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2009年09月10日

インスリン抵抗性に脂肪組織の老化が関与 糖尿病の引き金に

 脂肪組織の老化が進むと、血糖値を下げるインスリンの効き目が悪くなり、メタボリックシンドロームや2型糖尿病を発症しやすくなることが、南野徹・千葉大医学部付属病院助教や小室一成・千葉大学大学院教授らのマウスの実験による共同研究で解明された。脂肪組織の老化を抑える方法がみつかれば、糖尿病の新たな治療法を開発できる可能性があるという。

 ヒトや動物の細胞は分裂を繰り返すうちに老化し、ある程度分裂するとそれ以上分裂できなくなる。これは、細胞の核内にある染色体を保護し安定させる働きをする構造「テロメア」が短縮し、染色体を完全に複製できなくなるのが原因と考えられている。細胞分裂により染色体に含まれるDNAの複製が行われる度に、テロメアは短縮していく。

 研究者らは、遺伝子操作でテロメアを短縮し、細胞が老化しやすくなったマウスを実験に使用。このマウスに高脂肪食を与えると、インスリン抵抗性が引き起こされ、高血糖になった。血液を調べたところ、内臓脂肪から分泌される悪玉の生理活性物質(アディポカイン)のうち炎症性のある「悪玉」が増えており、これがインスリン抵抗性の原因になっていた。

 老化した脂肪細胞を正常の野生型マウスに移植するとインスリン抵抗性が引き起こされるのを確かめた。また、2型糖尿病のマウスから老化した脂肪組織を摘出すると、そのマウスではインスリン抵抗性が改善したことから、老化した脂肪組織が糖尿病の引き金になっていることが分かった。

 ヒトなどの細胞は、特定のDNAに傷が付くとがん細胞になりやすくなる。そのDNAを修復する役割を果たす遺伝子があり、その修復のプログラムを活性化する「p53」という遺伝子(転写因子)がある。p53が欠損しているマウスではがんが多発し、逆に活性化すると細胞の老化が早まることが分かっている。

 2型糖尿病のマウスの脂肪組織のp53を働かなくさせ、脂肪の老化を阻害したところ、悪玉アディポカインの産生が低下し、インスリン抵抗性が改善した。逆にp53を過剰に働かせるとインスリン抵抗性が悪化した。このことから、p53の活性化による脂肪組織の老化が2型糖尿病やメタボリックシンドロームに関与していると考えられる。

 2型糖尿病やメタボリックシンドロームは、肥満に伴う内臓脂肪の蓄積と、それによって引き起こされるインスリン抵抗性が基盤にある。2型糖尿病の患者でも、多くで脂肪細胞、特に内臓脂肪の細胞の老化が認められる。小室教授らは「脂肪組織の老化を抑えるという観点で研究を進めれば、新たな治療薬の開発につながる。加齢に伴う病気の発症のメカニズムを知る上でも重要な知見となる」と述べている。

 この研究は、米医学誌「Nature Medicine」オンライン版に8月30日に発表された。

脂肪の老化とインスリン抵抗性

脂肪組織の老化が糖尿病の発症に重要であることを発見(科学技術振興機構(JST)リリース)

[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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