糖尿病の医療費・保険・制度

糖尿病の医療費とインスリンバイオシミラー
~医師と患者の対話~

東京女子医科大学病院の三浦順之助先生と、その患者さんである田中雄一さんに、主治医と患者さんのお立場から、また、多くの患者会に関われてきたご経験から、糖尿病の医療費の問題についてお話しいただきました。医療費を削減したいときのインスリン製剤の選択のポイントや社会保障制度の現状についてもご紹介します。

2022年9月取材

提供:サノフィ株式会社
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三浦 順之助 医師と田中 雄一さん

東京女子医科大学病院 糖尿病センター 准教授
三浦 順之助 医師

1型糖尿病を治療中の患者さん
田中 雄一さん
30歳のときに1型糖尿病を発症し、現在、三浦順之助先生のもとで治療を続けておられます。日本糖尿病協会が提供する"患者さんによる患者さんサポート"制度「インスリンメンター」として活躍されるなど、さまざまな活動を通して、患者支援や糖尿病の啓発を担っておられます。


医療費に対する糖尿病の方々の本音

三浦 田中さんと初めてお会いしたのは、10年ほど前のことでしたね。東京女子医科大学が運営に携わっている「若い糖尿病患者さんとのグループミーティング」*1の初期の頃に、田中さんが参加されて以来でしょうか。
田中 はい。第2回から参加してきました。
三浦 田中さんは、こうした患者会などの場に積極的に出られ、ほかの患者さんの役に立ちたいというお気持ちがとても強いことが窺えます。私たち運営側にも協力していただいて、いろいろな企画を一緒に進めてきましたね。
田中 はい、私は30歳のときに1型糖尿病を発症しましたが、グループミーティングなどのさまざまな会で、患者さんやご家族、ときには幼稚園や保育園の先生方たちともお話ししてきました。
三浦 本日は、そんな田中さんご自身の糖尿病医療に対するお考えや、周りの患者さんの様子についてお聞かせください。まず、インスリンが絶対に必要となる1型糖尿病の方では、年齢によって事情が異なりますが、やはり医療費の負担は大きいですか?
田中 そうですね。毎月1万円かかると、年間で12万円かかり、30歳で発症した場合、50年ほどにわたってそれが続くとなると、ざっと600万円くらいのお金が出ていくわけです。どうやってこれだけのお金を捻出するかということを考えなければいけないですね。
三浦 2型糖尿病の方の場合も、インスリン治療が加わると医療費がだいぶ変わりますから、気にされる方が増えます。特に若い方にとっては負担が大きいでしょうね。
田中 正直、「なりたくてなった病気じゃないのに。この病気がなければ、他のことにお金を使えるのに」と思う気持ちもあります。
三浦 患者さん同士で医療費の話をすることはありますか?
田中 あります。例えば、「注射は何を使っているの?」といった会話から話題が広がり、お金の話につながる感じでしょうか。
三浦 なるほど。医療費について直接口にされない患者さんも少なくないです。そうした患者さんには、インスリン治療はいつまで続けなければならないのか、途中で薬が変更できるのかといった話の中で費用についてもご説明していますが、非常にセンシティブな問題と感じています。

糖尿病にかかわる社会保障の課題

三浦 先ほど、医療費の問題は年齢によって事情が異なると述べましたが、10代までは各種の社会保障制度があるということです。成人(20歳)になった時点で小児、児童向けの制度が適用されなくなりますので、自己負担額が格段と高くなってしまいます。
田中 20歳を過ぎると頼れる制度がないですね。
三浦 田中さんも発症時は30歳という働き盛りの年代でしたから、不安が大きかったのではないでしょうか。
田中 当初は医療費のことは知識がなかったこともあって、それほど気にしませんでしたが、治療生活に慣れてくると、生涯にわたる経済的負担をいかに抑えようかと考えるようになりました。
三浦 糖尿病の方を対象とした社会保障制度はまだ十分とはいえません。障害基礎年金、障害厚生年金に関しては、受給要件を満たすのはなかなか難しいのが現状です。
田中 障害年金3級の認定にしても、初診段階で厚生年金に加入していた場合のみが対象となるようですね。
三浦 その通りです。障害年金3級の申請について相談を受けることがあります。重症低血糖が多くみられたり、時折仕事に制限がかかったりする例は少なくないため、そういった場合、いかに障害年金3級が認定されるか、年金の支給が叶わずとも何か補助があればと思いますね。この状況は‟普通"ではありませんので。
田中 私自身はまだ申請したことはありませんが...。
三浦 それだけご自身の血糖管理が良好で、お元気だということだと思います。
田中 私たち1型糖尿病よりもっと大変な病気に向き合っている人たちがいることを思えば、補助を声高に社会に訴えるわけにもいかないかもしれません。しかし、僕世代にもなってくると、患者同士で老後のことが話題にあがります。収入がなくなったときのことを考えないといけない年齢になってきました。
三浦 高齢の患者さんについては、先日のヤングの会*1でも田中さんの発案で取り上げましたね。医療費の不安はもちろん、認知症になって自分でインスリンを打てなくなったらどうするかなど、糖尿病と共に歩みながら老後を迎えることに大きな不安を抱いておられる方が少なくありません。すでに超高齢社会を迎えている日本では、そうした高齢の患者さんの不安を払拭できる社会システムを早急につくらなければならない状況にあると考えます。

