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2015年04月24日

「残薬」対策で薬の飲み残しを大幅に減少 29億円の医療費を抑制

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医薬品/インスリン
 処方された薬を患者が大量に飲み残す「残薬」が問題になっている。薬剤師が医師に照会し調剤する薬を減らすなどして、2012年度におよそ29億円の医療費が抑制できたことが判明した。4月8日に開催された中医協総会では「残薬の解消に向けた薬剤師の取り組みが期待される」という意見が出された。
残薬の調整で29億円の医療費を抑制
 2016年度の診療報酬改定に向け、患者が薬を飲み忘れたり、複数の医療機関から同じ薬を処方されたりして生じる薬の飲み残し、いわゆる「残薬」の解消に向けた対策が必要との意見が、中央社会保険医療協議会(中医協)総会で出された。

 厚労省が提示した資料では、長期投薬の増加などにより、飲み忘れや飲み残し、症状の変化によって生じたと思われる多量の残薬が生じていることが示された。

 2013年に厚労省の委託調査として全国998の薬局を対象に実施された「薬局の機能に係る実態調査」では、「残薬」を有する患者について、「頻繁にいる」は17.1%、「ときどきいる」は73.2%で、合計で約9割に上った。患者(1,927人)への調査は、「大量に薬が余ったことがある」が4.7%、「余ったことがある」が50.9%という結果になった。

 また、東京理科大学薬学部の鹿村恵明教授が日本薬剤師会からの委託事業で540薬局を対象に行った「2013年度全国薬局疑義照会調査」では、処方箋応需枚数(18万3,532枚)のうち、形式的な疑義照会を除いた薬学的疑義照会は4,141件だった。このうち「残薬に伴う日数・投与回数の調整」を行ったのは約10%の420件に上った。

 この数値を処方箋応需枚数(18万3,532枚)に当てはめると、残薬の調整は0.23%で実施されていることになり、全国の年間の処方箋枚数に換算すると、医療費をおよそ28億7,000万円(1件当たり1,595円)抑制できたという。

長期処方が残薬や病気の悪化の原因になると指摘
 日本医師会は、かかりつけ医が残薬を調整しながら薬局と連携して対処する必要性を強調。また、長期処方によって病気の悪化を発見することが遅れるケースが多いことにふれ、「長期処方そのものに問題があり、見直すべき時期に来ている」と指摘した。

 薬局では、処方箋を受け付け、残薬が認められた場合、医師に疑義照会し、処方変更の指示を受けた後に調剤するなどの対応がとられている。

 健康保険組合連合会(健保連)は、「無駄のないように効率的な投薬をするためには、薬剤師の役割は大きい」と指摘。医薬分業が進み、保険者や患者の負担額が増える中で、服薬指導、残薬管理、在宅での薬剤の指導など、医療費の適正化に向けた薬剤師の働きに期待を込めた。

薬の飲み残し対策を実行 患者の服薬コンプライアンスが向上
 埼玉県薬剤師会が、昨年度取り組んだ「高齢者等の薬の飲み残し対策事業」の調査結果によると、介護が必要ない自立した高齢者は要介護者と同様に、飲み忘れなどにより残薬をもっているという。

 50歳以上、慢性疾患で1年以上の服薬歴を有する患者150人(平均年齢78.6歳)を対象に調査を実施したところ、全ての患者で残薬が確認されました。

 初回調査時の患者1人当たりの残薬は8.0品目、8,435円だったが、薬剤師が残薬の状況に応じた患者への服薬指導や医師への処方調整依頼などの取組みを積極的に行った結果、2.5ヵ月後には6.0品目、3,690円にまで減少し、総額を222万7,704円から94万5,735円に削減できたという。

 薬剤師が患者宅を訪問して医薬品の使用状況を見ながら服薬指導を行うとともに、一包化やお薬カレンダーの活用など患者の状態に応じた工夫を行った結果、服薬コンプライアンスが大幅に向上した。

第294回中央社会保険医療協議会総会(厚生労働省 2015年4月8日)
高齢者等の薬の飲み残し対策事業(埼玉県薬剤師会 2015年3月19日)

[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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