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2026年03月30日
薬はできるだけ飲みたくない」はなぜ起きるのか ~バイアスとの向き合い方~
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- 時事通信社
「薬はできれば飲みたくないです」。これは外来で最もよく耳にする言葉の一つです。これまで薬を飲んだことがない方だけでなく、すでに複数の薬を内服している方でも「これ以上は増やしたくない」とためらう場合が少なくありません。
理由を伺うと、「飲んだ方がいいのは分かっている。でも、副作用が怖い」と多くの方が言います。この気持ちは、とても自然なものです。人はどうしても「今のままでいい」と考えてしまいます。変化によるリスクを避けて現状を維持しようとする、いわゆる「現状バイアス」です。

副作用への不安などから薬の服用に抵抗感を抱く患者は少なくない
◇とある患者の迷い
脂質異常症の薬の内服を提案した時の話です。心筋梗塞や脳梗塞などの動脈硬化に関連する疾患を予防するための薬ですが、その方は強く抵抗しました。詳しく話を伺うと、過去に薬の副作用でつらい思いをした経験がありました。「また同じことが起きたらどうしよう」という不安が、新しい治療を受け入れることを難しくしていました。
そこで私は、すぐに内服を勧めるのではなく、まず自身の体の状態を一緒に確認することから始めました。首の血管を診るエコー検査や、足の血管の硬さや詰まり具合を診る検査などを段階的に行いながら、少しずつ現状を共有していきました。検査を重ねるごとに、患者さんの表情は少しずつ変わっていき、「思っていたより、病状は進んでいるんですね」と言った後、最終的には自身の意思で内服を開始しました。
このとき改めて感じたのは、人は一度の説明だけで行動を変えるのは難しいということです。理解や納得は、時間をかけて少しずつ積み重なっていくものだと感じました。
◇納得感醸成へ対話重ねる
薬を勧めるときに私たち医療者は、つい「正しさ」を伝えようとします。ですが実際には、過去の経験や不安、思い込みといった心理的な要因が、意思決定に大きく影響しています。自分にとって都合のよい情報だけを信じてしまう「確証バイアス」や、今まで大丈夫だったからこれからも大丈夫だろうと思ってしまう「正常性バイアス」もその一つです。
だからこそ大切なのは、一度で納得してもらうことではなく、理解を一緒に積み重ねていくことだと感じています。繰り返し対話し、客観的な情報に触れ、少しずつ考え方が変わっていく。そのプロセス自体が、治療の一部なのだと思います。
「薬はできれば飲みたくない」という気持ちは、とてもよく分かりますが、その選択が未来のリスクを静かに高めてしまうこともあります。だからこそ無理に押しつけるのではなく、納得できる形で一歩ずつ、患者さんと同じ方向を向きながら、治療を進めていくことが大切だと考えています。(了)

渡邉昂汰氏
渡邉 昂汰(わたなべ・こーた) 内科専門医および名古屋市立大学公衆衛生教室研究員。「健康な人がより健康に」をモットーにさまざまな活動をしているが、当の本人は雨の日の頭痛に悩まされている。
[時事通信社 2026年3月30日]
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