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2021年01月05日
血糖値に応じて作用を自動調整する「血糖応答型インスリン」 1型糖尿病の革新的な治療法を開発

血糖値に応じてインスリン作用を調整する「血糖応答型インスリン」の開発が進められている。
デンマークのコペンハーゲン大学などがこのほど、その足がかりとなるインスリン分子の開発に成功した。
実現すれば、インスリンの追加分泌と基礎分泌を1本のインスリン製剤で供給できるようになる。血糖値の上昇に応じて作用するので、低血糖も起こしにくいという。
よりシンプルで安全なインスリン療法を実現できる可能性がある。
デンマークのコペンハーゲン大学などがこのほど、その足がかりとなるインスリン分子の開発に成功した。
実現すれば、インスリンの追加分泌と基礎分泌を1本のインスリン製剤で供給できるようになる。血糖値の上昇に応じて作用するので、低血糖も起こしにくいという。
よりシンプルで安全なインスリン療法を実現できる可能性がある。
血糖値を感知する、新しいインスリンを開発
デンマークのコペンハーゲン大学とバイオテクノロジー企業のGubra社は、血糖値を感知し、血糖に依存的に作用する、新しいタイプのインスリン製剤の開発を進めており、このほどその足がかりとなるインスリン分子の開発に成功したと発表した。
両者が開発を進めているのは、「血糖応答型インスリン」(Glucose Responsive Insulins:GRI)と呼ばれるもの。GRIは、血糖値が正常レベルより上昇したときに作用し、血糖値が標準より下降したときに作用を停止するように設計されたスマート インスリンだ。
「血糖応答型インスリン」の開発は世界のいくつかの研究機関で進められているが、コペンハーゲン大学などが取り組んでいるのは、食事時の追加インスリンと、長時間作用型の基礎インスリンの、それぞれ特性を組み合わせて1分子溶液にしたものだ。
この新型インスリンを注射すると、アルブミンと結合し貯蔵物(デポ)として血液中を循環し、インスリンを緩徐放出し、基礎インスリンの働きをする。さらに、食後などに血糖値が正常値より高くなると、インスリンに結合されたリンカー分子の働きで、急速に活性インスリンを放出し、追加インスリンと同じように血糖を下げる。
インスリン療法をよりシンプルで安全なものにしたい
このインスリンにより、1型糖尿病患者の血糖コントロールが全般に改善するだけでなく、インスリンの追加分泌と基礎分泌を1本のインスリン製剤で供給できるようになるので、よりシンプルなインスリン療法が可能になるという。
さらに、このインスリンは血糖値の上昇に応じて作用するので、単独投与では低血糖も起こしにくい。低血糖は、インスリン療法を行っている1型糖尿病患者にとってもっとも深刻な副作用だ。
研究グループはこのほど、「血糖応答型インスリン」を実現するためのインスリン分子を、ラットを使い実験し、効果的に働くことを証明した。次のステップは、このインスリン分子がより迅速かつ正確に機能するように改良することだという。
「血糖値に応じて自己調整する革新的なインスリン製剤の実現に近づきました。これにより、1型糖尿病患者の生活を大幅に改善できる可能性があります」と、同大学化学部のクヌート ジェンセン教授は言う。
低血糖を起こさないインスリン製剤を実現したい
「1型糖尿病の治療に取り組む世界の4,600万人の患者のために、インスリン療法をもっと簡単で安全なものにする必要があります」と、ジェンセン教授は強調している。
「注射により血糖コントロールをしている1型糖尿病の患者さんは、現在の治療では、1日に何度もインスリンを注射し、指先などを穿刺し血糖自己測定を行う必要があります。この新しいインスリン製剤を開発に成功すれば、注射の頻度は少なくなり、血糖コントロールに悩まされることは減ると考えられます」。
ジェンセン教授が「血糖応答型インスリン」のアイデアを思いついたのは、米国の大学で研究していた頃だという。
「米国に住んでいたときに、知人であるヤン ソナーガード氏が、1型糖尿病の友人の話をしてくれました。ある晩に、一組の夫婦がダンスをしていたのですが、男性は1型糖尿病で、途中で気分が悪くなりダンスを続けられなくなりました。おそらく低血糖を起こしたのです」と、ジェンセン教授は言う。
「しかし、男性の妻はあわててしまい、判断を誤り、男性にインスリンを注射をしてしまいました。その結果、男性は重症低血糖を起こしてしまい、緊急救命が間に合わず、不幸なことに亡くなりました」。
重症低血糖を起こすと、意識が遠くなったり、昏睡やけいれんなどの重い症状があらわれ、自分では対処できなくなるため、家族やまわりの人の助けが必要となる。
「こうした悲劇が2度と繰り返されないようにしたいと考えるようになりました。インスリン療法で難しいのは、インスリンの作用が一定で常に同じ機能をすることです。それは患者さんが必要としていることかもしれませんが、ときに低血糖を引き起こすことがあります。低血糖を起こさないインスリン製剤を開発できないかと、研究に取り組み始めました」と、ジェンセン教授は述べている。
JDRFが研究資金の一部を提供 プログラム開発を加速
Gubra社は、この「血糖応答型インスリン」の開発を協働するため、JDRF(旧若年性糖尿病研究財団)と、2018年6月にパートナーシップを締結した。JDRFが研究資金の一部を提供することで、プログラムの開発を加速する考えだ。
ただし、この血糖コントロールを自動化する革命的なインスリンが、糖尿病患者の日常生活の一部になるまでに、まだしばらく時間がかかりそうだ。
「糖尿病治療を進歩させる革新的な技術といえますが、人を対象とした臨床試験を開始するためには、まだ課題が残っています。しかし、近い将来に必ず実現できると信じています」と、ジェンセン教授は述べている。
Better diabetes treatment: New insulin molecule can self-regulate blood sugar(コペンハーゲン大学 2020年12月3日)An Aldehyde Responsive, Cleavable Linker for Glucose Responsive Insulins(Chemistry--A European Journal 2020年11月10日)
JDRF and Gubra join forces to develop a new glucose responsive insulin for diabetes(Gubra 2018年6月18日)
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所
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