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2015年03月03日
「スマートインスリン」を開発 血糖値に反応して自動的に作用
「インスリン治療を大きく前進させる画期的なインスリンです。マウスを用いた実験は成功しており、早ければ2〜5年で、ヒトを対象とした第1相臨床試験を開始できる見込みです」と、論文著者のユタ大学生化学部准教授のダニー チョウ氏は言う。

「Ins-PBA-F」は持効型溶解インスリンの化学式の端に「フェニルボロン酸」(PBA)を付加した構造になっている。血中にブドウ糖がない状態では、PBAが血中のタンパク質と結合しインスリンとして作用しないようブロックされる。しかし、ブドウ糖が増え血糖値が高い状態になると、PBAがブドウ糖に結合して、もとのインスリンが放出される仕組みだ。
研究チームが行った糖尿病のマウスを使った実験では、Ins-PBA-Fの1回投与で、血糖値の上昇に合わせて自動的に血糖値が降下することが確認された。「通常の持効型溶解インスリンに比べ、糖尿病でない健康なマウスにより近い自然な血糖変動を得られた」という。

インスリンを注射する量やタイミングを間違えると、低血糖が引き起こされるおそれがある。重度な低血糖は生命を危険にさらす深刻な状態だ。「Ins-PBA-Fは低血糖の危険性を大きく減らすのに貢献するだろう」と研究者は述べている。
血糖値が高いときに作用する反応性のインスリンとして、タンパク質ベースのジェルやコーティングによる「バリア」を施した製剤の開発も進められているが、拒絶反応などの副作用が報告されており、実現は難しいとみられている。
「Ins-PBA-Fは全く新しいタイプの“スマートインスリン”で、現在の治療に使われているインスリン製剤と同様にペン型注射器で注射できます。安全性を確認するためにさらなる研究が必要ですが、血糖コントロールをより改善する可能性が高いとみています」と、チョウ氏は言う。
この研究は、米国立衛生研究所(NIH)、国際若年性糖尿病研究財団(JDRF)などの資金提供を受けて行われている。
Glucose-responsive insulin activity by covalent modification with aliphatic phenylboronic acid conjugates(PNAS 2015年2月24日)
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