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2012年06月13日
インスリン療法の早期開始は安全 米糖尿病学会でORIGIN試験結果を公表
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- 医薬品/インスリン
カナダのマクマスター大学の研究者らが、世界40ヵ国の1万2500人が参加し6年間にわたって実施された「ORIGIN」試験の結果を、米国糖尿病学会で公表した。
2型糖尿病の治療でインスリンを早期に用いた場合の有用性などを検討した「ORIGIN」試験では、インスリンの早期使用により心疾患などのリスクを低減できるかが検討された。主要評価項目では、経口薬を使用した一般的な治療と差はなかった。また、一部で懸念されていたがんのリスクの上昇などはみられなかった。
インスリン療法は、経口薬などで十分な血糖降下作用を得られなくなった場合に開始されるなど、治療の最終手段として行われることが多いのが現状だ。これに対し研究者らは、「糖尿病患者はどの段階でもインスリン療法を開始を投与しても有効であり、早期に開始するメリットがある」と述べている。
「長期的なインスリン療法が、心臓発作・脳卒中・がんなどの危険性を高める可能性について、長年議論がなされてきたが、今回の研究で“リスクは少ない”と明確な答えが示された」とカナダ・マクマスター大学のHertzel Gerstein氏らは話す。
研究を通じて、インスリングラルジン治療群の空腹時血糖値は正常レベルである6mmol/dL(108mg/dL)以下を維持していた。インスリン療法の副作用として知られるものに低血糖と体重増加がある。インスリングラルジン治療群の平均体重増加は3.5ポンド(約1.6kg)で、低血糖症の頻度も年間に1エピソードを若干上回る程度で、深刻なものではなかった。「基礎インスリン分泌を補うインスリン療法は危険性が低いことが示された」とGerstein氏は強調する。
がんのリスクとの関係については、いずれの部位のがんでも上昇はなかった。また、耐糖能異常(IGT)のある糖尿病予備群の患者の糖尿病への移行状況をみたところ、インスリンを投与された患者群では、一般的な治療を受けた患者群よりも糖尿病に移行した割合が28%少なかった。
いったん高血糖が起こると膵臓が障害され、インスリンの分泌量を低下させたり、インスリン抵抗性を引き起こし、高血糖がさらなる高血糖を呼ぶ「糖毒性」が起こる。インスリン療法により糖毒性をとり除くことができるので、症状の軽い糖尿病でもインスリン療法は有効となる。ただし、インスリン療法の中止後3か月以上において、この効果が持続されるかどうかは未知のままだという。
「正常血糖をターゲットとした長期的な基礎インスリン療法には効果があることが確かめられたのは、患者と臨床医の両方にとってメリットがある。最初のインスリン製剤が使用されてから約90年が経過した。経口薬で十分な血糖コントロールを得られない場合に、糖尿病の初期の段階からインスリンの基礎分泌を補うインスリン治療を開始することは意義が大きい」とGerstein氏は付け加えている。
Study Finds No Increased Heart, Cancer Risk from Daily Insulin Glargine Use(米国糖尿病学会 2012年6月11日)
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