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2009年09月09日

よく噛むことが肥満対策に 食事の満足感も高まる

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 咀嚼(よく噛むこと)の大切さが注目されている。咀嚼には、食物を噛み砕き、胃腸での消化・吸収を助ける働きがあるが、それ以外にも「満腹中枢」を刺激し、食欲を抑える効果もあり、食事療法や肥満対策に役立つことが分かってきた。

 時間をかけてよく噛むことで脳の働きが活発になり、神経ヒスタミンの量が増える。神経ヒスタミンは満腹中枢や交感神経を刺激し、脂肪細胞から分泌され食欲を抑えるレプチンというホルモンの分泌も刺激されると考えられている。よく噛むことで食欲が抑えられ、満足感を得やすくなる。
口の中の健康維持は肥満対策にもなる
 日本人の咀嚼回数は戦前に比べて半分に減ったといわれる。欧米式の食事が普及し、ハンバーガーやスパゲティなど軟らかい食品の利用が増えたことが理由に挙げられるが、原因はそれだけではないようだ。

 28本の歯のうち少なくとも20本以上自分の歯があれば、健康や長寿につながるとして、1989年に当時の厚生省と日本歯科医師会が提唱し「8020運動」が始められた。厚労省の2005年の調査によると、自分の歯を20本以上有する人の割合は、60歳以上で約7割、65歳以上で約6割と年齢を重ねるごとに減っていく。

 歯を失う要因となるのは、口の中の細菌のかたまりであるプラークが原因となり起こる歯周病だ。歯周病は最近の研究では、全身の健康とも深い関わりがあると指摘されている。

 今年4月に米国で発表された研究では、ハーバード大学公衆衛生大学院(ボストン)の研究者らが、歯周病と診断されたことのない3万7000人のデータを解析し、1986年から2002年まで16年間かけて追跡調査した。体重や腹囲周囲径などを体重計やメジャーではかってもらい、歯周病の発症との関連を調べた。

 その結果、BMIが30以上の肥満の人では、標準体重の人に比べ、歯周病など口腔内の異常が起こる危険が25%から29%高くなっていた。また、歯周病を発症する危険は、ウエスト径が40インチ(約102センチメートル)以上の人では19%高く、ウエスト/ヒップ比が0.95以上の人では16%高くなっていた。

 歯周病の人では2型糖尿病や高血圧などの発症が増えたり、進行しやすくなるとも報告されている。研究者は「肥満を予防し適正体重を維持することは、口の中の健康を維持するためにも大切だ」と述べている。

咀嚼回数を増やすと満足感を得やすくなる
古くから親しまれてきた「ひじき」や「おひたし」は咀嚼回数を増やせる食品の代表
 肥満や2型糖尿病の対策として、食事のときに一口20〜30回噛む咀嚼法は有効だ。咀嚼回数によらず、摂取した食品のカロリーは全て体に吸収されるが、よく噛むことで過食を抑えられる効果を期待できる。

 厚労省の「歯科保健と食育の在り方に関する検討会」は7月、ひと口30回以上噛むことを目標に「噛ミング30(カミングサンマル)」運動を提唱した。口の中の健康と全身の健康づくりに関連させ、「よく噛んで、おいしく味わって食べることで、生涯を通じて、食で満足感やくつろぎを得ることができる」との報告書をまとめた。

 ご飯を主食とする日本食は、咀嚼回数を増やすのに適した食事と考えられている。日本食はご飯を中心に、主食、副食を並べた一汁三菜が基本となる。口の中でご飯とおかずがいっしょになることで咀嚼回数が増える。

 また、日本食では肉や油脂をあまり使わず、野菜、茸類、海藻類を多く使う。いずれも低カロリーで、食物繊維が豊富に含まれているので、噛む回数が自然に増えていく。

 「咀嚼」と「低カロリー」という情報が脳に伝わると、ヒスタミン神経系の働きが活発になり、満足感を得やすくなるとも指摘されている。ご飯を中心とした和食は、咀嚼の効果を高める代表的な食事だ。

口腔保健・食に関わる多分野の連携(厚生労働省資料より)

New Research Suggests Link Between Obesity and Periodontal Disease(米国歯科医師会・概要)
歯科保健と食育の在り方に関する検討会報告書「歯・口の健康と食育〜噛ミング30(カミングサンマル)を目指して〜」(厚生労働省)

関連情報
糖尿病と口の中の健康(糖尿病NET)

[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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