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2017年11月15日
血糖コントロールは、”胃腸力”がカギ「糖をはかる日クッキングセミナー」(1)
会場には、インスリン治療中で血糖自己測定(SMBG)を普段から行っている糖尿病患者さん16名が集まり、血糖変動の捉え方や食事のコツについてのセミナーを受講、また、目の前で講師が調理した昼食を全員でいただきました。食前と食後2回、普段使用している血糖モニタリング機器(SMBG、SAP、Freestyleリブレ)により各自の血糖変動を確かめる機会も設けられ、実践的な内容に参加者は熱心に耳を傾けていました。
ここでは、國枝加誉先生によるセミナー内容を紹介します。
金子あきこ先生による、血糖コントロール食レシピの解説、セミナー全体の質疑応答は、「糖をはかる日クッキングセミナー」(2)をご覧ください。
講師:
國枝 加誉 先生
管理栄養士、健康食育シニアマスター、一汁一菜研究家。岩内科クリニック・栄養指導担当。日本健康食育協会監修「健康食育マスター講座」講師。日本野菜ソムリエ協会認定講師。オリーブオイルソムリエ協会講師。
國枝先生のHP「食ごと帳」 ▶
金子 あきこ 先生
管理栄養士、健康食育シニアマスター。節約美容料理研究家。著書に『ショウガ甘酒 食べる健康法』(日本文芸社)。
公式ブログ「管理栄養士・節約美容料理研究家 金子あきこのキラキラレシピ」 ▶
糖をはかる日クッキングセミナーの動画はこちら(YouTubeへ移動します)
毎日の食事は、“ええ加減、ええ塩梅”で適正化
今日は普段、血糖自己測定(SMBG)をしている糖尿病患者さんにお集まりいただきました。血糖値の上下に一喜一憂するのではなく、どこに着目して健康づくりを考えるかについてお話して参ります。
私自身、高校2年生のときに2型糖尿病と診断され、自己分泌が少ないため長らくインスリン強化療法を続けています。仕事では主に、管理栄養士として糖尿病内科のクリニックで食相談(外来栄養指導)を担当しています。患者であり医療スタッフでもある私は、糖尿病の発症・重症化どちらの予防も推進する中で、食事が非常に重要であると日々痛感しています。
糖尿病の食事療法には、現在さまざまな考え方があります。私がお話する際には、厚生労働省や日本糖尿病学会がエビデンスをもとに策定した基準のもと、禁止や制限ではなく適正化、“ええ加減、ええ塩梅”を目指して無理やストレスが少なく毎日実践できることに留意しています。
血糖コントロールはあくまで手段、本当の目的は元気に生きるために「血管を丈夫に保ち、心と体の働きを低下させないこと」です。血糖値だけにとらわれず、血圧、脂質、血流など血管に影響する要因も意識しながら、糖尿病をコントロールする目的を、“短期”、“中期”、“長期”に分けて考えてみましょう(図1)。
短期目標ではできるだけ安定した血糖変動を目指し、数ヶ月スパンで考える中期目標では、元気に過ごすために体の材料となる栄養素をしっかり摂取できているかに着目します。さらに数十年という長期目標では、骨や筋肉など体の器官を丈夫なまま維持できるか、また、心や人生が幸福かも考える必要があります。
糖尿病の合併症を予防する目標はHbA1c7%未満(血糖値目安:食前130mg/dL、食後180mg/dL前後)とされ、同時に重症低血糖、無自覚性低血糖を防ぎ、また食後の血糖値スパイクも減らす必要があります。食事以外にも血糖変動の要因があり、上げる要素を減らして下げる要素を増やす意識が重要です。(図2)。
血糖を上げる・下げる、の両方に影響する要因もあり、その代表が「食べ方」です。早食いは食後血糖が上げやすく、ゆっくりよく噛んで食べると消化吸収が穏やかになり、食後血糖もゆっくり変動します。血糖変動の要因はさまざま、ひとつにとらわれることなく全体がまんべんなく整うような意識を持ちましょう。
見過ごされがちな“消化吸収”と“代謝メカニズム”
血糖変動の要因として非常に大切にもかかわらず、見過ごされがちなポイントのひとつは「消化吸収(胃腸の状態)」です。食べ物は口に入れて終わりではなく、胃腸がきちんと働いてこそ必要な栄養素を摂り込むことができます。血糖の乱高下を繰り返している方はとくに、自律神経が乱れやすくなり胃腸障害を併発している場合があります。消化吸収のタイミングがずれると、血糖変動も影響を受けてインスリン製剤や経口薬の効き方とずれ、高血糖や低血糖を招くこともあります。
