糖尿病性血管障害のより確実な抑止のために-トリグリセライドコントロールの重要性
2012年12月20日
第2回 血管障害予防のためのトリグリセライドコントロール 一般の方向け
前回は、「糖尿病は血管障害の病気」だということをお話しし、糖尿病によって生じる血管障害、つまり合併症の主なものを解説しました。そこで今回は、そういった血管障害を防ぐにはどうすればよいのか、という話に移ります。その前に、前回の話のポイントをまとめておきましょう。
つまり、血糖コントロールだけではなく、血圧やコレステロール、中性脂肪(トリグリセライド)のコントロールも大切だということでしたね。
糖尿病患者さんが血糖や血圧を厳格にコントロールしたほうが良いことは、多くの大規模臨床試験の結果から、今では“常識”になっています。そこでこのコーナーでは、血清脂質、中でも中性脂肪(トリグリセライド)コントロールの重要性について詳しく解説していきます。
なぜ今、中性脂肪に注目するのか――逆にいうと、なぜ今まで中性脂肪があまり重視されてこなかったのか、その理由をまず最初に簡単にお話ししましょう。
糖尿病患者さんが血糖や血圧を厳格にコントロールしたほうが良いことは、多くの大規模臨床試験の結果から、今では“常識”になっています。そこでこのコーナーでは、血清脂質、中でも中性脂肪(トリグリセライド)コントロールの重要性について詳しく解説していきます。
なぜ今、中性脂肪に注目するのか――逆にいうと、なぜ今まで中性脂肪があまり重視されてこなかったのか、その理由をまず最初に簡単にお話ししましょう。
1. ようやくわかってきた高中性脂肪血症の重大性
a. 「脂質異常症=大血管障害の危険因子」と考えられてきた
前回も解説しましたが、高中性脂肪血症は脂質異常症(高脂血症)のタイプの1つです。そして脂質異常症は古くから、大血管障害、とくに心筋梗塞などの心臓病の危険因子として研究されてきました。
脂質異常症を心筋梗塞の危険因子として考えた場合、脂質異常症のタイプの中で最も重大なのは、悪玉コレステロールが多い状態「高LDLコレステロール血症」です。実際、心筋梗塞で亡くなった方の心臓を解剖し、冠動脈(心臓の血管)のプラーク(血流を遮る血管内の塊)を調べると、その中にはコレステロールがぎっしり詰まっています。
そして1980年代に、悪玉の LDLコレステロールを下げる「スタチン」という薬が日本で開発されました。その薬は瞬く間に世界中で最も多く使われる薬に成長しました。スタチンを使って LDLコレステロールを下げると、明らかに心臓病が減るからです。
脂質異常症を心筋梗塞の危険因子として考えた場合、脂質異常症のタイプの中で最も重大なのは、悪玉コレステロールが多い状態「高LDLコレステロール血症」です。実際、心筋梗塞で亡くなった方の心臓を解剖し、冠動脈(心臓の血管)のプラーク(血流を遮る血管内の塊)を調べると、その中にはコレステロールがぎっしり詰まっています。
そして1980年代に、悪玉の LDLコレステロールを下げる「スタチン」という薬が日本で開発されました。その薬は瞬く間に世界中で最も多く使われる薬に成長しました。スタチンを使って LDLコレステロールを下げると、明らかに心臓病が減るからです。
・脂質異常症は細小血管障害の危険因子でもある
さて、それでは「高中性脂肪血症」はどうかというと、中性脂肪値を下げる治療が心筋梗塞などの大血管障害を予防するとの成績は未だ多くありません。
もちろん、だからといって高中性脂肪血症を軽視して良いわけではなく、とくに後述するように、糖尿病の患者さんは中性脂肪値が高くなりやすいので、重要な危険因子とみるべきでしょう。さらに今、脂質異常症が「細小血管障害の危険因子」という新しい視点でとらえ直され、高中性脂肪血症の重要性がクローズアップされつつあります。