三浦 順之助 医師

普及が進む インスリンバイオシミラーをめぐって

田中 医療費を気にされる患者さんにはどのようなアドバイスをされますか?
三浦 そうした方には、まず、プレフィルドタイプから、単価の低いカートリッジタイプへ剤形の変更を提案することが多いでしょうか。カートリッジタイプとプレフィルドタイプを併用したいという方もいます。カートリッジタイプは重いから持ち歩きたくないといった方には、プレフィルドタイプの中でも安価な製剤をお勧めします。インスリンバイオシミラーも選択肢の1つになるわけですが、田中さんはインスリンバイオシミラーをご存じですか?
田中 はい、最近よく耳にするようになりました。
三浦 インスリンバイオシミラーは、先行バイオ医薬品と比べて安価で、また、臨床治験によって先行バイオ医薬品との同等/同質の安全性が担保されていますから*2、私たち処方する側もさほど心配していません。
田中 インスリンバイオシミラーは、どんな患者さんに適していますか?
三浦 患者さんの中には、インスリン製剤はなるべく安価な方が良いという方もいれば、同じ製剤でも効きの速さの感じ方は人それぞれ違うため、自分の生活リズムに合うかどうかを重視するという方もいます。患者さんそれぞれこだわっているポイントが少しずつ違うように思います。
 例えば、同じ超速効型インスリン製剤でもいくつか種類がありますが、患者さんそれぞれ好みが分かれますね。一番大切なのは患者さんがうまく血糖管理ができるかどうかですから、薬価を含め、薬剤の性質や効果を考え、患者さん1人ひとりに最適な薬剤選択となるよう心がけています。

田中 雄一さん

医療コミュニケーションが薬剤選択の幅を広げる

三浦 今、患者さんがつくるネットワークは、コロナ禍の影響を受けていると思いますが、田中さんはたくさんの方たちと途切れることなく交流を続けていますね。
田中 はい、オンラインで続けています。全国の患者さんと繋がれるメリットは大きいですが、やはり僕はリアルがいい。今年は茨城県の患者会で久々に日帰りキャンプを行い、僕もボランティアとして参加してきました。インスリンメンターとして、今後も糖尿病に向き合う子どもたちにリアルな交流の場を広げていきたいと、改めて思いました。
三浦 患者さんの集まりでも、食事を共にして、実際にインスリン注射を打ちながら患者さん同士で情報交換できるリアルな場は貴重だと思います。特に発症早期の方には、先輩の患者さんがどのように判断しているかなども参考になります。早くそのような状況に戻ることを期待したいです。
田中 本当に。患者同士で薬剤について情報交換することも多く、診察時に先生に「こんな話を聞いたのでこの薬を使ってみたい」といった相談をすることもありますね。そんなとき、例えば、さまざまなインスリン注射器のサンプルで使い心地を試してみることができれば、私たちにとっても良い判断材料になるのですが。
三浦 それはまず現在の保険制度の拡充と製薬会社や病院側の工夫の余地が必要なお話ですね。
田中 また、病院によって扱っている薬剤の選択肢の幅が違うのが現状です。選択肢がもっと広がるといいなと思います。


*1 東京女子医科大学病院では、「若い糖尿病患者さんのためのグループミーティング」や「ヤングの会」を通して、1型糖尿病の方に他の患者さんや医療従事者との交流・学びの場を提供しています。
*2 「バイオ後続品の品質・安全性・有効性確保のための指針」について 令和2年2月4日(薬生薬審発 0204 第1号)
2022年12月更新

※ヘモグロビンA1c(HbA1c)等の表記は記事の公開時期の値を表示しています。

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