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2018年10月04日

糖尿病と心不全リスク 「心不全パンデミック」に3つの方法で対策

 心不全の患者は、超高齢社会において急激に増え続けると予想されており、「心不全パンデミック」とも言われている。
 国立循環器病研究センターなどの調査で、心不全による入院患者数は、毎年1万人ずつ増加していることが明らかになった。
 心不全を予防・改善するために必要なことをご紹介する。
心疾患は日本人の死亡原因の第2位
 心不全は、心臓が悪いために、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなり、生命を縮める病気。

 日本の心不全の患者数は約100万人を超えており、高齢化にともなって2035年までさらに増加するとみられている。

 厚生労働省の「人口動態統計」によると、心筋梗塞や狭心症を含む心疾患は、日本人の死亡原因の第2位になっている(1位はがん)。
動脈硬化が最大の原因
 心不全が増加している理由は、心不全の原因になる心筋梗塞や狭心症などの心臓病が増えていること。

 心臓病を起こす最大の原因は「動脈硬化」だ。心筋は心臓にまわりにある冠動脈から酸素や栄養を受けとっている。この冠動脈が動脈硬化によって詰まり壊死におちいり、激しい胸痛が起こるのが心筋梗塞だ。

 動脈硬化は症状がないまま進行することが多く、働き盛りの人が急に心筋梗塞を発症し、死に至るケースもある。死を免れても後遺症で苦しむ人が少なくなく、社会的な問題になっている。

関連情報
心筋梗塞や狭心症の自覚症状
 動脈硬化がかなり進行して、心筋梗塞や狭心症の危険性が高まっている場合、次のような自覚症状があらわれることがある。▼胸痛、▼息切れ、▼動悸、▼全身の倦怠感、▼手足のむくみ。

 これらの症状があったら、必ず医療機関を受診するようにしよう。特に胸痛が10〜20分以上続く場合や、痛みが非常に激しい場合は、心筋梗塞を起こしている可能性が高い。

 なお、糖尿病のある人では、合併症として神経障害が起こることがある。その場合、心筋梗塞の症状があっても、心臓神経に障害があると痛みなどが出ないことがあるので、注意が必要だ。
発症リスクを予測するツールを公開
 日本動脈硬化学会は、心筋梗塞や狭心症などの冠動脈疾患の発症リスクを予測するツール「これりすくん」を公開している。

 健診結果に記されている総コレステロール、LDLコレステロール、HDLコレステロール、中性脂肪、血圧、血糖値、年齢、家族歴などを記入すると、10年以内に心筋梗塞などを発症するリスクを計算するというもの。

 このツールは、国立循環器病研究センターなどが1989年から開始したコホート研究の成果をもとにしている。いつでも自分の発症リスクが分かるので、気になる人は利用してみたらいかがだろう。

メタボが動脈硬化の原因に
 動脈硬化の原因としてとくに重要なのは高血圧症、脂質異常症、糖尿病、喫煙、そしてメタボリックシンドロームだ。慢性心不全患者では、メタボの割合が2倍に増えるという調査結果がある。

 摂取エネルギーの過剰と運動不足があって、生活習慣の乱れがあれば、肥満になり、内臓脂肪がたまっていく。

 内臓脂肪がたまってくると、動脈硬化が進行させるレジスチンなどのホルモンが多く分泌するようになり、逆に動脈硬化を防ぐ働きをしてくれるレプチンやアディポネクチンなどのホルモンは少なくなる。
メタボを改善して動脈硬化を防ぐ
 心筋梗塞などによる突然死を防ぐには、動脈硬化になりやすい危険因子を減らす必要がある。

 動脈硬化の進行を予防するために、その危険因子である脂質異常症や高血圧、糖尿病などをきちんと治療すること、そして禁煙が欠かせない。

 血清脂質値や血圧値、血糖値を良好にコントロールできているほど、心不全になりにくいことが、日本を含む多くの研究で確かめられている。

 動脈硬化の危険因子は、多くの場合で「肥満」という共通の因子が関わっている。また、見た目は肥満に見えない「隠れ肥満」の怖さも注目されている。

 肥満やメタボリックシンドロームの人は、まず内臓脂肪減少を中心とした減量が第一で、それによって危険因子の多くを改善できる。
過剰に溜まった内臓脂肪を減らすことが基本
 メタボリックシンドロームに当てはまる人には、動脈硬化の進行を抑えるための対策が必要となる。ポイントとなるのは、複数の検査値異常のおおもとの原因となる、過剰に溜まった内臓脂肪を減らすことだ。