また、食事環境はとにかくリラックスと楽しむ気持ちが重要。緊張したり落ち込んだりという気分の時は胃腸のはたらきが鈍ります。ワクワクして「おいしそう!」と感じることで消化液が分泌され消化が促進されます。
もうひとつ、見過ごされがちなことは食べたものを消化吸収した後の代謝メカニズムです。摂り込んだ栄養素がエネルギーや必要なものに作り変えられていく「代謝の流れ」がうまくいっていない人も非常に多く、エネルギーや成分の量にこだわるより、代謝力を上げることも重要です。
元気を保つ5つの力〜燃焼力・代謝力・排出力・胃腸力・食選力
糖尿病の方もそうでない方も、食と体の基本は同じ。基本を整えたうえで、血糖への配慮を行うことが重要です。胃腸と血管を丈夫に保ち自律神経を整えるために大切な食と体の基本を、5つの力で考えてみましょう(図3)。
燃焼力
摂取したエネルギーは、運動時だけではなく、臓器を動かす・体温維持などの生命維持や、細胞が生まれかわる新陳代謝のときにも必要です。摂取エネルギーを極端に減らしすぎると、新陳代謝が鈍り、体温も下がります。燃焼力を下げないためには、?エネルギーとして使われやすい炭水化物を摂取エネルギーの半分以上摂る(ただし血糖を上げにくい精製度の低い穀物を選ぶ)、?脂質は全体の1/4以下(25%以下)とし飽和脂肪酸は少な目に、の2点に留意いただければと思います。
代謝力
摂ったエネルギーが使われるメカニズムをマッチ棒理論で説明します(図4)。摂ったエネルギーはマッチ棒の軸、着火剤の役割であるビタミンやミネラルはエネルギーを使う時に必要です。摂取したエネルギーをきちんと利用できるように、ビタミンやミネラルの摂取を増やすことを意識してみてください。とくに、ミネラルの中でもマグネシウムが重要です。様々な代謝に関わる酵素の材料であり、不足すると代謝機能が鈍ると言われています。マグネシウムが比較的多く含まれる大豆製品、魚類、海藻類などは和食だと取り入れやすいのですが、食の欧米化とともにこれらの食品を摂取する機会が減り、マグネシウムは不足しやすくなっています。
排出力
食物繊維が不足すると老廃物が排出されにくくなり、代謝を鈍らせます。カロリーや栄養素単体を気にする前に、きちんと排泄(特に便)できているかを振り返ってみましょう。最近、腸内環境に注目が集まっていますが、自律神経やメンタル、免疫機能とも密接なかかわりがあります。◯◯菌を摂り入れる前に、食物繊維に注目して排出力を高め、腸内をきれいに保っておくことが非常に重要です。
胃腸力
図5は私が描いたイラストで、胃腸がお米を“ダンベル”として使い運動しています。胃腸は冷えに弱く、ほぼ筋肉でできているので、温めてよく動かすことが大切です。朝食が冷たいものだけになっていないか、流し込むだけの食事になっていないかをチェックしてみましょう。健康な消化管にとって、食物繊維が豊富な食品はしっかりと胃腸を動かす“ダンベル”のようなものです。むしろ脂質やたんぱく質が多いおかず中心の食事は、胃腸での消化に時間がかかり負担をかけます。
一方で、低血糖を予防したい時には、脂質が多めの昼食や脂質を含む補食を摂ると、消化吸収がゆっくりになり、血糖が急激に下がるのを防いでくれます。
また、食事では胃腸に負担をかけないよう、よく噛むことも大切です。普段の食事で汁もののほかに、水やお茶などの液体と一緒に食事を摂らないと喉が詰まるという方は、咀しゃくが足りず唾液が不足している可能性大。唾液がしっかり出ると口中調味がしやすくなり、美味しく塩分を控えることができます。ポリポリ、シャキシャキ等、音がする食品を活かし、自然に咀しゃくを増やしましょう。
食選力
ここまでの4つの力をうまく働かせるために重要なのが、どんなものを食べるかという食選力と、どう食べるかという食べ方です。また、“ええ加減、ええ塩梅”に長く続けて実践できるように、心身を作る「日常食」と楽しむための「非日常食」に分けて考えましょう。自宅で食べる日常食はなるべく胃腸を動かせる内容かどうかを意識し、楽しむための非日常食は思い切り楽しんでください。非日常食の頻度が増えてきたら日常食を増やし、メリハリをつければ大丈夫です。
