放 腎臓の新しい移植医療が成功 「異種移植」とは?
- 【1型糖尿病の最新情報】幹細胞由来の膵島細胞を移植する治療法の開発 危険な低血糖を防ぐ新しい方法も
- 糖尿病の治療薬であるGLP-1受容体作動薬が腎臓病のリスクを大幅に低下 認知症も減少
- JADEC(日本糖尿病協会)の活動 「さかえ」がWebページで閲覧できるなど「最新のお知らせ」からご紹介
- 【1型糖尿病の最新情報】iPS細胞から作った膵島細胞を移植 日本でも治験を開始 海外には成功例も
- 「スマートインスリン」の開発が前進 血糖値が高いときだけ作用する新タイプのインスリン製剤 1型糖尿病の負担を軽減
- 糖尿病の医療はここまで進歩している 合併症を予防するための戦略が必要 糖尿病の最新情報
- 【1型糖尿病の最新情報】1型糖尿病を根治する新しい治療法の開発 幹細胞由来の膵島細胞を移植
- 【1型糖尿病の最新情報】1型糖尿病の人の寿命は延びている 精神的負担を軽減し血糖管理を改善 針を使わずにインスリンを投与