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2017年04月07日
「糖尿病による苦痛」を軽くするために 心の負担への対処法
糖尿病とともに生きる人の多くは、糖尿病による心の負担である「糖尿病による苦痛」を感じている。これを緩和するための対策が考えられている。
糖尿病による負担は大きい
糖尿病の治療の目的は、血糖や体重、血圧、脂質などを良好にコントロールし、健康の人と変わらない生活の質を維持すること。そのために、患者は多くの時間と労力を費やさなければならない。
糖尿病の治療には、毎日の服薬やインスリン注射、食事療法や運動療法、血糖自己測定といったマネージメントだけでなく、医師の診療を定期的に受けることや、家族や職場の理解といった社会的な交流も含まれる。
そうした糖尿病とともに生きる日々が負担になり、理解できない重みに感じられ、ときには敗北感をいだくこともある。糖尿病患者が抱える心の負担は「糖尿病による苦痛」(diabetes distress)と呼ばれており、特にインスリンを使用する患者でしばしばみられるという。
孤独に悩む患者は多い
糖尿病患者の健康を維持し、より良い人生を実現するために、「糖尿病による苦痛」を軽くする対応が必要であると、糖尿病療養に携わる医療者の多くは気付いている。こうした否定的な感情を克服する方法を模索している。
「糖尿病は患者による毎日の自己管理が必要な病気で、ストレスがたまりやすいのが特徴です」と、カリフォルニア大学サンフランシスコ校糖尿病センターのローレンス フィッシャー教授は言う。
「糖尿病患者さんの多くで、うつ病と診断されるほど深刻ではいないにしても、うつ病、不安、ストレスといった、いくつかのネガティブな状態がみられます。そうした患者さんが本当に多いことに驚かされます」と、フィッシャー教授は言う。
糖尿病とともに生きる人の多くは、慢性疾患である糖尿病による心身の負担、生活の不安、医療費の心配など、多くのことに苦しめられている。そうした苦しみは患者ごとに異なり、医療者に知られることなく孤独に悩む患者も少なくないという。
「糖尿病による苦痛」があるとHbA1cが悪化
「糖尿病とともに生きる日々に休みはありません。患者は常に糖尿病と向き合っていなければなりません。そのことに疲れてしまう患者さんは多いのです」と、ワルターリード国立軍事医療センター糖尿病研究所のステファニー フォンダ氏は言う。
多くの患者が、適切な治療を続けることや、医療者とのコミュニケーションについて頭を悩ませている。そして、「他人は糖尿病である自分のことを本当に分かってくれているのだろうか」と疑問を感じることがある。
「糖尿病による苦痛」はまれに起こるのではなく、フィッシャー教授によると、糖尿病を発症して18ヵ月間に、患者の2分の1から3分の1が苦しみを経験しているという。そして、「糖尿病による苦痛」を感じている患者では血糖コントロールが悪化し、HbA1cが上昇する傾向がある。
極度のストレスがかかった状態にある人が「燃え尽き症候群(バーンアウト)」に陥ることがある。そうした人では、治療の効果が思わしくないことを悲観して、糖尿病の薬を服用するのをやめてしまうケースがあるという。これはとても危険な状態なので、医療従事者は患者のメンタル面についても気を配る必要があると指摘している。
苦痛は軽減できる
「糖尿病による苦痛」の4つのタイプ
「糖尿病による苦痛」は大きく4つあると、フォンダ氏は指摘している。
● 治療により生活が変わってしまったことによる苦痛
食事をコントロールし、運動を続け、薬をきちんと服用して血糖値をコントロールしなければならないという気持ちがあり、どれかがうまくいかないと自分を責めてしまう。
● 未来を思い煩うことによる苦痛
2型糖尿病の多くは進行性で、将来に合併症を発症する危険性がある。「自分はこのままやっていけるだろうか」という、未来に対する不安感がある。
● 治療と医療費についての悩み
自分が受けている治療は適正だろうか、もっと自分に適した治療があるのではないだろうか、という焦りのような気持ち。糖尿病の医療費が増えることについても悩んでいる。
● 社会の無理解が糖尿病患者にとって負担になる