もちろん、だからといって高中性脂肪血症を軽視して良いわけではなく、とくに後述するように、糖尿病の患者さんは中性脂肪値が高くなりやすいので、重要な危険因子とみるべきでしょう。さらに今、脂質異常症が「細小血管障害の危険因子」という新しい視点でとらえ直され、高中性脂肪血症の重要性がクローズアップされつつあります。
b.本当の中性脂肪値は、検査で把握しにくい
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コレステロールに比べて中性脂肪の研究があまり進まなかったもう一つの理由は、中性脂肪値は食事の影響を受けてかなり変化するためです。ちょうど血糖値が空腹時と食後で変化するのと同じように、1日の中で大きく変動します。
通常、健康診断や通院時の検査は、他の検査も同時に行う都合から、空腹時に採血します。食事の前でも後で変化しない LDLコレステロール値の評価には、空腹時の採血で全く支障はありません。しかし、食後の高中性脂肪血症の多くが見逃されてしまっているのが現状です。
なお、糖尿病については、血糖値が高くなることが病気の正体であることは言うまでもありません。高い血糖値を下げてあげれば、喉の渇きや多尿などの症状が改善し尿糖も減るからです。ですから血糖値の日内変動に関しての研究も進み、診断や病状のチェックの際、血糖値が最も低くなる空腹時と、血糖値が最も高くなる食後に採血して検査する方法が、古くから定着しています。
通常、健康診断や通院時の検査は、他の検査も同時に行う都合から、空腹時に採血します。食事の前でも後で変化しない LDLコレステロール値の評価には、空腹時の採血で全く支障はありません。しかし、食後の高中性脂肪血症の多くが見逃されてしまっているのが現状です。
なお、糖尿病については、血糖値が高くなることが病気の正体であることは言うまでもありません。高い血糖値を下げてあげれば、喉の渇きや多尿などの症状が改善し尿糖も減るからです。ですから血糖値の日内変動に関しての研究も進み、診断や病状のチェックの際、血糖値が最も低くなる空腹時と、血糖値が最も高くなる食後に採血して検査する方法が、古くから定着しています。
・食後高血糖と食後高中性脂肪血症
近年、食前の血糖値が正常域であっても食後に血糖値が急上昇する例では大血管障害(動脈硬化)が進行することがわかり、糖尿病の患者さんに対する食後血糖のコントロールの大切さが強調されるようになっています。今日、空腹時血糖だけを頼りに糖尿病治療を続けることはなくなりました。これに対して食後の高中性脂肪血症の重要性は前記のような理由で遅れて研究が始まり、昨今ようやく注目されるようになってきたところです。
さて、それでは本論です。糖尿病性血管障害の抑止のための中性脂肪管理 ―トリグリセライドコントロール― の重要性に話を進めていきましょう。
2.糖尿病では血清脂質の‘量’と‘質’に異常を来す
a.血液中の脂質の流れ
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はじめに、少し難しくなりますが、体内での中性脂肪(トリグリセライド)の流れについてお話しします。
中性脂肪とは、前回もお話ししたように、食事を食べたときにその時点では必要としない余分なエネルギーを、食事がとれない空腹状態に備えて蓄えておくための脂肪です。名前に「脂肪」とついていますが、脂肪分を食べて作られるよりも、むしろ炭水化物(糖分、アルコール)をとりすぎたときに、体内で変化して中性脂肪になります。
