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2009年09月10日

高トリグリセライド血症が神経障害危険因子の可能性

 糖尿病の特徴的な合併症である三大合併症(網膜症、腎症、神経障害)の最大の危険因子は高血糖だが、高血糖以外の要因も知られている。例えば糖尿病腎症の発症や進行には高血圧が強く影響を及ぼしていて、血糖とともに血圧を十分に管理することで腎症が改善することも示されつつある。糖尿病網膜症の進行も血圧の管理で抑制されることが明らかになってきた。同様にトリグリセライド(中性脂肪)値が高い状態「高トリグリセライド血症」も腎症や網膜症に関与し、トリグリセライドをコントロールすることが腎症や網膜症の進行を抑制することも示されている

 一方で糖尿病神経障害については、血糖以外の明らかな危険因子は未だはっきりしない。しかし最近、高トリグリセライド血症が神経障害にも関与していることを示す報告がみられるようになった。

HbA1Cよりトリグリセライドのほうが有意に相関との報告も
 一例として、米国糖尿病学会『Diabetes』誌の2009年7月号に掲載された論文が挙げられる。この論文は、糖尿病神経障害に対するアセチル-L-カルニチンによる介入試験のデータを用いた研究で、糖尿病神経障害のある患者427人を試験開始から52週間後に、腓腹神経有髄線維密度(MFD)、振動覚、痛みに対するビジュアルアナログスケールなどで評価している

 52週間経過した時点で、神経障害が明らかに進行していた群(133人)、進行していなかった群(174人)の二群に分類。そのほかの120人は「明らかな進行」とも「進行していない」とも判断されず解析から除外された。ベースラインからの MFD 減少率(神経障害が進行したことを表す)と相関がみられた、HbA1C、トリグリセライド、BMI、コレステロール、ヘマトクリット、血清アルブミン、糖尿病罹病期間、年齢、インスリン治療の有無、性などについて、Mann-Whitney 検定により、二群間の統計的有意差を検討した。

 結果は、MFD 減少率と有意に相関したのは、ベースライン時点におけるトリグリセライド高値、腓骨運動神経伝導速度低値の2項目であり、HbA1Cなどは有意でなかった。

 
腓腹神経有髄線維密度が52週経過後も変化していたかった群(上図 左)と、明らかに減少していた群(同 右)に分類。ベースラインにおいて両群間には、トリグリセライド値(下図 左)と、腓骨運動神経伝導速度(下図 右)に有意な差があった。*p<0.05,**p<0.01,***p<0.0001
〔Diabetes 58 : 1634-1637, 2009〕
神経障害の関与が強い下肢小切断をトリグリセライド低下薬が抑制
 このほか、約1万人という多数の患者を対象に行われた大規模臨床試験「FIELD」でも、神経障害とトリグリセライドの関係を示唆する結果が出ている

 FIELDでは、トリグリセライド低下薬であるフェノフィブラートによる介入効果がプラセボと比較されたが、その3次評価項目として「血管または神経障害による手足の切断」を評価。試験開始1年半後から両群間の下肢切断率に差がみられ始め、最終的にフェノフィブラート群がプラセボ群より36%、切断リスクを有意に低下していた

 下肢切断には神経障害のほか血行障害も強く影響を及ぼす。そこで前記の結果を神経障害の影響がより大きいと考えられる小切断(足首までに至らない切断)に限って解析すると、その相対リスクは46%低下とより顕著であった。

 
FIELD 試験における下肢小切断のサブ解析結果
〔Lancet 373 : 1780-1788, 2009〕
三大合併症と高トリグリセライド血症の関係は?
 従来、三大合併症は糖尿病の診断基準を満たす高血糖状態において生ずるものととらえられていたが、近年では、血糖値が未だ糖尿病の診断基準に満たない程度の高血糖状態「耐糖能異常(IGT、糖尿病備群)」、あるいはメタボリックシンドロームでも観察されるとの報告が散見されるようになった。糖尿病予備群、メタボリックシンドロームでは、食後の高血糖、食後の高トリグリセライド血症が特徴の「食後代謝異常」を呈することが多い

 現在、食後代謝異常と糖尿病合併症との関係は、主要なテーマの一つとなっており、今後の研究の展開が注目される。


関連情報
トリグリセライド値が糖尿病神経障害に関係(世界の糖尿病最前線)
脂質異常症治療薬が糖尿病による下肢切断リスクを低減(世界の糖尿病最前線)
糖尿病性血管障害のより確実な抑止のために

[ DM-NET ]
日本医療・健康情報研究所

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