周囲の人や社会に、糖尿病に対する適正な理解が不足していると、患者にとって大きな負担になる。例えば、「糖尿病の人はお菓子を食べ過ぎたため発症した」といった誤った理解をする人がいまだに少なくない。2型糖尿病は遺伝因子と環境因子が合わさって発症するが、肥満でなくともインスリン分泌が低下すると発症しやすい。また、1型糖尿病は自己免疫疾患を基礎として膵臓のβ細胞が破壊されることで発症し、生活習慣や肥満とは関係がない。
「糖尿病による苦痛」を緩和する方法
「糖尿病による苦痛は、多くのは患者にとって、糖尿病とともに生きる上で避けなれないことです。患者が独力で解決できることもありますが、他の人の手助けがあるとより良い成果を得られることが多いのです」と、フィッシャー教授は言う。
「糖尿病による苦痛」を緩和するために、フィッシャー教授は次のことを勧めている。
● 完璧を目指さない
糖尿病治療において、全てを完璧に管理するのは難しい。医師や医療スタッフの指示に従って、血糖コントロール、血圧コントロール、コレステロール値などの管理を全て完璧にこなすのは至難の業だ。完璧を目指すのではなく、より良いものを目指そう。少しでも改善できれば、それを維持し、自分を褒めてあげよう。
● 1つずつステップを上げていく
一度に全てに取り組むのではなく、1つずつステップを上げていくだけでも、糖尿病療養は改善できる。生活スタイルを変えるときは、一度に行わず、ゆっくりと変化を加えていく。また、結果がすぐに出ないときでも落胆しないで、辛抱強く続けることが大切。
● サポートを求める
もしも糖尿病の治療に疲れて、苦痛を感じているとしても、それはあなただけの問題ではないし、また決してあなたが悪いわけではない。いまの状態に絶望する必要はない。他人のサポートを求めることは、決して恥かしいことではない。他人の支援を求めるのは自分の力が低下しているからだと考える人が少なくないが、むしろ強さのあらわれだ。自分が何が必要であることを具体的に見極めて、それを誰かに求めるときには勇気がいる。
食欲が低下したり睡眠パターンが変化したとき、趣味などの自分が好きだったことへの興味を失ったり、気分の落ち込みがある場合は、医師や医療スタッフに相談しよう。
糖尿病患者のメンタルヘルスのガイドライン
米国糖尿病学会(ADA)は、糖尿病患者のメンタルヘルスの評価を日常診療に含めることを定めたガイドラインを、2016年11月に公表した。
糖尿病とともに生きる人は、糖尿病を管理する能力に加えて、複雑な社会環境や、行動や感情などの心理・社会的な要因の影響を大きく受けている。糖尿病療養において、心理・社会的なコンポーネントに配慮することは重要だ。
ADAの新しいステートメントでは、患者の糖尿病のタイプや年齢、社会的背景、家族によるサポートなどを含めて、心理・社会的に評価し、個別化した治療を行う必要性について指摘している。
ガイドラインでは、1型糖尿病と2型糖尿病のある患者に影響を及ぼす、糖尿病による苦痛、うつ病や不安症、摂食障害などの心理的要因に着目し、生活スタイルとメンタル面でサポートすることが糖尿病治療では必要であることを強調している。
「糖尿病療養に携わる医療者は、糖尿病の医療的なマネージメントが重要であることはよく知っていますが、心理・社会的な側面でも十分な対応する必要があります」と、米国糖尿病学会(ADA)のアリシア マコーリフ-フォーガティ氏は述べている。
Psychosocial Care for People With Diabetes: A Position Statement of the American Diabetes Association(Diabetes Care 2016年12月)Diabetes Distress(米国糖尿病学会 2014年7月29日)
Diabetes Distress v. Depression: Are People with Type 2 Being Misdiagnosed?(米国糖尿病学会 2014年6月16日)
The Relationship Between Diabetes Distress and Clinical Depression With Glycemic Control Among Patients With Type 2 Diabetes(Diabetes Care 2010年2月11日)
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所
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