尿糖チェックで糖尿病コントロール

2016年11月14日

1. 日常臨床でのSGLT2阻害薬活用について

編集部:2014年4月よりSGLT2阻害薬が発売されて今年で3年目となります。尿糖を直接排泄するという新たな機序が注目され、処方も増えているようですね。

加藤先生: はい、これまでの糖尿病治療薬は膵臓に作用し、最終的にはインスリンを出すことで血糖コントロールを改善するまたはインスリン抵抗性を改善するものでした。SGLT2阻害薬の大きな違いは、腎臓に作用する治療薬であるということ。膵β細胞を酷使するわけでもなく、インスリン分泌の有無を問わず、腎臓の機能そのものへの負担はありません。あくまでも、その作用は腎臓の近位尿細管内にとどまり、他の治療薬のメカニズムに影響を与えることもないため、組み合わせによってはより大きな効果を引き出すことが期待されています。

 健康な人では近位尿細管のSGLT2の働きによって血中グルコースのほとんどが再吸収され、尿糖は排泄されません。ところが高血糖状態では、SGLT2の再吸収能を超えた分のグルコースが尿糖として排泄されます。‘尿に糖が混ざる’という現象は、「糖尿病」という病名の由来でもあるわけですが、その現象はSGLT2の働きの限界を示すものと言えますし、多少なりとも高血糖の緩和に寄与しているとも言えます。

 SGLT2阻害薬はその名のとおり、SGLT2の働きを阻害する薬剤です。SGLT2の働きを阻害すると、近位尿細管でのグルコース再吸収が減り、その分だけ尿糖の排泄が増えます。その結果、高血糖が改善されます。

編集部:日常臨床で、この薬剤をどのように活用していますか?

加藤先生: SGLT2阻害薬はなかなか意味の深い薬で、いまだにいろいろと議論がされています。最近は副作用の話は「当初考えたより安全性の高い薬」として下火になり、もっぱら心不全の改善作用、腎保護作用、さらになぜこのような有益な効果がもたらされるのか、といった事に議論の中心がシフトしています。

当院では、下記のような患者さんへSGLT2阻害薬を処方しています。
1. 併用療法で上手くいかない場合の薬剤変更または追加療法として。
2. 肥満、いわゆるメタボリックシンドロームの症例において糖毒性をとるために。
(これは第一選択薬として用いることになりますが、当院ではこのような症例も近年散見されます。)
3. インスリン療法と併用で。
(低血糖予防のため血糖自己測定(SMBG)を強化するよう患者さんに指導しています。)

 高齢者への服用については、主治医がきちんとした方針で処方すれば特別の問題は無いと考えていますが、日本糖尿病学会のRecommendationに沿って使用するようにしています。当院で現在服用している最高齢者は74歳です。

 もともと脳梗塞はこの薬の服用と関係なくとも起こる疾患ですから難しい所です。脳梗塞に注意とは言え、EMPA―REG OUTCOME試験でも有意には至っていません。でも平均でやや多い方にシフトしていますので特にループ利尿薬との併用はなるべく避ける等注意が必要でしょう。もっとも服用中止後の脳梗塞が影響したという事実もありますので、使用中は安全性が高くむしろ中止後に脳梗塞が増えるのではないかという点は今後注視が必要です。

 また、この薬を服用していると生理的に糖質が欲しくなり食事が増えてしまうという現象がみられることが、ピサ大学でのデータでも証明されています。確かに空腹感で間食などが増える患者さんもいますが、ピサ大学症例のように平均250kcalも増えていることは当院ではほぼ皆無です。処方後の空腹感がでたときの食事・間食内容の指導が大切です。

SGLT2阻害薬と尿糖値の変化(薬による比較)

(データ提供:株式会社タニタ)

※ヘモグロビンA1c(HbA1c)等の表記は記事の公開時期の値を表示しています。

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