糖尿病性血管障害のより確実な抑止のために-トリグリセライドコントロールの重要性

 糖尿病は、インスリンの働きの低下で「糖」の代謝(利用効率)が低下する病気です。その結果、血糖値が高くなります。
 血糖値が高いままだと、全身の血管障害が速く進みます。その結果、合併症※1と呼ばれるさまざまな病気が起きてしまいます。
 ですから糖尿病の治療では、血糖値が高くならないようにする、つまり「血糖コントロール」が大切です。良好な血糖コントロール状況を続けていれば、糖尿病のために起きる血管の病気「糖尿病性血管障害」は起こりにくくなります。

 糖尿病では単に糖の代謝が低下するだけではなく、しばしば「脂質」の代謝にも‘乱れ’がでてきます。その結果、血液中の中性脂肪(トリグリセライド)※2やコレステロールレベルが異常となる「脂質異常症(高脂血症)」を伴うことが少なくありません。 高血糖に自覚症状がないように、中性脂肪やコレステロールに異常があっても自覚症状はありません。しかし、血管障害は進行します。

 ですから、糖尿病といわれたら、自覚症状のあるなしにかかわらず、血糖コントロールとともに、トリグリセライドやコレステロールのコントロールを続けることが大切です。そうすることで、「糖尿病性血管障害」をより確実に防ぐことができます。
 事実、糖尿病に伴う脂質異常症を薬でコントロールすることで、糖尿病性血管障害の発病が減ることを証明した「FIELD※3」という調査研究があり、最近その結果が『THE LANCET(ランセット)』という世界的に有名な医学雑誌に掲載され、注目されています。
 従来は主に太い血管の障害「動脈硬化」の危険因子だと考えられていた中性脂肪やコレステロールが、実は、糖尿病の特徴ともいえる「細小血管障害」の危険因子でもあることも、この調査研究で示されています。

 このコーナーでは、こういった新しい情報を取り上げながら、これからの糖尿病治療を考えてみます。
 患者さんをはじめ一般の方向けのページと、医療スタッフ向けにより詳しい解説を加えたページがありますので、どちらかをお選びください。

全体の構成と内容

第1回 糖尿病性血管障害
 糖尿病は「合併症の病気」だとよくいわれます。糖尿病における「合併症」とは、取りも直さず「血管障害」のことです。シリーズ第1回目では、糖尿病ではどのような血管障害が起きるのか、全般的に解説します。
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第2回 血管障害予防のためのトリグリセライドコントロール
 糖尿病性血管障害の予防に必要なことは、血糖コントロール。それとともに、近年、血清脂質(コレステロールやトリグリセライド)の管理の重要性が、科学的エビデンスによって示されるようになってきました。
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第3回 トリグリセライドコントロールの方法
 では、トリグリセライドをコントロールするにはどうすれば良いのか? シリーズの最終回は、これからの合併症予防に向けて、最新情報をもとに具体的な治療法へと話を進めていきます。
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※1 合併症とは

ある病気に関連して起こる他の病気のこと。余病ともいいます。一般に、合併症が起きると病状はより重くなります。糖尿病は数々の合併症が起こり得る病気です。その原因の多くは、高血糖によって血管が障害されることが関係しています。とくに細い血管(細小血管)の障害は糖尿病に特異的(糖尿病でない人にはあまり起こらないもの)で、それによる網膜症、腎症、神経障害などが高頻度に起こります。また、太い血管(大血管)の障害=動脈硬化は糖尿病に特異的ではないものの、糖尿病があるとやはり生じやすく、心筋梗塞や脳卒中といった、生命の危険にもつながることのある合併症を招きます。

※2 トリグリセライドとは

中性脂肪ともいいます。動物や植物の中に最も豊富に存在しているタイプの脂肪です。ヒトの体内では、余ったエネルギーを蓄えておく役割を果たしています。トリグリセライドそのものは脂肪分なのですが、体内にあるトリグリセライドの多くは脂肪分を摂取して溜まったものではなく、過剰な炭水化物が変化して合成されたものです。そのため、炭水化物の代謝(利用)が低下し、炭水化物が余りがちになる糖尿病では、血液中のトリグリセライドの値が高くなりやすくなります。高トリグリセライド血症は動脈硬化の危険因子の一つで、糖尿病の患者さんではその管理がより大切です。

※3 FIELD

オーストラリアなどで行われた、大規模な医学的調査研究。「フィールド」と呼ばれます。1万人近くの糖尿病患者さんを、トリグリセライドを下げるフェノフィブラートという薬を飲んでもらう「実薬群」と、プラセボ(外観からは本当の薬と区別ができない、なんの作用もない偽薬)を飲んでもらう「プラセボ群」に分け、平均5年間にわたって経過を調べました。その結果、実薬群はプラセボ群に比べて心臓の血管の病気の発病率が、有意に(統計的な誤差の範囲に収まらない、意味のある差をもって)減少しました。それとともに、網膜症や腎症などの細小血管障害も有意に減少し、糖尿病治療におけるトリグリセライドコントロールの重要性を浮き彫りにしました。

プロフィール

河盛隆造

河盛隆造 先生
糖尿病治療研究会 幹事

 昭和43年 大阪大学医学部卒業。同46〜48年 カナダ・トロント大学医学部研究員。同49年から大阪大学第一内科助手、講師を経て、平成6年より順天堂大学医学部内科学教授およびトロント大学生理学教授。日本糖尿病学会理事をはじめ内分泌・糖尿病領域を中心に多数の要職を務め、現在では順天堂大学大学院先進糖尿病治療学講座、同インスリン研究講座の教授などを兼任しています。
 なお、糖尿病治療研究会は、1980年に設立され、雑誌『プラクティス』の創刊、『わかりやすい糖尿病の運動療法ガイド』の編集など、さまざまな活動を展開している研究団体です。詳しくは同研究会のホームページへ。

※ヘモグロビンA1c(HbA1c)等の表記は記事の公開時期の値を表示しています。

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