ニュース
2018年06月25日
尿1滴で「糖尿病腎症」の悪化を予測 尿中糖鎖で進展を判定
- キーワード
- 医療の進歩 糖尿病の検査(HbA1c 他) 糖尿病合併症

岡山大学の研究グループは、2型糖尿病患者の将来の腎臓の機能の悪化を予測できる新たな尿バイオマーカーを発見したと発表した。尿1滴で「糖尿病腎症」の悪化を予測できるという。
尿1滴で将来の腎機能の悪化を正確に推定
岡山大学の研究グループは、糖尿病患者の尿に含まれる「糖鎖」の量で、腎臓の機能が将来悪化しやすいかどうかを予測できることを世界ではじめて突き止めた。
尿1滴を使用するだけで、これまでより正確に腎機能の悪化を推定できるという。今回の研究は、尿中糖鎖と糖尿病患者の腎機能の悪化との関係を示したもので、糖尿病腎症の新たなメカニズムの解明につながる可能性がある。
岡山大学などは、この判定手法に関する特許を出願中で、実用化に向けた検討も進めている。
研究は、岡山大学大学院医歯薬学総合研究科腎・免疫・内分泌代謝内科学の和田淳教授、三瀬広記医員らの研究グループによるもので、米国糖尿病学会(ADA)が発行する医学誌「Diabetes Care」に発表された。
将来の腎臓病の悪化が予測できれば透析への進行を回避できる
日本で人工透析の原因となる腎臓病の第1位は糖尿病腎症だ。新たに透析が必要となる患者のうち43%(1万6,103人)が、糖尿病腎症が原因で透析に至っている。
糖尿病腎症は、近年登場したさまざまな治療薬などの効果で、以前よりその進行は抑えられているが、糖尿病腎症による透析導入者数はいまだ多い。
「将来の腎臓病の悪化が予測できることで、より早い段階で、より説得力をもって患者への生活習慣病の指導や治療が進められる。これにより、糖尿病腎症が進行し透析治療に進行する患者を減らすことができる」と、三瀬広記氏は言う。
「尿中糖鎖が糖尿病腎症の新たな治療ターゲットになる。糖鎖についてさらに研究を進める。その他の腎臓病においても、尿中糖鎖による診断バイオマーカーの研究を進める」と、和田淳教授は述べている。
糖鎖が腎臓病悪化を予測する新たなバイオマーカーに
研究グループは今回の研究で、バイオ企業のグライコテクニカが開発した「レクチンアレイ」を用いて、尿1滴(20マイクロリットル、マイクロは100万分の1)を用いるだけで、多くの患者の尿中の複数の糖鎖量を短期間かつ同時に測定するのに成功した。

尿中糖鎖のバイオマーカーにより正確に腎機能の悪化を予測
研究グループは、このレクチンアレイを用いて、岡山大学病院を含めた岡山県内8施設における2型糖尿病患者の尿中糖鎖量を測定した。
その結果、将来腎臓の機能が悪くなる患者では、特定の尿中糖鎖量が大きく異なっていることを発見した。
具体的には、SNAというレクチンに結合する「Siaα2-6Gal/GalNAc」という糖鎖、RCA120というレクチンに結合する「Galβ1-4GlcNAc」という糖鎖、ABA・Jacalin・ACAといった3つのレクチンに共通して結合する「Galβ1-3GalNAc」という糖鎖の尿中排泄量が多い患者や、DBAというレクチンに結合する「GalNAcα1-3GalNAc」の尿中排せつ量が少ない患者では、将来腎臓の機能が悪化しやすいという結果が得られた。
さらに、現在の治療に用いられているアルブミン尿などのバイオマーカーに、これら尿中糖鎖というバイオマーカーを加えることで、これまでより正確に腎機能の悪化を予測できることが判明した。

Identification of Novel Urinary Biomarkers for Predicting Renal Prognosis in Patients With Type 2 Diabetes by Glycan Profiling in a Multicenter Prospective Cohort Study: U-CARE Study 1(Diabetes Care 2018年6月)
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所
医療の進歩の関連記事
- 腎不全の患者さんを透析から解放 「異種移植」の扉を開く画期的な手術が米国で成功
- 【歯周病ケアにより血糖管理が改善】糖尿病のある人が歯周病を治療すると人工透析のリスクが最大で44%減少
- 世界初の週1回投与の持効型溶解インスリン製剤 注射回数を減らし糖尿病患者の負担を軽減
- 腎不全の患者さんを透析から解放 腎臓の新しい移植医療が成功 「異種移植」とは?
- 【1型糖尿病の最新情報】幹細胞由来の膵島細胞を移植する治療法の開発 危険な低血糖を防ぐ新しい方法も
- 糖尿病の治療薬であるGLP-1受容体作動薬が腎臓病のリスクを大幅に低下 認知症も減少
- JADEC(日本糖尿病協会)の活動 「さかえ」がWebページで閲覧できるなど「最新のお知らせ」からご紹介
- 【1型糖尿病の最新情報】iPS細胞から作った膵島細胞を移植 日本でも治験を開始 海外には成功例も
- 「スマートインスリン」の開発が前進 血糖値が高いときだけ作用する新タイプのインスリン製剤 1型糖尿病の負担を軽減
- 糖尿病の医療はここまで進歩している 合併症を予防するための戦略が必要 糖尿病の最新情報