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2019年12月10日

冬の「ヒートショック」を予防 糖尿病の人は入浴時の血圧変動に注意

 冬には入浴時の急激な温度変化で体に負担がかかり、「ヒートショック」が起こりやすくなる。簡単な対策をすれば、入浴中の事故を防ぐことができる。
「ヒートショック」で亡くなる人は多い
 厚生労働省の人口動態統計による家庭の浴槽での溺死者数は、2015年に4,804人になり、2004年の2,870人から11年間で1.7倍に増加した。

 溺死を含む入浴中の事故死は、東京都では2014年に1,442件あった。冬季に多く発生しており、12月から2月にかけて、年間の事故数全体の5割が集中している。

 入浴中の死亡の主な原因は、(1)虚血性心疾患などの心臓病、(2)脳血管障害、(3)溺死。入浴中に亡くなる人の数は全国で年間約1万4,000人と推測されており、原因の多くはヒートショックである可能性がある。
なぜ「ヒートショック」は危ないのか
 なぜ浴槽や浴室が危ないのか。それには温度差が関係している。

 暖かい居間などから冷え切った脱衣所や風呂に移動したり、熱いお湯につかることで、血圧が変動し、心臓や血管などに負担がかかり、心疾患や脳梗塞などが起こりやすくなる。これがいわゆる「ヒートショック」だ。

 入浴事故と血圧の変動は深く関係している。とくに高齢者は血圧変動が起こりやすく、体温の調節機能も低下している傾向がある。また、高血圧、糖尿病、動脈硬化症、心疾患、脳卒中といった疾患は、入浴中の死亡リスクの上昇と関連が深い。これらの疾患のある人は注意が必要だ。

 高齢者だけでなく、比較的若い年齢の人も、浴槽内や浴室で死亡するケースは少なくない。

ヒートショックとは?
「STOP!ヒートショック」が公開しているビデオ
「ヒートショック」に対策している人は少ない
 東京ガスなど12社が協働し2019年に、社会貢献型啓発プロジェクト「STOP!ヒートショック」を開始した。まだ認知の低いヒートショックのリスクと対策を呼びかけている。

 寒い時期に、体を温めるはずの場所である風呂場が、実は事故が多発するリスクの高い場所になっていることを認識している人は少ない。寒いトイレでも似たようなことが起こりうる。

 「STOP!ヒートショック」プロジェクトに参加しているリンナイが昨年、47都道府県の20~60歳代の男女2,350人を対象に行ったインターネット調査によると、「ヒートショック」という言葉を知っている人の割合は56%で、うち「対策法も知っている」という人は17.4%と少なかった。

 「自宅の脱衣室に暖房設備がない」という人が50.7%、「自宅の浴室に暖房設備がない」という人が48.3%となり、設備面で対策ができていない人が半数であることが判明した。

 調査を監修した、東京都市大学人間科学部教授で温泉療法専門医でもあり、入浴と健康に関する著書も多数ある早坂信哉氏は、下記のように述べている。
 ヒートショックを防ぐためには、脱衣室や浴室の暖房、湯の温度の低め設定などの対策が必要です。また、浴室は湯船の湯で温まっており多少なりとも脱衣室よりも室温が高いので、下着を脱ぐのは浴室の中で行う工夫も役立ちます。

 また血圧の急上昇は脳卒中や心筋梗塞のリスクになります。熱いお湯にいきなり肩までつかるのはNGです。
冬場の入浴では血圧が上昇しやすい
 日本の家屋では、浴室とトイレは北側にあることが多く、冬場の入浴では、暖かい居間から寒い風呂場へ移動するため、熱を奪われまいとして血管が縮み、血圧が上昇しやすい。お湯につかると血管が広がって急に血圧が下がり、血圧が何回も変動することになる。

 血圧の変動は心臓に負担をかけ、心筋梗塞や脳卒中につながりかねない。ヒートショックの予防のため、脱衣所やトイレを暖めることが必要だ。

 とくにアルコールを飲んだ直後に入浴すると、脱水症状を引き起こしたり、血圧が急に高まり、心臓に負担がかかりやすい。酔った状態で入浴すると、注意力も低下しているため事故のもとになる。飲酒後はアルコールが抜けるまでは入浴しないようにしたい。

 また高齢者では、食後に血圧が下がる食後低血圧により失神しやすくなる場合があるので、食後すぐの入浴も避けた方が良い。体調の悪い時や睡眠薬などの服用後、気温が低下する深夜や早朝の入浴にも注意が必要だ。

 入浴事故で心肺停止に陥ると予後は厳しくなる。入浴事故が起きた場合は、できるだけ早く対応することが重要だ。発見が早くただちに救急車を要請し、死亡を免れたというケースは多い。

ヒートショック 7つの対策ポイント
「STOP!ヒートショック」が公開しているビデオ
冬の「ヒートショック」を防ぐ6つの対策
 入浴中の事故を防ぐため、消費者庁は以下のことに気を付けるよう注意を呼びかけている。

(1)入浴前に脱衣所や浴室を暖めましょう。

(2)湯温は41度以下、湯に漬かる時間は10分までを目安にしましょう。

(3)浴槽から急に立ち上がらないようにしましょう。

(4)アルコールが抜けるまで、また、食後すぐの入浴は控えましょう。

(5)精神安定剤、睡眠薬などの服用後入浴は危険ですので注意しましょう。

(6)入浴する前に同居者に一声掛け、同居者は、いつもより入浴時間が長いときには入浴者に声掛けをしましょう。

「STOP!ヒートショック」が配布しているパンフレット
STOP!ヒートショック
「冬季に多発する高齢者の入浴中の事故にご注意ください!」(消費者庁 2017年1月25日)
「入浴時の温度管理に注意してヒートショックを防止しましょう」(東京都健康長寿医療センター研究所 2014年9月)
早坂信哉オフィシャルブログ「温泉・お風呂の医学」
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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