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2013年04月23日
血糖コントロールに脳が大きく関与 「レプチン」の作用メカニズムを解明
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レプチンが視床下部で骨格筋と肝臓での糖代謝を調節するメカニズムが、生理学研究所(NIPS)と、昭和大学、北海道大学、桐生大学との共同研究によりあきらかになった。
研究成果は、生理学研究所生殖・内分泌系発達機構研究部門の戸田知得氏らの研究チームによるもの。米国糖尿病学会(ADA)が発行する「Diabetes」に3月25日付で発表された。
ところが近年になって、血糖の利用を調節する器官として、意外にも脳が、中でも脳の中枢にある視床下部が重要であることがあきらかとなってきた。
例えば、先天的・後天的に脂肪組織が萎縮してしまう疾患である「脂肪萎縮症」の患者は重度の糖尿病を発症し、インスリンもほとんど効果がない場合がある。そうした例でも、レプチンを投与すると糖尿病が改善することが知られている。
レプチンは、脂肪細胞が分泌し脳に作用するホルモンで、脂肪萎縮症における糖尿病治療薬として臨床で用いられている。ただし、レプチンがどのように脳に作用し、糖尿病を改善するかというメカニズムは十分に解明されていない。
また、骨格筋は血糖を利用する重要な臓器だが、視床下部が骨格筋での糖の利用を調節することがあきらかになっている。これは、生理学研究所の箕越靖彦教授ら研究チームによる成果で、1994年にレプチンが発見されるよりも前から解明されていた。
レプチンが発見されてからは、レプチンと視床下部に存在する神経ペプチドが、視床下部による血糖調節機構を活性化し、骨格筋での糖利用を促し、糖尿病を改善することが、2009年に報告された。
戸田研究員らは実験マウスを用いて、レプチンによる糖代謝調節のメカニズムを、「Hyperinsulinemic-Euglycemic clamp法」という骨格筋のブドウ糖取り込みを解析する技術を用いて検討した。
その結果、レプチンは視床下部腹内側核ニューロンに直接作用してSTAT3とERK1/2を活性化し、これらのタンパク質がそれぞれ、骨格筋と肝臓におけるインスリンによる糖代謝調節作用(インスリン感受性)を高めることがあきらかになった。
脳の神経の配線パターンが大きく変わると考えにくいので、変化はニューロンとニューロンの接触部であるシナプス部位において起こると考えられる。この可変性のことをシナプス可塑性という。
レプチンは、視床下部腹内側核ニューロンを介して「弓状核POMCニューロン」を活性化すると同時に、POMCニューロンと「メラノコルチン受容体(MCR)」との間のシナプス可塑性を変化させると考えられる。つまり、ERK1/2は、POMCニューロンとMCRとの間のシナプス可塑性に調節作用を及ぼしているという。

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