中性脂肪は肝臓や脂肪組織に貯蓄されます。肝臓では「リポ蛋白」というものを作り出し、血液の中へ供給します。リポ蛋白とは、脂肪を血液になじませ蛋白質に包みこんだ、脂肪の運び屋さんだと思ってください(脂肪は油なので、そのままでは血液になじみません)。
肝臓から放出されたばかりのリポ蛋白は「VLDL」(超低比重リポ蛋白)と呼ばれ、当然ですがこれは中性脂肪を豊富に含んでいます。そしてこのリポ蛋白が全身を駆け巡っているうちに、まず、エネルギー源である中性脂肪が徐々に減っていき、相対的にコレステロールが多くなった LDL(低比重リポ蛋白)に変化します。そして LDL のコレステロールは、細胞膜やホルモンなどの材料として使われます。
このような脂質の流れは、「LPL(リポ蛋白リパーゼ)」という酵素の働きで調整されています。
中性脂肪とは、前回もお話ししたように、食事を食べたときにその時点では必要としない余分なエネルギーを、食事がとれない空腹状態に備えて蓄えておくための脂肪です。名前に「脂肪」とついていますが、脂肪分を食べて作られるよりも、むしろ炭水化物(糖分、アルコール)をとりすぎたときに、体内で変化して中性脂肪になります。
中性脂肪は肝臓や脂肪組織に貯蓄されます。肝臓では「リポ蛋白」というものを作り出し、血液の中へ供給します。リポ蛋白とは、脂肪を血液になじませ蛋白質に包みこんだ、脂肪の運び屋さんだと思ってください(脂肪は油なので、そのままでは血液になじみません)。
肝臓から放出されたばかりのリポ蛋白は「VLDL」(超低比重リポ蛋白)と呼ばれ、当然ですがこれは中性脂肪を豊富に含んでいます。そしてこのリポ蛋白が全身を駆け巡っているうちに、まず、エネルギー源である中性脂肪が徐々に減っていき、相対的にコレステロールが多くなった LDL(低比重リポ蛋白)に変化します。そして LDL のコレステロールは、細胞膜やホルモンなどの材料として使われます。
このような脂質の流れは、「LPL(リポ蛋白リパーゼ)」という酵素の働きで調整されています。
b.糖尿病では中性脂肪値が高くなりやすい
では、なぜ糖尿病(高血糖)では中性脂肪値が高くなるのでしょうか。
理由の一つはごく簡単で、糖尿病は血液中に糖分がだぶついている状態だということです。中性脂肪の原料である糖分がたくさんあるのですから、中性脂肪値はそれだけで高くなります。
また、前の項目で解説した LPL(リポ蛋白リパーゼ)の働きは、インスリンの作用で活性化されます。糖尿病はインスリンの作用が低下した状態ですから、LPL が十分に働きません。つまり、VLDL から LDL へと変化するのに時間がかかります。そのために、中性脂肪を多く含んでいる VLDL が増えます。
これらが、糖尿病で高中性脂肪血症を併発しやすい理由です。
理由の一つはごく簡単で、糖尿病は血液中に糖分がだぶついている状態だということです。中性脂肪の原料である糖分がたくさんあるのですから、中性脂肪値はそれだけで高くなります。
また、前の項目で解説した LPL(リポ蛋白リパーゼ)の働きは、インスリンの作用で活性化されます。糖尿病はインスリンの作用が低下した状態ですから、LPL が十分に働きません。つまり、VLDL から LDL へと変化するのに時間がかかります。そのために、中性脂肪を多く含んでいる VLDL が増えます。
これらが、糖尿病で高中性脂肪血症を併発しやすい理由です。
・中性脂肪値が高いと“善玉”コレステロールが減る
さきほど体内での‘脂質の流れ’(脂肪が全身に運ばれる過程)をお話ししましたが、この話には逆方向の流れもあります。つまり、全身に運ばれたコレステロールのうち、余った分を肝臓へ持ち帰ってくる流れのことです。
