ニュース
2018年05月07日
糖尿病の最強の薬はどれか? 最近10年間に開発された薬を比較
「DPP-4阻害薬」「GLP-1受容体作動薬」「SGLT2阻害薬」の3つのタイプの糖尿病治療薬を比較する研究を、英国のインペリアル・カレッジ・ロンドンが発表した。
この10年間で糖尿病治療薬は大きく進歩
英国のインペリアル カレッジ ロンドンの研究チームは、糖尿病治療に多く使われている「DPP-4阻害薬」「GLP-1受容体作動薬」「SGLT2阻害薬」の3つのタイプの血糖降下薬を比較する研究を行った。欧米では糖尿病患者の3人に1人以上がこの3剤のうちどれかを処方されているという。
糖尿病の治療の基本は食事療法と運動療法だが、ほとんどの患者はこの2つの治療だけでは十分な血糖コントロールを得られず、薬物療法が必要となる。欧米ではもっとも一般的に処方されているのはメトホルミンだが、血糖降下作用が十分でない場合や副作用が起きる場合には、他の薬剤が必要となる。
この10年間で新たに開発されたDPP-4阻害薬、GLP-1受容体作動薬、SGLT2阻害薬にはそれぞれメリットがある。
DPP-4阻害薬は、膵臓からのインスリン分泌を促進する薬で、食後の血糖値が上がりそうなときにだけに作用し、単独で使えば低血糖はほとんど起こらない。日本で2型糖尿病の治療薬としてもっとも一般的に処方されているのはDPP-4阻害薬だ。
GLP-1受容体作動薬が血糖値を下げる仕組みはDPP-4阻害薬とほぼ同じで、単独では低血糖を起こしにくいが、注射薬(皮下注射)で、1日1回投与と1週間1回投与の製剤がある。胃内容物排出を遅くし、食欲中枢を抑える作用もある。
SGLT2阻害薬は、もっとも新しい経口薬で、他の薬とは異なり腎臓に作用する。血液中のブドウ糖を尿の中に多量に排出させることで血糖値を下げる。インスリン分泌に依存しない作用機序のため、低血糖の心配が少ない。
SGLT2阻害薬とGLP-1受容体作動薬は死亡リスクを低下
研究チームは、これらの治療薬が死亡リスクの低下とどう関連しているかを調べるため、これらで治療をしている患者、プラセボ(偽薬)を投与されている患者、全く治療を受けていない患者を含む、236件の試験をメタ解析した。対象となった患者数の合計は17万6,310人に上る。
「この10年で糖尿病の医療は進歩し、治療薬の種類が増えました。そのため医療者と患者の双方で少なからず混乱がみられます。今回の研究を、治療法を適切に判断するための材料にしてもらうことを望んでいます」と、インペリアル・カレッジ・ロンドンの研究者で英国の国民保健サービス(NHS)財団トラストの研究員でもあるショーン ゼング氏は言う。
3タイプの治療薬は、血糖値を低下させる効果は共通しているが、心疾患などの死亡リスクへの影響については差が出た。SGLT2阻害薬は、プラセボ群と薬物未使用の群に比べ、死亡リスクを20%低下させたことが明らかになった。また、GLP-1受容体作動薬は死亡リスクを18%減少させた。
SGLT2阻害薬とGLP-1受容体作動薬の間には有意差はなかった。一方でDPP-4阻害薬は、プラセボ群と薬物未使用の群に比べ、死亡リスクの低下と関連しないことが分かった。
研究者は、DPP-4阻害薬は安定した血糖降下作用を見込めるが、心血管疾患の抑制効果は、GLP-1受容体作動薬、SGLT2阻害薬ほどではないと推定している。
より多くの患者と医師の協力が必要
「2型糖尿病の患者数は世界的に増えており、これまで以上に多くの症例数があります。今回評価した3つの薬物クラスは今後ますます多く処方されるだろうと予測されますが、これらの薬物を相互に比較し、どの薬を使うと患者にとって最良の選択肢となるかを判断するための臨床試験は少ないのが現状です」と、ゼング氏は言う。
2型糖尿病の人は、治療をして血糖コントロールを改善しないと、心血管疾患や脳卒中で死亡する危険性が上昇する。
3タイプの治療薬は、心血管疾患や死亡のリスクを低下させるために効果的だ。週1回の投与で効果を得られる薬剤も登場しており、治療の選択肢は広がっている。患者の生活スタイルや利便性を考慮して、治療を選ぶことができるようになってきた。
「これらの薬剤は新しいので、開発されて治療に使われるようになってから、さほど時間を経ていません。患者と主治医が長期の治療戦略について根拠に基づいて、判断できるようになるために、さらに情報が必要です」と、ゼング氏は指摘している。
「糖尿病の治療の目標は、高血糖や高血圧、脂質異常症などによって引き起こされる合併症を防ぐことです。多くの医療機関で得られたデータを統合して、より精度の高い情報を得られるようになることが求められています。より多くの患者と医師の協力が必要となっています」とまとめている。
Diabetes drug may not reduce risk of death(インペリアル カレッジ ロンドン 2018年4月16日)Association Between Use of Sodium-Glucose Cotransporter 2 Inhibitors, Glucagon-like Peptide 1 Agonists, and Dipeptidyl Peptidase 4 Inhibitors With All-Cause Mortality in Patients With Type 2 Diabetes(Journal of the American Medical Association 2018年4月17日)
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所
医薬品/インスリンの関連記事
- 糖尿病の治療を続けて生涯にわたり健康生活 40年後も合併症リスクが大幅減少 最長の糖尿病研究「UKPDS」で明らかに
- インスリンを飲み薬に 「経口インスリン」の開発が前進 糖尿病の人の負担を減らすために
- 1型糖尿病の人の4人に1人が摂食障害? 注射のスキップなど 若年だけでなく成人もケアが必要
- 糖尿病の人は腎臓病のリスクが高い 腎臓を守るために何が必要? 「糖尿病・腎臓病アトラス」を公開
- 糖尿病は治る病気? 大幅な体重減少を達成した人は糖尿病が「寛解」 体重を増やさないことが大切
- 1型糖尿病の根治を目指す「バイオ⼈⼯膵島移植」 研究を支援し「サイエンスフォーラム」も開催 ⽇本IDDMネットワーク
- 糖尿病のある人は「がんのリスク」が高い 飲み薬のメトホルミンがリスクを減少 がん予防で必要なことは?
- 糖尿病と高血圧のある腎不全の男性を透析から解放 世界初の「異種移植」が成功
- 1型糖尿病患者に「CGM+インスリンポンプ」を提供 必要とする人が使えるように 英国で5ヵ年戦略を開始
- 糖尿病とともに生きる人の寿命は延びている 自分らしく長生き いますぐ取り組むべき「8つの生活スタイル」