ニュース

2021年03月24日

インスリンを飲み薬にした「経口インスリン」の実現に向け前進 糖尿病患者のQOL向上を期待 熊本大学

 熊本大学は、インスリンを飲み薬として服用できる「経口インスリン」を実現できる方法を開発したと発表した。
 消化酵素によって分解されにくいアミノ酸(D体アミノ酸)で合成した「小腸透過環状ペプチドDNP」(DNPペプチド)を使うというもの。
 インスリンを小腸から吸収されるようにし、実験でマウスに経口投与し、血糖値を低下させるのに成功した。
 亜鉛を添加してインスリンを6量体化させると、さらにインスリンの吸収が促進され、糖尿病マウスで血糖値が低下した。
インスリンを飲み薬として服用する「経口インスリン」の実現に向けて
 熊本大学は、インスリンに「小腸透過環状ペプチドDNP」(DNPペプチド)を添加剤として用いることで、インスリンの小腸吸収を促進させ、経口投与によりマウスの血糖値を低下させることに成功したと発表した。

 インスリン療法は、インスリン製剤を自己注射することで、不足しているインスリンを体外から補い、血糖コントロールを行う糖尿病の治療法。しかし、インスリン自己注射は痛みをともなうなど、治療を続けるうえで負担を感じている糖尿病患者は少なくない。

 インスリンを飲み薬として服用できる「経口インスリン」を開発すれば、糖尿病患者の生活の質(QOL)をさらに向上できると期待されている。しかし、インスリンが発見されてから100年になるにもかかわらず、経口インスリンはまだ開発されていない。

 経口インスリンの実現が難しい理由のひとつは、インスリンが小腸から吸収されず、消化管で分解されてしまうことだ。

 研究グループは、この問題に対して、消化酵素によって分解されにくいアミノ酸(D体アミノ酸)で合成した「小腸透過環状ペプチドDNP」(DNPペプチド)と、亜鉛添加によって作製した「インスリン6量体」を用いて解決することを目指した。

 研究は、熊本大学大学院生命科学研究部の伊藤慎悟准教授、大槻純男教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Molecular Pharmaceutics」に掲載された。

開発した経口インスリンのメカニズム

出典:熊本大学大学院生命科学研究部、2021年
インスリンを飲み薬にして小腸から吸収させ、血糖値を下げるのに成功
 研究グループは、DNPペプチドの消化管分解を抑制するため、D体アミノ酸を用いて小腸透過環状ペプチドDNP(D体DNPペプチド)を合成した。また、インスリンの消化管分解を抑制するために、塩化亜鉛を添加してインスリン6量体(亜鉛インスリン6量体)を作製した。

 この混合液を、マウスの腸管内に直接投与した結果、投与後5分から門脈血中にてインスリンが検出され、投与後15~60分で血糖値が低下し、この血糖低下作用は少なくとも投与後120分まで持続することが分かった。

 次に、この混合液を経口投与したところ、投与後15分から血糖値の低下が観察され、血糖降下作用は投与後120分まで持続した。

 両方の投与法で、D体DNPペプチドはL体アミノ酸で合成したL体DNPペプチドよりも強い血糖降下作用を示した。さらに、糖尿病モデルマウスに同混合液を腸管内および経口投与したところ、投与後30分から血糖値の低下が確認された。

糖尿病モデルマウスでのD体DNPペプチドと亜鉛インスリンの
腸管内(左)および経口(右)共投与による血糖降下作用

出典:熊本大学大学院生命科学研究部、2021年
実際のインスリン製剤を使った実験も成功
 多くのインスリン注射剤には亜鉛添加によって作製したインスリン6量体が含有されている。そのため、これまでの研究結果から、D体DNPペプチドをインスリン注射剤に添加するだけで経口インスリンを開発できると考えられる。

 そこで、インスリン注射製剤(Humulin 3/7)にD体DNPペプチドを添加し、マウスに経口投与したところ、実験で作製した亜鉛インスリン6量体と同様に血糖降下作用がみられた。これらのことから、既存のインスリン注射製剤にD体DNPペプチドを添加するだけで、経口インスリン開発が可能であることが示唆された。

 「今回の研究成果から、D体DNPペプチドを用いた経口インスリン開発の基盤構築ができました。今後、投与法の最適化によって、さらにインスリンの小腸吸収を促進させる方法を開発することで、経口インスリン創薬に貢献することが期待されます」と、研究グループは述べている。

インスリン注射製剤(Humulin 3/7)とD体DNPペプチドの
経口共投与による血糖降下作用

出典:熊本大学大学院生命科学研究部、2021年

熊本大学大学院生命科学研究部
Oral co-administration of Zn-insulin with D-form small intestine-permeable cyclic peptide enhances its blood glucose-lowering effect in mice(Molecular Pharmaceutics 2021年2月22日)
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

play_circle_filled ニュース記事の二次利用について

このページの
TOPへ ▲