血糖管理が不良であると歯を失いやすい

　糖尿病とともに生きる人は、血糖管理が不良であると、歯の本数が少ない傾向にあることが、滋賀医科大学などによる大規模な調査で明らかになった。

　その一方で、血糖管理が良好であると、糖尿病のない人に比べても、歯の本数に大きな差はみられなかった。

　また歯科受診率は、年齢が上がるにつれて徐々に増加したものの、20代で3割、30代で4割と、若年層では低かった。

　「これらの結果は、糖尿病患者さんの口腔の健康を維持するためには、歯のメインテナンスの定期的な受診に加え、血糖管理の両立が重要であることを示唆しています」と、研究者は述べている。

　「今後は、医師と歯科医師が連携を深め、患者中心の予防医療体制を強化していくことが求められます」としている。

糖尿病の人は歯を喪失するリスクが高い

　研究は、滋賀医科大学とサンスターグループが、定期健康診断の結果と医療機関の診療データを用いた共同研究。研究グループは、ミナケアが保有する包括的な医療データおよび専門的な助言をもとに、歯科受診の実態や歯のメインテナンス、糖尿病と歯の本数の関連性を分析した。

　1～2ヵ月の血糖値の平均が反映されるHbA1cが7.0％以上の人が、血糖管理が不良とされた。糖尿病の合併症を予防するための血糖管理の目標は、HbA1c 7.0％未満とされている。

　また歯のメインテナンスは、歯科医院を受診して、さまざまな項目のチェックや口の清掃を受けること。とくに歯を失う原因になる歯周病は、細菌の感染によって引き起こされ、再発の多い病気なので、再発させず健康な状態を維持するために、定期的なメインテナンスが必要になる。

　歯の喪失を防ぐためには、歯科受診による管理が重要とされている。とくに糖尿病とともに生きる人は、歯を喪失するリスクが高いことが知られており、歯科受診が推奨されているが、その実態や効果についてはこれまでよく分かっていなかった。

血糖管理が良好であると歯を失うことが少ない

　調査の結果、歯科受診内容と糖尿病の状態別に歯の本数を比べたところ、糖尿病のある人は血糖管理が良好であると、糖尿病のない人に比べて大きな違いはみられなかった。

　一方、血糖管理が不良な糖尿病患者は、歯のメインテナンスを受診および歯科治療のみを受診していた人でも、糖尿病のない人に比べて、明らかに歯の本数が少ないという結果が示された。

　歯科受診内容別に歯の本数を比べたところ、糖尿病のある人、糖尿病のない人のいずれも、歯科治療のみを受診している人は、メインテナンス受診者に比べて、歯の本数が少ないことも分かった。

　「口腔の健康を維持するためには、治療を目的とした受診だけでなく、予防・管理を目的とした定期的なメインテナンス受診が不可欠です。とりわけ糖尿病のある方では、歯科医師と医師が連携し、口腔と全身の双方を視野に入れたアプローチが求められます」と、研究者は述べている。

70万人分の医療ビッグデータを用いた大規模な調査を実施

　研究グループは今回、診療報酬明細書と定期健康診断結果を組み合わせたデータベースを活用し、2015年4月～2016年3月の1年間のデータを用いて、横断研究を行った。歯科受診の実態や歯のメインテナンスの状況、糖尿病と歯の本数の関連を検証した。

　複数の健康保険組合の定期健康診断受診者のうち、20～74歳の70万5,542人(平均年齢 44.7歳)を対象に、歯科受診内容(メインテナンスのみ受診/メインテナンスと治療受診/治療のみ受診/歯科未受診)での実態を分析した。

　さらに、歯の本数や糖尿病についてのデータのある40～69歳の18万5,820人(平均年齢 50.0歳)を対象に、糖尿病の状態別に歯のメインテナンスと歯の本数の関連を検証した。

歯のメインテナンスを受けることも大切

　今回の研究では、糖尿病患者での歯科受診の傾向は、全体と大きく変わらなかったが、血糖管理が不良の人では、いずれの年代でも歯科受診率がとくに低く、メインテナンスを受けている人の割合も顕著に少ないことも明らかになった。

　対象者全体での歯科受診率は46％となり、若年層ほど受診率が低く、20代では34％、30代では43％ととくに低調だった。

　歯科受診内容の内訳をみると、20代では「メインテナンスのみ」が7％、「メインテナンスと治療」が11％、「治療のみ」が16％だった。年齢が上がるにつれて「治療を含む受診」の割合が増加する一方、「メインテナンスのみ」の割合に年齢による大きな差はなかった。

良好な血糖管理と医科と歯科の連携が重要

　研究は、滋賀医科大学内科学講座(糖尿病内分泌・腎臓内科) 客員准教授および鹿児島大学大学院糖尿病内分泌内科学准教授の森野勝太郎先生らによるもの。研究成果は、「Diabetology internationa」誌にオンライン掲載された。

　「本研究により、歯科メインテナンスの受診が歯の本数の維持に寄与すること、さらに糖尿病患者さんでは、血糖管理の良否が歯の健康に大きく関係していることが明らかとなりました」と、研究者は述べている。

　「とくに血糖管理が不良な糖尿病患者さんでは、歯の本数が少ない傾向がみられたことから、歯科メインテナンスの重要性に加え、医科と歯科の連携による包括的な健康管理の必要性が示唆されます」としている。

　今回の研究は、ある1年の断面をみた調査なので、因果関係が完全に証明されたものではないにしても、これまでにない大規模なデータにもとづく詳細な検討を行っており、実態把握という点で意義のある研究としている。

　「口腔の健康を維持するためには、治療を目的とした受診だけでなく、予防・管理を目的とした定期的なメインテナンス受診が不可欠です。とりわけ糖尿病を有する方では、歯科医師と医師が連携し、口腔と全身の双方を視野に入れたアプローチが求められます」としている。

滋賀医科大学内科学講座 糖尿病内分泌・腎臓内科
Association among the number of natural teeth, dental maintenance visits and diabetes status: a cross-sectional study using employment-based healthcare claims database (Diabetology international February 2025年2月20日)