この流れを担っているのが、善玉コレステロールと呼ばれる HDLコレステロール(高比重リポ蛋白)です。なぜ“善玉”なのかというと、LDLコレステロールとは反対に、血管壁に染み付いているコレステロールを減らすリポ蛋白だからです。
この HDLコレステロールが作られる過程にも、LPL が深く関わってます。そのため、糖尿病でインスリンの作用が少なくなり、LPL 活性が低下している状態では、HDLコレステロール値が低い「低HDLコレステロール血症」を併発しやすくなります。
つまり、「糖尿病では、高中性脂肪血症と低HDLコレステロール血症という、脂質異常症の2つのタイプを伴いやすい」ということです。
この流れを担っているのが、善玉コレステロールと呼ばれる HDLコレステロール(高比重リポ蛋白)です。なぜ“善玉”なのかというと、LDLコレステロールとは反対に、血管壁に染み付いているコレステロールを減らすリポ蛋白だからです。
この HDLコレステロールが作られる過程にも、LPL が深く関わってます。そのため、糖尿病でインスリンの作用が少なくなり、LPL 活性が低下している状態では、HDLコレステロール値が低い「低HDLコレステロール血症」を併発しやすくなります。
つまり、「糖尿病では、高中性脂肪血症と低HDLコレステロール血症という、脂質異常症の2つのタイプを伴いやすい」ということです。
インスリンの働きで LPL(リポ蛋白リパーゼ)が活性化され、脂質が体内をスムーズに流れている | |||
インスリンの働きが低下していると、LPL(リポ蛋白リパーゼ)が活性化されず、血液中の脂質の流れが滞り、中性脂肪(トリグリセライド)は高く、善玉(HDL)コレステロールは低くなりやすい | |||
c.血清脂質の質的な変化も血管障害の危険因子
ところで、以前「高脂血症」と呼ばれていた病気は、現在「脂質異常症」と呼ばれています。
病名が変更された理由は2つあり、1つは、検査値が低いことが問題の「低HDLコレステロール血症」を含む病気なのに、一律に「高○○血症」と呼んではつじつまが合わないからです。もう1つの理由は、単に血清脂質値の数値的な異常だけでなく、検査値に現れにくい‘質的’な異常も、血管障害に関係しているからです。
そして糖尿病に伴う高中性脂肪血症では、血清脂質の質的な異常も高頻度に起こります。
病名が変更された理由は2つあり、1つは、検査値が低いことが問題の「低HDLコレステロール血症」を含む病気なのに、一律に「高○○血症」と呼んではつじつまが合わないからです。もう1つの理由は、単に血清脂質値の数値的な異常だけでなく、検査値に現れにくい‘質的’な異常も、血管障害に関係しているからです。
そして糖尿病に伴う高中性脂肪血症では、血清脂質の質的な異常も高頻度に起こります。
・中性脂肪値が高いと“超悪玉”コレステロールが増える
超悪玉(sdLDL)コレステロールは血管障害を簡単に起こす
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悪玉コレステロールならぬ、“超悪玉”の「small dense(スモールデンス)LDL」というコレステロールがあります。‘small dense’とは「小さく凝縮した」という意味です。この超悪玉コレステロールは、悪玉の LDL よりサイズが小さいだけでなく、酸化が進みやすいこともあって、より簡単に血管の壁に入っていき、血管障害を起こすと考えられています。
超悪玉コレステロールについてはまだわからないこともあるのですが、現時点でもいえることは、中性脂肪値が高くなると超悪玉コレステロールの量も同じように高くなるということです。よって、「高中性脂肪血症による超悪玉コレステロールの増加も、糖尿病性血管障害の発病・進行に関係している」と考えられます。