 「皮下脂肪は定期貯金、内臓脂肪は普通預金」とも言われる。皮下脂肪は溜まるのも使うのも時間がかかる一方、内臓脂肪は溜まりやすく消費されやすいという性質がある。

 内臓脂肪型肥満は解消しやすい肥満なので、消費エネルギーを増やして、内臓脂肪を減らそう。まずは、減量にこだわらずにウエストを細くすることが目標だ。ウエストが細くなれば、内臓脂肪が減ったということで、多くの検査値を同時に改善することを期待できる。
運動と食事など生活習慣の見直しが必要
 現代社会は、自分でからだを動かす努力をしないと、運動量がどんどん減ってしまう。自動車が普及し、駅や街中の階段にはエスカレーターが設置され、自分の足をあまり使わずに移動できる。仕事も椅子に座ってパソコンを操作する時間が長くなっている。

 エスカレーターに乗らず階段を上る、車で5分の距離は歩いて行くといったように、毎日の生活の中で、できるだけからだを使う機会を見つけることが重要だ。

 運動と同時に食事の習慣の見直しも必要だ。▼腹八分目を心がける、▼寝る前には食べない、▼油ものは少なくして野菜を多くとる、▼よく噛んでゆ っくり食べる、▼お酒を飲み過ぎない――こうした工夫を積み重ねれば、内臓脂肪を減らすことができる。
検査を定期的に受けることが重要
 もうひとつ重要なのは、「検査を欠かさない」ことだ。メタボリックシンドロームはもとより、脂質異常症や高血圧、糖尿病などの病気や動脈硬化さえも、初期の段階では自覚症状はほとんどあらわれない。

 一度改善した検査値が、再び悪くなることもある。動脈硬化を抑え心筋梗塞を防ぐために、そのような変化を早期発見することが必要だ。定期的に検査を忘れずに受けるようにしよう。

 もちろん、脂質異常症や高血圧、糖尿病などの治療を受けているのであれば、しっかり通院を続けることも重要だ。脂質異常症や高血圧、糖尿病などの薬を処方されている場合は、その薬物治療を続けながら内臓脂肪を減らしていく。
心筋梗塞などによる入院患者は毎年1万人ずつ増加
 心不全になると命を失う危険性が高まる。心不全の患者は、超高齢社会において急激に増え続けると予想されており、専門家の間では「心不全パンデミック」とも言われている。

 国立循環器病研究センターは、日本循環器学会と共同で行っている「循環器疾患診療実態調査(JROAD)」の結果を公表している。この調査は、2004年以降に日本循環器学会により全国で開始された。

 救急疾患として重要な急性心筋梗塞の全国の入院患者数は、2012年の約6万9,000人から2016年には7万3,000人と増加しており、この間の入院中の死亡率は約8%だった。

 一方、同じ救急疾患として2015年より調査を始めた急性大動脈解離にともなう入院患者数は、2015年の2万406人から2016年には2万2,171人に増加した。

 さらに、心不全による入院患者数は、2012年の約21万人から2016年には約26万人と、毎年1万人ずつ増加していることが明らかになった。

 国立循環器病研究センターなどは、心血管疾患患者を登録した日本の全国的なデータベースである「JROAD-DPC」を運営している。このデータベースには、診療報酬データのほかにも治療内容や予後などの標準化された患者単位の情報が含まれる。

 70万4,593件の診療録情報に含まれる心不全患者10万8,665例のデータを解析したところ、その平均年齢が男性75歳、女性81歳と、特に高齢女性の心不全患者が多いことが明らかになった。

 また、心血管疾患と脳血管疾患の合併頻度は約10%で、これら複数の疾患が重なる患者への治療体系の確立が大きな課題であることが分かった。
急性心筋梗塞と心不全による入院患者数は年々増加している
心不全(国立循環器病研究センター)
他国に類を見ない速さで高齢化が進む我が国における循環器診療の実態(国立循環器病研究センター 2018年9月19日)
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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