“糖質の種類”と“脂質の有無”に着目する
さて、糖尿病患者さんの食事では、血糖への配慮が重要なポイントです。炭水化物には糖質と食物繊維があり、エネルギーや血糖に影響するのは糖質です。食物繊維は体内で利用されずエネルギー源にはなりません(図6)。
糖質の中でも、砂糖やブドウ糖のような単純糖質は、早く消化吸収されるので血糖が上がりやすく、米、餅などの複合糖質はゆっくり消化されて血糖になります(図7)。また蕎麦やパスタはたんぱく質も比較的多く含むので、食後血糖のピークは少し後にずれます。
ただし、複合糖質でも精製度が高くなるとGI値(食後血糖値の上昇度の指標)は高くなります。玄米は胃腸に負担がかかりやすいため、胃腸が弱い方や小さなお子さん、ご年配の方には向きません。そこで、主食におすすめしているのは、分づき米か白米に雑穀をたっぷり入れてビタミン・ミネラル・食物繊維を補う方法です。
なお、カーボカウントを行う際、その食品が複合糖質か単純糖質かはしっかり見極めたほうが良いでしょう。単純糖質(糖類)の量が多くGI値が高い食品であれば、食後急上昇すると予測を立てます。特に糖類と脂質が両方あると、急上昇した血糖値がなかなか下がらなくなることがあります。また、水溶性食物繊維は血糖上昇をおだやかに抑えるので、食事と一緒に摂るのがおすすめです。
まとめ:より良い血糖変動のために
食と体の基本となる5つの力を土台に、血糖の乱高下を防ぐためのポイントとして、糖質の種類や脂質の有無、食物繊維やマグネシウムについてお話してきました(図8)。食事は毎日続きます。自分の心身を整えるチャンスだと思って、楽しみながら続ける、今日がだめなら明日、というくらいの”ええ塩梅”で続けていきましょう。
低血糖対策:“脂質”の調整で試行錯誤
ではここからは「糖を測る」ことについて見ていきましょう。測定機器は多数ありますが、使うことがそれほど苦にならないものが一番です。私は仕事柄、いろいろな機器を試す機会があります。同じ日のほぼ同時刻に測定しても、機器の違いや測定電極の保管状態等により、測定値には20mg/dL前後の差の出ることがあります。
SMBGをまめに行い、アプリなどを活用して血糖値の曲線を作成する方法もありますが、毎日のことですからなかなか難しいですよね。また、SMBGの結果だけでは、今から血糖値が上がるのか下がるのかがわからず、運動するかインスリンの補正打ちをするかなど、次の行動の予測と計画が立てづらい時もあります。最近、グルコース値の変動が曲線でわかるFreestyleリブレ(FGM)も利用するようになりました。
血液で測定するSMBGと違い、Freestyleリブレは細胞間質液中のグルコース濃度を測る機器で、グラフ化に長けており血糖変動を曲線として把握することができます。ただし、間質液中のグルコース濃度の変動は、運動や食事の影響を受けてSMBGでの血糖値とタイムラグや乖離が出る場合もあります。
私は仕事柄夕食の時間がずれることもありますが、リブレの波形から自分なりに試行錯誤しています。例えば、図10左側のグラフでは、夕食前に低血糖が頻発していたため、基礎インスリンを減量し、昼食の内容を工夫しました。その後、図10右側のグラフではまだ低血糖が多かったので、さらに基礎を減量し、脂質をより含む補食に切り替えて対応しました。また、非常にギザギザした波形となった時があり、かなりの睡眠不足に加え強いストレスが重なったことが原因だと推測しました。食事以外の要因で血糖が乱れた一例でした。
インスリンポンプにCGM機能がついているSensor Augmented Pump(SAP)でも患者さん自身がグルコース変動のグラフを確認できますが、SAPでは、一日数回はSMBGで測った血糖値を入力し、誤差を是正する“較正”が必要です。SAPをお使いの方によると、血糖変動が激しい時はSMBGとの誤差が出やすいそうです。この点、Freestyleリブレでも似た現象が起こると感じます。どのような機器も百点満点ではなく、自分に合わせてどう活用するかが大切だと思います。
糖をはかる日クッキングセミナーの動画はこちら(YouTubeへ移動します)
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