超悪玉コレステロールについてはまだわからないこともあるのですが、現時点でもいえることは、中性脂肪値が高くなると超悪玉コレステロールの量も同じように高くなるということです。よって、「高中性脂肪血症による超悪玉コレステロールの増加も、糖尿病性血管障害の発病・進行に関係している」と考えられます。
・食後の高中性脂肪血症がさらに血管障害を促す
また、さきほど「食後の高中性脂肪血症は見逃されやすい」とお話ししましたが、糖尿病があるとそれがより大きな意味を持ってきます。
食前の血糖値が比較的よくコントロールされている糖尿病患者さんでも、食後の血糖値のコントロールが不十分なケースが少なくありません。その理由は、食事によって血糖値の上昇が始まっているのに、インスリンの追加分泌が十分でない(またはタイミングが遅れて分泌される)ためです。インスリンが足りないということは、LPL 活性も不十分だということで、中性脂肪値も高くなります。
ですから糖尿病で食後に高血糖が起きている場合、食前の中性脂肪値はそれほど高くなくても、食後は中性脂肪値が高くなりやすくなります。通常の検査でわかる空腹時の中性脂肪値も高いのであれば、食後には中性脂肪値が、さらにずっと高くなっていると考えられます。
加えて、食後に増える中性脂肪は LPL の作用を受けると、「レムナント」(‘残りかす’という意味)になり、これが血管障害のとても大きな危険因子であることもわかってきています。悪玉と呼ばれる LDL は血管の壁に入り込んだ後、酸化を受けることで動脈硬化を促すのですが、このレムナントは酸化を受けていなくても動脈硬化を促すという特性があります。レムナントが多ければ、それだけ血管障害が進みやすくなるということです。
このように糖尿病では LDLコレステロール値や中性脂肪値といった通常の検査で把握できること以外の、脂質の‘質’的な変化も血管障害に大きくかかわってきます。
食前の血糖値が比較的よくコントロールされている糖尿病患者さんでも、食後の血糖値のコントロールが不十分なケースが少なくありません。その理由は、食事によって血糖値の上昇が始まっているのに、インスリンの追加分泌が十分でない(またはタイミングが遅れて分泌される)ためです。インスリンが足りないということは、LPL 活性も不十分だということで、中性脂肪値も高くなります。
ですから糖尿病で食後に高血糖が起きている場合、食前の中性脂肪値はそれほど高くなくても、食後は中性脂肪値が高くなりやすくなります。通常の検査でわかる空腹時の中性脂肪値も高いのであれば、食後には中性脂肪値が、さらにずっと高くなっていると考えられます。
加えて、食後に増える中性脂肪は LPL の作用を受けると、「レムナント」(‘残りかす’という意味)になり、これが血管障害のとても大きな危険因子であることもわかってきています。悪玉と呼ばれる LDL は血管の壁に入り込んだ後、酸化を受けることで動脈硬化を促すのですが、このレムナントは酸化を受けていなくても動脈硬化を促すという特性があります。レムナントが多ければ、それだけ血管障害が進みやすくなるということです。
このように糖尿病では LDLコレステロール値や中性脂肪値といった通常の検査で把握できること以外の、脂質の‘質’的な変化も血管障害に大きくかかわってきます。
3.大血管障害抑止のためのトリグリセライドコントロール
それでは、高中性脂肪血症(高トリグリセライド血症)と血管障害の関係を具体的なデータで見ていきましょう。まずは大血管障害についてです。
a.高中性脂肪血症は HbA1Cより重要?
