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2013年05月22日
糖尿病患者のがんリスクは1.2倍に上昇 2学会の合同委員会が発表
報告書では、多目的コホート研究「JPHC Study」のデータや、日本人の糖尿病患者におけるがん罹患リスクをメタ解析したデータの疫学的評価がまとめられた。委員の1人である国立がん研究センターがん予防・検診研究センター予防研究部部長の津金昌一郎氏らが実施した、日本における8件のコホート研究のプール解析結果が示された。
それによると、解析対象者約33万5,000例のうち、がん罹患者数は約3万3,000例で、糖尿病患者における全がん罹患リスクは1.2倍(男性1.19倍、女性1.19倍)に上昇した。
がん種別の相対リスク(RR)は、膵臓がん1.85倍、肝臓がん1.97倍、大腸がん1.40倍が有意に高いことなどが分かった。一方、乳がん0.95倍、前立腺がん0.96倍では、糖尿病との関連はみられなかった。
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合同シンポジウムでは浜島信之・名古屋大学大学院医学系研究科教授は「2型糖尿病が発がんリスクを上昇させる生物学的機序があきからにされつつある。両者には共通の発生要因がある」と指摘した。
糖尿病有病者もがん罹患率も年齢の上昇とともに増加し、特に男性でこの傾向が強い。また、肥満は2型糖尿病の重要な危険因子で、国際がん研究機関(IARC)は、大腸、閉経後乳房、食道、子宮体部、腎臓、膵臓の各部位のがんリスクを上げると報告している。
赤肉や加工した肉の摂取が少ないほど、また、野菜、果物、全粒粉の摂取が多いほど、がんリスクは低下する。肉類の摂取が少ない、野菜、果物、全粒粉や食物繊維が多い食事は、インスリン感受性を改善し、2型糖尿病の予防・改善の面からも好ましい
さらに、身体活動は、大腸がん、閉経後乳がん、子宮内膜がんのリスク低下と関連している。アルコール摂取は、口腔、咽頭、喉頭、食道、大腸、肝臓、乳房で発がん性を高める。身体活動を増やし、アルコール摂取を控えることは、2型糖尿病の治療だけでなく、がん予防の点からも有用だという。
1988年の久山町の健診で75g経口糖負荷試験を受けた40〜79歳の住民2,438年を19年間追跡して調査した結果を用いて、一般住民における耐糖能レベルとがん死亡の関係を検討した。
空腹時血糖値別にみた悪性腫瘍死の相対危険度を、性別と年齢で調整して求めた。空腹時血糖値100mg/dL未満群の相対危険度を1.0とした場合の、耐糖能レベルと悪性腫瘍死の相対危険度をみると、空腹時血糖レベルが高くなるにつれ死亡率は有意に上昇し、正常群の相対危険度を1.0とするとIFG(空腹時高血糖)とIGT(耐糖能異常)は1.5、糖尿病は2.2となった。
さらに糖尿病の中でも、新規に診断された糖尿病よりすでに診断されていた糖尿病の方が全がん死亡率が高かった。このことから、罹病期間が長い、もしくは重症である糖尿病患者のほうが全癌死亡率が高まることが示唆された。
空腹時血糖値別にみた胃がん発症の相対危険度を、性別、年齢で調整して検討した。95mg/dL未満の相対危険度を1.0とした場合、96〜104mg/dLは2.3、105mg/dL以上は3.0といずれも空腹時血糖が上昇すると有意に相対危険度が高まった。
またHbA1c(JDS)値別にみると、5.0〜5.9%の相対危険度を1.0とした場合、6.0〜6.9%は2.0、7.0%以上は2.5と有意に胃がん発症の相対危険度が上昇した。血糖値と胃がん発症の相対危険度には密接な関連があることが示された。
糖尿病の既往があるとがんにかかりやすくなる理由として考えられているのは、糖尿病になると起こる体内の変化だ。膵臓から分泌されるインスリンの作用が不足すると、それを補うために高インスリン血症やIGF-I(インスリン様成長因子1)の増加が生じ、これが肝臓、膵臓などの部位における腫瘍細胞の増殖を刺激して、がん化に関与すると推察されている。
肥満や運動不足によっても高インスリン血症は引き起こされる。肥満や運動不足と関連の強いがんでは、類似のメカニズムでがんを発症する可能性がある。
中釜斉・国立がん研究センター研究所所長は、糖尿病の発症に関して、肥満・体脂肪の増加が遊離脂肪酸やTNFαの上昇をもたらし、脂肪性サイトカインの一種であるレプチンの上昇、およびアディポネクチンの低下を引き起こすことを指摘。この結果、骨格筋や肝臓でのインスリン抵抗性と高インスリン血症が引き起こされる。
さらに、糖尿病患者は性別・年齢に応じてがんのスクリーニング検査を受けることが重要だとした。たとえば、大腸がんのスクリーニングは、40歳以上の男女を対象に、年1回の間隔で、問診と便潜血検査を行うことを勧めている。また、肝炎ウイルス陽性の場合は、肝臓癌のスクリーニングを受診するよう勧めた。
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