がんばりすぎない糖尿病ライフ

2026年06月29日

インスリンを打つと太る?それは「治療と生活を見直すサイン」かも

「先生、インスリンを打つと太るって聞いたんですけど...」
糖尿病の診療をしていると、ときどきこういう相談を受けます。

  • ・インスリンを始めたあとに体重が増えた。
  • ・インスリンの量が増えてから、なんとなく太りやすくなった気がする。
  • ・だから、できればインスリンを減らしたい。
  • ・なんなら、やめたい。

そう感じる人もいると思います。

たしかに、「インスリンを使うと体重が増えることがある」というのは、完全なウソではありません。実際、インスリン治療にともなって体重が増えることがあります。でも、ここで大事なのは、「インスリン=太る薬」になってしまっている場合は、生活や治療全体を見直すタイミングかもしれないということです。

そもそもインスリンは何をしているのか

インスリンは、血糖値を下げる薬として説明されることが多いです。
もちろん、それは間違いではありません。ただ、少し正確に言うと、インスリンは 体が糖質を使うためのホルモンです。

食事をすると、体に糖が入ってきます。でもそれだけでは使えません。その糖を細胞に取り込ませて、エネルギーとして使ったり、蓄えたりする。その働きを助けているのがインスリンです。
つまりインスリンは、私たちが糖質をエネルギーにしたり、蓄えたりするのを手伝うホルモンなんですね。

体重が増える理由①:体がエネルギーを使える状態に戻る

さて、インスリンを始めたあとに体重が増える理由には、大きく二つあります。まず一つ目は、もともとインスリンが足りず、血糖値が高い状態が続いていた場合です。

インスリンが足りていないと、食べた糖をうまく使えません。そうすると、食べているのにエネルギーにできず、体重が減ってしまうのです。

この状態でインスリンを始めたり増やしたりすると、今まで尿に捨てられていた糖が、ちゃんと体の中で使われるようになったり、筋肉や脂肪として蓄えられたりします。その結果、体重が増えることがあります。

でもこれは、体がエネルギーを使える状態に戻った、と考えた方が近い場合があります。
血糖値が高すぎて体重が減っていた人にとっては、インスリン治療による体重増加は、ある意味では体が本来の状態に近づいているサインでもあるのです。

体重が増える理由②:低血糖と補食が増えている

二つ目は、インスリンの量が多すぎたり、タイミングが合っていないため低血糖が増えている場合です。特に、何年も同じ単位数でインスリンを使っていたり、血糖測定の回数がなんとなく減っているときに多いパターンです。

低血糖になると、当然、補食をします。補食自体は必要な対応です。低血糖を放置するわけにはいきません。ただ、これが何度も続くと、知らないうちに摂取カロリーが増えていきます。また、低血糖になることでストレスホルモンが分泌され、体重が増えやすい原因にもなります。

この場合は、「インスリンを使っているから太る」というより、「インスリン量が今の生活に対して多く、低血糖と補食が増えている」ことが問題なので、主治医と一緒にインスリン量や血糖の測定頻度を見直すのが大切です。

特に、血糖測定をあまりしていない人や、CGMを使っていない人では、夜間や日中の低血糖に気づかないまま、なんとなく空腹感が増えたり、間食が増えたりしていることもあります。こうしたことを一つずつ見直し、インスリン量を減らすことで逆に血糖値も体重も、今より楽に整えられることがあります。
ただし繰り返しになりますが、自己判断ではなく主治医と一緒に見直すのが大切です。

最近は、インスリンに他の治療薬を組み合わせる選択肢も増えてきました

以前は、インスリン治療中に血糖値が高ければ、インスリンを増やして調整する、という考え方が中心でした。ただ、近年では、ここをずいぶん調整しやすくなってきました。

たとえば2型糖尿病をもつ人では、インスリンとGLP-1受容体作動薬を組み合わせた配合剤という選択肢があります。 GLP-1受容体作動薬は、食後の血糖上昇をおさえたり、食欲に作用したりする薬です。そのため、インスリンだけをどんどん増やすよりも、血糖値と体重のバランスをとりやすくなることがあります。

また、1型糖尿病をもつ人では、(インスリンは大前提ですが)SGLT2阻害薬という薬を組み合わせることで、血糖変動が安定したり、体重管理が楽になることがあります。

この辺りは治療の状況や個人個人の状況にもよるのですが、今の糖尿病治療は、
「血糖値が高いからインスリンを増やす」
だけではなくなってきています。

  • ・体重が増えてきた。
  • ・低血糖が多い。
  • ・補食が増えている。
  • ・インスリン量が増えてきた。

こうしたときは、インスリンを悪者にするのではなく、生活や治療内容など、糖尿病に関する全体を見直すタイミングかもしれません。

プロフィール

田中慧プロフィール画像

田中 慧
たなか さとし
東京女子医科大学糖尿病代謝内科学分野 嘱託医師
糖尿病専門医/医学博士

10歳で糖尿病を発症。2型糖尿病と診断されていたが、28歳時に遺伝学的検査を受検し、遺伝性糖尿病のMODY3と診断された。ペン型インスリン、CGM使用中。インスリンポンプを使用していた時期もあり。患者としての25年以上の経験と、医師としての専門性を生かし、医療者・患者・家族をつなぐ活動を展開中。X(旧Twitter)では「おだQ」というハンドルネームで約15,000人のフォロワーに向けて糖尿病ライフのヒントを発信している

※ヘモグロビンA1c(HbA1c)等の表記は記事の公開時期の値を表示しています。

Copyright ©1996-2026 soshinsha. 掲載記事・図表の無断転用を禁じます。
治療や療養についてかかりつけの医師や医療スタッフにご相談ください。

このページの
TOPへ ▲