約1万人の日本人を15年半継続して調査した結果、中性脂肪(トリグリセライド)が高いほど、冠動脈疾患(心臓の血管の病気。狭心症や心筋梗塞など)になりやすくなることがわかりました。中性脂肪が 84mg/dL の人の冠動脈疾患の危険性を1とした場合、167mg/dL以上では危険性が3倍近くになります。 |
〔Iso, et al:Serum triglycerides and risk of coronary disease among Japanese men and women.Am J Epidemiol 153:490〜499,2001〕 |
大血管障害(動脈硬化)との関係においては、前述のような理由で悪玉の LDLコレステロールに比べると、やや研究の出遅れ感がある中性脂肪(トリグリセライド)ですが、決して軽視してよいわけではありません。近年、中性脂肪の危険因子としての重要性を示す研究結果が相次いで発表されています。
そのうちの1つは日本で進行中の大規模臨床試験「JDCS(Japan Diabetes Complication Study)」です。全国各地の糖尿病専門医にかかっている糖尿病患者さん約2,200名の経過を継続的に観察し、合併症の頻度、どのような患者さんに合併症が起きやすいかなどを調べています。
それによると、糖尿病患者さんの冠動脈疾患(心臓の血管の病気)の発病に最も強い影響を及ぼしている要素は、LDLコレステロールでした。これで、従来から考えられていたように、 LDLコレステロールが大血管障害の1番の危険因子であることが確認できたわけですが、2番目に強い影響を及ぼしていたのは、血糖コントロールの指標である HbA1CやCペプチド(インスリン分泌量の指標)ではなく、中性脂肪だったのです。
そのうちの1つは日本で進行中の大規模臨床試験「JDCS(Japan Diabetes Complication Study)」です。全国各地の糖尿病専門医にかかっている糖尿病患者さん約2,200名の経過を継続的に観察し、合併症の頻度、どのような患者さんに合併症が起きやすいかなどを調べています。
それによると、糖尿病患者さんの冠動脈疾患(心臓の血管の病気)の発病に最も強い影響を及ぼしている要素は、LDLコレステロールでした。これで、従来から考えられていたように、 LDLコレステロールが大血管障害の1番の危険因子であることが確認できたわけですが、2番目に強い影響を及ぼしていたのは、血糖コントロールの指標である HbA1CやCペプチド(インスリン分泌量の指標)ではなく、中性脂肪だったのです。
b.大規模臨床試験 FIELD でわかったトリグリセライドコントロールの効果
中性脂肪(トリグリセライド)値が高いことが大血管障害、ことに心臓病の危険因子であることは明らかです。しかし、だからといってすぐに「中性脂肪値を下げないといけない」と結論づけることはできません。ひょっとしたら、真の原因が全く別のところにあり、中性脂肪値が高くなることと心臓病が起きやすくなることは、並行して起きているのかもしれません。そうだとしたら、中性脂肪値を下げても心臓病は予防できない可能性があります。「高中性脂肪血症を治療することで心臓病が減る」という、明確な証拠が必要です。
その証拠の1つが「FIELD(Fenofibrate Intervention and Event Lowering in Diabetes)」です。約9,800名という多数の糖尿病患者さんを対象に、オーストラリアなどで行われた大規模臨床試験です。
その証拠の1つが「FIELD(Fenofibrate Intervention and Event Lowering in Diabetes)」です。約9,800名という多数の糖尿病患者さんを対象に、オーストラリアなどで行われた大規模臨床試験です。
・FIELD 試験とは
FIELD では、患者さんを2つのグループ(群)に分け、一方には中性脂肪値を下げるフェノフィブラート(リピディル® )という薬が処方され、もう一方には、外観からは薬と全く区別がつかないプラセボ(偽薬)が処方されました。どの患者さんにどちらが処方されたのかは、患者さん本人はもとより、処方した医師もわかりません。結果を左右しかねない先入観などの要素をできるだけ排除した「無作為化二重盲検プラセボ対照試験」という、最も厳格な臨床研究方法による試験です。
・FIELD の結果概要 1(冠動脈疾患の抑制)
平均5年が経過した時点で両群の経過が比較検討されました。その結果、非致死性心筋梗塞や血管手術が必要になる率などは、フェノフィブラート群のほうが少なく、有意差(誤差では説明がつかない明らかな差)がありました。
