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2016年02月12日

「DPP-4阻害薬」が動脈硬化を抑制 インスリン治療中の患者でも効果

 2型糖尿病の治療薬である「DPP-4阻害薬」が動脈硬化を抑制することが、日本人を対象とした研究で明らかになった。インスリン治療中の2型糖尿病患者においても、動脈硬化の抑制効果を得られるという。
インスリン治療中の2型糖尿病患者の多くは動脈硬化が進行している
 糖尿病治療薬「DPP-4阻害薬」が2型糖尿病患者の動脈硬化を抑制するという研究結果を順天堂大学の研究グループが発表した。この効果はインスリン治療中の2型糖尿病患者においても認められることが、今回の研究で明らかになった。

 糖尿病患者では、血糖値が高い状態が続くと、血管壁が傷つき動脈硬化が進行しやすくなる。動脈硬化は「心血管イベント」を引き起こす。「心血管イベント」とは、心筋梗塞や脳梗塞などの心血管系の疾患をさす。糖尿病患者は心血管イベントによる死亡リスクが高くなるため、これを予防することが治療において重大な課題となっている。

 DPP-4阻害薬は、インクレチン濃度を上昇させることで、膵β細胞からインスリン分泌を促進させ、膵α細胞からのグルカゴン分泌を抑制し、血糖値を低下させる治療薬。日本では2009年から治療に使われている。

 インスリンを注射で補充するインスリン療法は、血糖コントロールを改善する効果的な手段となる。しかし、2型糖尿病ではインスリンを注射しただけでは十分な血糖管理が行えないことが多く、経口糖尿病治療薬を併用する患者が多い。

 しかし、これまでのインスリン治療では、経口薬を併用しても動脈硬化を抑制するのは難しかった。インスリン治療中の2型糖尿病患者の多くは病歴が長く、動脈硬化が進行しているケースが多い。また、インスリンによる体重増加などが動脈硬化をさらに促進させる可能性がある。そのため、どのような経口薬を使えばインスリン治療の欠点を減らすことができ、動脈硬化を抑えられるかを確かめることが課題となっていた。
DPP-4阻害薬が動脈硬化を抑制 心血管イベント発症リスクを低下
 試験は日本全国の糖尿病専門医が診療する12施設で行われ、282人の心血管イベントの既往のないインスリン治療中の2型糖尿病患者が参加した。参加者は、DPP-4阻害薬の「シタグリプチン」を患者142人(投与群)と、通常の治療を受ける患者140人(通常治療群)に無作為に割り付けられた。

 動脈硬化の指標として、頸動脈を超音波検査で測定する「頸動脈内膜中膜複合体肥厚度」(IMT)を用いた。動脈壁は、内膜、中膜および外膜の3層で構成されている。動脈硬化が進行すると内膜と中膜の部分が肥厚する。超音波により頸動脈を観察し、動脈硬化の進行具合を調べるのがIMT検査。

 IMTが厚い人ほど将来に心筋梗塞や脳卒中などを発症する危険性が高い。IMT検査は簡単に行え、体を傷つけることがないので、動脈硬化のスクリーニング検査として臨床の現場で広く行われている。

 2年後、通常治療群と比較した結果、シタグリプチン投与群では、頚動脈のIMTの進展が有意に抑制されていることが判明した。つまり、インスリン治療中の2型糖尿病患者においても、DPP-4阻害薬を投与すると動脈硬化が抑制されることが明らかになった。
 「今後の研究で、経口糖尿病治療薬で治療中の患者だけでなく、インスリン治療中の動脈硬化が進行してしまっている患者にも、DPP-4阻害薬を投与することで心筋梗塞や脳梗塞などの心血管イベント発症リスクを低下させ負担を軽減できるかを確かめたい」と、研究チームは述べている。

 今回の研究は、順天堂大学大学院医学研究科・代謝内分泌内科学の三田智也准教授、綿田裕孝教授らの研究グループによるもの。米国糖尿病学会(ADA)が発行する医学誌「Diabetes Care」オンライン版に発表された。

順天堂大学大学院医学研究科・代謝内分泌内科学
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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