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2012年09月28日

メトホルミンの効果と安全性を再評価

キーワード
医薬品/インスリン
 2型糖尿病の治療薬として多く利用されているメトホルミンには、乳酸アシドーシスという副作用がある。そのため腎機能が低下している患者には処方されないが、スウェーデンの研究で、中〜軽度の腎障害をもつ患者では、メトホルミンは副作用のリスクは高くないことが示された。「より多くの糖尿病患者がメトホルミンを有効に使用できるかもしれない」と研究者は期待を寄せている。

 メトホルミンは世界で多く治療に使われる効果的な薬剤で、循環器系疾患による死亡リスクを減少することが多くの研究で示されている。しかし、メトホルミンには、乳酸アシドーシスとして知られるような、稀ではあるが命を脅かす副作用リスクがあるので、腎機能が低下している患者や高齢の患者には処方されていない。

 欧米で2型糖尿病に対するメトホルミンの有効性は再評価されている。最近の研究では「メトホルミンの副作用リスクは誇張されたものだ。軽度から中程度の腎障害の患者では、メトホルミンによる副作用リスクは上昇しない」と発表された。

メトホルミンは「もっと多くの患者が利用できるはず」
 メトホルミンは、1950年代から使われており、長い歴史をもつ治療薬だが、1970年代にビグアナイド薬であるフェンホルミンによる乳酸アシドーシスが問題となった。その結果、日本ではメトホルミンの用法・用量が一部制限されるようになった。

 メトホルミンの服用により、肝臓での乳酸からの糖新生が抑制され、その結果、乳酸が増加する。通常であれば乳酸値のバランスは保たれるが、肝臓での代謝の能力以上に乳酸が増加していたり、肝臓での乳酸の代謝能力が低下している場合に、乳酸が体内に蓄積していく。その結果、血液が酸性に傾く乳酸アシドーシスを発症するおそれがある。

 一方で、「メトホルミンによる乳酸アシドーシスの発症頻度は極めて低い」とする研究が発表された。スウェーデンのサルグレンスカ大学、ヨーテボリ大学、ウプサラ大学の研究者らは、2型糖尿病患者5万1,675名を対象に、4年間のコホート研究および腎機能によるサブグループ解析を行った。

 その結果、メトホルミンはインスリンや他の経口血糖降下薬と同等の効果があり、正常な腎機能の患者のみならず、軽度の腎障害をもつ患者においても、循環器系疾患のリスクや、重篤な感染症および死亡リスクを下げることがあきらかになった。

 メトホルミンを使っており推算糸球体濾過量(eGFR)が45〜60の中等度の腎機能低下が起きている患者では、アシドーシスあるいは重大な感染によるの調整危険率は0.85(95% CI 0.74 to 0.97)、全死因は0.87(95% CI 0.77 to 0.99)となった。メトホルミンの投与により死亡リスクが低下することがあきらかになった。eGFRが30〜45の場合でも危険率の上昇は認められなかった。

 これまでのいくつかの大規模研究で、メトホルミンの有用性は再確認されている。「メトホルミンは現行で処方されている症例以上に、多くの患者に処方することができる可能性がある。インスリン分泌を促すことなく血糖値を下げる効果のあるメトホルミンへの期待は高い。体重増加が認められず、インスリン抵抗性を改善する効果があるなど、メリットは多い」とサルグレンスカ大学のニールス エクストレム博士は指摘している。

 すでに多くの国々で、メトホルミンは軽度の腎障害をもつ患者にも勧められている。欧米ではメトホルミンは、過体重や肥満のある2型糖尿病治療に対する第1選択薬となっている。日本でも2010年より、最高投与量が引き上げられたメトホルミンが治療に使われている。

 一方でエクストレム博士は、「今回の結果は、軽度から中程度の腎障害をもつ患者に対する結果だということに注意することが大切である。メトホルミンは重篤な腎障害をもつ患者には、いまだお勧めできないし、そのような患者に対しては慎重に注意を払う必要がある。また脱水症状を伴う急性期には、メトホルミンは決して使用してはならない」と注意を促している。

Considerably More Patients May Benefit from Effective Antidiabetic Drug(サルグレンスカ大学2012年8月20日)

[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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