これは、フェノフィブラートによるトリグリセライドコントロールが冠動脈疾患の予防につながったことを意味します。
これは、フェノフィブラートによるトリグリセライドコントロールが冠動脈疾患の予防につながったことを意味します。
4.細小血管障害抑止のためのトリグリセライドコントロール
それでは、糖尿病に特異的な血管障害である細小血管障害はどうでしょうか。実は、トリグリセライドコントロールによる細小血管障害抑制効果は、つい最近まではっきりわかっていませんでした。しかし、これについても前記の FIELD で重要な結果が示されています。
・FIELD の結果概要 2(腎症の進行抑制・改善)
まず、細小血管障害である腎症(腎臓の病気)についてみてみましょう。
腎症の進行は、アルブミン尿の進行と改善で検討されました。結果は、アルブミン尿が進行した率はフェノフィブラート群がプラセボ群より少なく、アルブミン尿が改善した率はフェノフィブラート群のほうが多いというもので、両群間に有意差がありました。
腎症の進行は、アルブミン尿の進行と改善で検討されました。結果は、アルブミン尿が進行した率はフェノフィブラート群がプラセボ群より少なく、アルブミン尿が改善した率はフェノフィブラート群のほうが多いというもので、両群間に有意差がありました。
・FIELD の結果概要・3(網膜症の進行抑制)
腎症と並ぶ細小血管障害である網膜症(目の病気)はどうでしょうか? 網膜症の進行は、「治療のためにレーザー光凝固が必要になった率」と、「レーザー光凝固術の施行回数」、「眼底写真による病期判定」によって検討されました。結果は、フェノフィブラート群がプラセボ群より有意に進行が抑えられているというものでした。
レーザー光凝固術は、糖尿病網膜症による視覚障害を防ぐ有用な治療法ですが、黄斑症などの副作用が起きることもあり、施行せずに済むのであればそれに越したことはありません。フェノフィブラートの服用によりレーザー光凝固術の必要性が減り、実際に網膜症の進行が抑えられるということは、網膜症の新たな治療法となる可能性もあります。
これら、網膜症や腎症に対するフェノフィブラートの効果は、高中性脂肪血症を治療することが大血管障害だけでなく細小血管障害をも抑制するという、糖尿病の新しい治療法を示唆するものです。
また、FIELD の対象患者さんは、血糖や血圧が比較的良好にコントロールされている患者さんであり、そういった患者さんでもフェノフィブラートによるトリグリセライドコントロールの上乗せ効果があったことは、世界中から驚きとともに評価されました。
レーザー光凝固術は、糖尿病網膜症による視覚障害を防ぐ有用な治療法ですが、黄斑症などの副作用が起きることもあり、施行せずに済むのであればそれに越したことはありません。フェノフィブラートの服用によりレーザー光凝固術の必要性が減り、実際に網膜症の進行が抑えられるということは、網膜症の新たな治療法となる可能性もあります。
これら、網膜症や腎症に対するフェノフィブラートの効果は、高中性脂肪血症を治療することが大血管障害だけでなく細小血管障害をも抑制するという、糖尿病の新しい治療法を示唆するものです。
また、FIELD の対象患者さんは、血糖や血圧が比較的良好にコントロールされている患者さんであり、そういった患者さんでもフェノフィブラートによるトリグリセライドコントロールの上乗せ効果があったことは、世界中から驚きとともに評価されました。
5.血糖・血圧・悪玉コレステロールの管理だけでは不十分
高中性脂肪血症の治療が、糖尿病に非特異的な合併症「大血管障害」(動脈硬化)の予防・治療だけでなく、糖尿病に特異的な合併症「細小血管障害」の予防・治療にとっても大切であることをお話ししてきました。途中、少し難解な箇所があったかもしれませんね。
簡単にまとめると、要は「糖尿病では中性脂肪値が高くなりやすく、中性脂肪値が高いと、太い血管と細い血管の両方の障害が進行しやすいので、悪玉と呼ばれる LDLコレステロールだけでなくて、中性脂肪値もしっかり管理する必要があります」ということです。
では次回、第3回目は最終回。中性脂肪の管理「トリグリセライドコントロール」の方法についてお話しします。
簡単にまとめると、要は「糖尿病では中性脂肪値が高くなりやすく、中性脂肪値が高いと、太い血管と細い血管の両方の障害が進行しやすいので、悪玉と呼ばれる LDLコレステロールだけでなくて、中性脂肪値もしっかり管理する必要があります」ということです。
中性脂肪(トリグリセライド)が高いと、大血管と細小血管の両方が障害される |
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