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2011年10月20日

新しい特定健診・保健指導 HbA1c国際標準化は2013年度以降

 厚生労働省は、特定健診・保健指導のあり方を見直す「保険者による健診・保健指導等に関する検討会」(座長:多田羅浩三・日本公衆衛生協会理事長)の第5回会合を、10月13日に開催した。焦点となっているのは、現行の腹囲基準値(男性 85?、女性 90?)の見直しと、腹囲基準に満たない「非肥満者」に対する保健指導だ。
腹囲基準値は男性86?、女性77?が妥当
● HbA1c国際標準化は2013年度以降
 糖尿病の診断基準のひとつで、特定健診の検査項目でもある「HbA1c」の表記を、国際基準のNGSP値に変更する時期について、厚生労働省検討会では2012年度は日常臨床でJDS値と国際標準値(NGSP相当値)とを併記するとの基本方針が示された。ただし検査機関(登録衛生検査所)が結果を併記して提出することが前提となる。
 特定健診や保健指導でのHbA1cの表記は現在、日本独自のJDS値を使用しているが、日本糖尿病学会を中心として国際標準値への統一化を求める動きがある。
 同検討会ではNGSP値への変更を検討してきたが、システム改修や国民への周知が必要との理由から、特定健診・保健指導については、受診者に対する結果通知および保険者への結果報告のいずれも、従来通りJDS値のみで行う。
 2013年以降の、HbA1c表記の国際標準値(NGSP相当値)への移行については、今後、ワーキンググループで協議する。参考人として出席した日本糖尿病学会の門脇孝理事長は「2013年度以降、臨床の受診などに混乱が起きないよう、学会として適切な対応をしたい」と述べた。

● 治療中の患者に対する保健指導
 2型糖尿病など生活習慣病の薬物療法を行っている患者は、「医療機関で医学的管理の一環として必要な保健指導が行われている」、「重複して保健指導を実施する必要性が薄い」という理由で、特定健診・保健指導の対象にならないことが決まっている。一方で、保険者が必要と判断した場合に、主治医の依頼や了解のもとに、保健指導が行われることもある。
 例えば、広島県呉市が行っている「糖尿病性腎症等重症化予防事業」では、特定健診のデータを用いて対象者を抽出した上で、地区医師会や主治医との連携の下、糖尿病性腎症を中心に重症化予防のための保健指導を実施する事業が行われている。

 2005年に日本内科学会など8学会が合同で策定したメタボリックシンドロームの診断基準では、内臓脂肪の蓄積と、高血糖、脂質異常、高血圧というリスク要因を重ねもっている場合にメタボリックシンドロームと判定される。内臓脂肪を減少させることで、重複する全ての発症リスクの低減がはかられるという考え方は、特定健診・保健指導でも基本になっている。

 実際に、2004年の医療経済研究機構の「政府管掌健康保険における医療費等に関する調査研究」の結果を解析したところ、4検査項目(BMI、血圧、脂質、糖代謝)のリスク保有数が増えるにつれ、患者1人当たり医療費は高くなることが確かめられた。リスク保有数0個の人とリスク保有数4個の人を比べると、後者の方が医療費は平均で4倍に上った。

 現行の特定保健指導の対象者を抽出する腹囲基準値は、男性 85?、女性 90?。腹腔内脂肪面積が男女とも100cm2以上に相当し、この値を超えると健康リスクが増加する。

 しかし、参考人として出席した京都大学大学の中尾一和氏は「ウエスト周囲径は内臓脂肪量を反映するとは限らない」と指摘。男性2947人と女性627人を対象に調査した「MONK研究」で2000年から2005年に、CT(コンピュータ断層撮影)を用い内臓脂肪面積を測定したところ、日本人のメタボリックシンドロームの頻度の差は男女で大きく、女性のカットオフ値は男性とは異なるという結果になった。

 そのうえで内臓脂肪面積のカットオフ値として男性86?、女性77?が妥当との見解が示された。腹囲基準値については、9月に開催された第32回肥満学会においても検討されており、今後変更される可能性がある。

 一方、「腹囲は国民自らが測定できる。血糖、血圧、コレステロールは医療機関で測ってもらわないとわからない。腹囲を指標にすることによって、国民自らが高血圧、高血糖、脂質異常に対策する意欲が高まり、健康づくりを進めることができる」、「腹囲により肥満者を判定し、他のリスクと併せて階層化して保健指導を行う現行の枠組みは妥当。ただし、非肥満でリスク因子を有する者は、同様に循環器疾患のハイリスク者であるため、制度的な対応が必要」といった意見も出された。

腹囲が基準以下であっても、危険因子のある人には保健指導が必要
 大阪大学の磯博康氏は、「腹囲が基準以下であっても、高血圧、糖尿病、脂質異常などの循環器疾患の危険因子が重複する者に対して、動機づけあるいは積極的保健指導に相当する保健指導の実施体制を構築する必要がある」と指摘し、非肥満者への保健指導の必要性を説明した。

 「(1)循環器疾患の過剰発症の半数以上は、非肥満のリスク保有によるものである(メタボより多い)」、「(2)特に女性では、要医療とならない非肥満・リスク保有者でも、循環器疾患の発症リスクが高い」として、「非肥満者のリスク重積者に対する保健指導が必要であるというのは当然。しかし、その保健指導と特定保健指導は分けて考えなければならない。非肥満者への保健指導を特定保健指導として位置づけるか否かが問題」との意見が出された。

 非肥満のリスク保有者に対しては、▽血圧高値の者には、減塩、カリウム(野菜、果物)、カルシウム(乳・乳製品)、動物性たんぱく質(魚、脂肪の少ない肉)の摂取、節酒、身体活動など、▽高血糖の者には、摂取エネルギー制限、高GI食品の制限、身体活動、喫煙予防・禁煙など、▽脂質異常の者には、魚の摂取、肉の脂肪制限、卵黄の制限、身体活動、喫煙予防・禁煙といったポイントが保健指導の具体的内容として指摘された。

 2009年度特定健康診査結果をもとに推計すると、非肥満(腹囲基準非該当)のリスク保有者の数は、男性は約380万人、女性は約390万人に上るという。非肥満のリスク保有者に対して、保険者の事業として何らかの対応をはかる場合は、人的・物的な実施体制など整備したうえで対応する必要がある。

 東京大学の永井良三氏が発表した「個人特性に応じた効果的な行動変容を促す手法に関する研究」では、健診受診者を対象に、性別、肥満の有無、リスクの種類、喫煙習慣、服薬内容、運動習慣などり175のパターンにわけ、個人に最適化した「情報提供」を行ったところ、保健指導を受けた人の意識・行動変容が確かめられた。

 個々への情報提供により「リスク認識者の増加」、「プログラム拒否者の減少」、「未受診者の意識変容」といった改善点がみられたという。「全員に画一的な情報を提供するのではなく、健診結果や健診時の質問票から対象者個人に合わせた情報を提供する必要がある」との意見が出された。

 新しい特定健診・保健指導は2013年4月から、医療費適正化計画の第2期に合わせて開始され、2018年まで続けられる。

保険者による健診・保健指導等に関する検討会(厚生労働省)

[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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